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大蛇を照らす花火を求めて
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福島県の奥会津に「大蛇伝説」の言い伝えが残る沼沢湖がある。その昔、薄暗い森に囲まれていたこの湖に、髪の長さが6㍍もある若い美女に化けて村人を襲う大蛇がいたという。そこで、当時の領主が村の安全を守るために家来と大蛇退治に挑み、大蛇の首を切り落とすことに成功。村人たちは怨念が残らないよう、大蛇の頭を埋めた湖畔に「沼御前神社」を建立した。沼沢湖がある金山町では毎年夏、この伝説を模した「沼沢湖水まつり」が開催されている。
東北で迎える4回目の夏、ぜひ見てみたい夏祭りがあった。その祭りを知ったきっかけは、地方紙に掲載されていた1枚の写真だった。
地域にもよるのかもしれないが、多くの地方紙には季節に応じたお祭りやイベントの記事が細かく掲載されている。いつ、どこで、どんなイベントがあるのか、ネットで調べるより新聞見た方が早くわかることも多い。そんなわけで、単身赴任の僕は休日の外出先を探すために重宝している。
湖に大蛇が現れ、討伐する祭りがあると知ったのは2年前だった。昼休みに会社で新聞を広げていると、湖面を這うように泳ぐ大蛇の写真を見つけた。「不思議な祭りがあるものだ」と感じた記憶がある。翌年は予定があり行けなかった。東北で過ごす夏は最後かもしれないという焦燥感もあり、今年こそ行ってみることにした。
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会場に着くと、飾り気のない素朴な字で「沼沢湖水まつり」と書かれた白い看板が掲げられていた。湖畔には特設ステージが設置され、縁のあるアーティストや地元のダンスクラブに所属する子どもたち、学校の先生たちで作るバンドなどが歌や踊りを披露していた。湖では和船の手こぎレースが開催され、高校生や大人が慣れない手つきでオールを動かしていた。
湖畔に広がる光景は、親の幼少期を写したアルバムに載っているような、昔懐かしい昭和な雰囲気が漂っていた。なぜそう映ったのか、理由はよく説明できない。
目当ての大蛇が登場したのは、その日の夜のこと。山陰に日が沈み、暗闇に包まれた湖面に、「ゴオォー」という咆哮を上げながら目を光らせた大蛇が現れた。同時に、夜空には花火が次々と打ち上げられ、大蛇の不気味な姿を照らし出した。
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夜に現れた大蛇は翌日、武士に扮した人々によって討伐されたそうだ。あいにく別の予定があったので見れなかった。
東北の山奥にある湖で、こんな大蛇伝説を模したお祭りが毎年行われていることを知る人々は少ない。いつまでも続いてほしいと、陰ながら願う夏だった。