吸血鬼の海を泳ぐおまえは、ヴァンパイアハンターにならなくてもいい
おまえの近所や職場、学校、インターネット、ベッドの下、いるだろう。たくさん吸血鬼がいる。
そう、たくさん吸血鬼がいる、この世には。
他人のエネルギーと時間を食料にして、悠久の時を生きる生き物だ。
かれらはおまえのハッピーなきもちとか、ヒッピーな決意とか、くらい部屋でひとり、モデルガンを握りしめてブラウン管にむかって引き金をひく貴重な時間とか、そういうのをぜんぶうばっていく。
かれらはそういうのをぜんぶうばっていき、ぜんぶ貪る。雨上がりのぶたみたいな顔で、そうする。
おまえはむかつくだろう。雨上がりのぶたみたいな顔は、むかつくよな。
"アンフェアだし、おれのヒッピーな決意はなにゆえ無残にとり上げられなくてはならない?"
おれは非常にながいきだから、非常にたくさんの生き物と話をした。だから、おまえもそう思うにちがいないのだ。そうときまっている。
しかしておまえは戦う。アンフェアな吸血鬼をゆるしてはならない。正当防衛だし。おまえはヴァンパイアハンターになる。おまえをまもるために。
おまえは吸血鬼どものハッピーな気持ちや、ヤッピーなライフとか、なんかよくわからない名前のワインとかの写真を撮ってみんなに見せるやつ用の時間とか、そういうのをぜんぶうばっていく。
おまえはそういうのをぜんぶうばっていき、ぜんぶ貪る。雨上がりのぶたみたいな顔で、そうする。
そうやって、かつてヴァンパイアハンターだったはずのおまえは、ヴァンパイアとなる。のどがかわく。非常にながいきする。そして、非常にたくさんの生き物と話し、かしこくなった気になる。人生は空虚で、そうときまっている。
◇ ◇ ◇
あるいはまだ人間のおまえは、吸血鬼たちの暴虐に腹をたてないかもしれない。おまえはやさしい。
やさしいおまえは、吸血鬼たちにこう言う。
"人のエネルギーや時間をたべるかわりに、野菜をたべなさい"
おまえはやさしいから、野菜をたべろという。おれは非常にながいきだから、非常にたくさんの生き物と話をした。だから、おまえもそう言うにちがいないのだ。そうときまっている。
しかしておまえは戦う。アンフェアな吸血鬼たちを、フェアな人間に変えてやろうとする。社会善だし。おまえはなんかピカピカしてるバッヂをつけたシェリフになる。おまえをまもるために。
おまえは吸血鬼どものハッピーな気持ちや、ヤッピーなライフとか、なんかよくわからない名前のワインとかの写真を撮ってみんなに見せるやつ用の時間とか、そういうのをぜんぶ変えようとやっきになる。
おまえはそういうのをぜんぶ変えようとするが、なんか吸血鬼どもはきく耳をもたない。おまえは髪をかきむしる。
"雨上がりのぶたみたいな顔しやがって"とおまえは言う。
そうやって、かつてシェリフだったはずのおまえは、ヴァンパイアとなる。のどがかわく。非常にながいきする。そして、非常にたくさんの生き物と話し、かしこくなった気になる。人生は空虚で、そうときまっている。
◇ ◇ ◇
あるいはおまえはあるとき気づくかもしれない。
"この文章を書いている、おまえも吸血鬼なのでは?"
数ある宇宙の真理のひとつにふれるかもしれない。
"おしつけがましく、空虚なでかあたま野郎"
そのように思うのかもしれない。
でも腹はたたない。おまえはもう、ちがう戦い方を知っているからだ。
あるいは他人の主食を変えようともしない。おまえはもう、そのバッヂに光が映らないことを知っているからだ。
ぎゃくにいえば、おまえはそれしか知らないのだ。
おまえはおまえのなかにあるただひとつの宇宙にふれ、他人をどうこういうのをやめる。
数ある宇宙の真理たちを黙ってながめ、うなずき、通りすぎる。
なかよくなれそうなやつには、ときどき、サンドイッチをわけてやる。
なかよくなれなさそうなやつには、だまってにこにこしている。じょうずに避けて通る。フェドーラをかたむけて、おとなみたいに。
おまえはヴァンパイアハンターにも、シェリフにもならなくてよい。もちろんなってもよい。
どちらにせよ、おまえはすこしひとにやさしくして、すこしだけおまえじしんにやさしくして、おまえの棺のなかで、だまってねむるのだ。