安野たかひろのマニフェスト医療政策パートはいかにして作られたのか
メン獄参加の経緯
チーム安野のマニフェスト医療パートを執筆したメン獄です。
メン獄はについて、ご存知ない方の方が多くいらっしゃるかと思います。
なぜこんなふざけた名前で活動しているのかの経緯は割愛させていただきますが、安野さんは元々メン獄の友達が安野さんの会社「MNTSQ社」で働いていたことがご縁でお話しさせていただくことがあり、それ以降メン獄の登壇イベントにゲストで来ていただいたりと、お世話になっている関係性でご
ざいました。
また、奥様のRinaさんはメン獄が執筆した「コンサルティング会社完全サバイバルマニュアル」を編集いただいた文藝春秋社にお勤めということもあり、実は安野さんが出馬される少し前から書籍のイベントの機会でお話しさせていただくご縁があったりしました。
そのような複数のご縁の結果、この度チームにリクルーティングをいただいたという経緯です。
メン獄というふざけた名前でインターネット上の活動はしているのですが、表の顔は医療系のベンチャー企業に勤めているサラリーマンです。
言ってしまえばそれだけの理由ではあったのですが、Rinaさんから「メン獄さん、安野のマニフェストの医療パートってかけますか?」と突然提案をいただいたのが約1ヶ月前。私が安野たかひろ都知事選立候補を報道で知りご本人に応援の連絡をした翌日だったかと思います。
日々医療従事者の方と仕事をさせていただいているとはいえ、ただのサラリーマンの私に果たして都知事選のマニフェストが書けるのか・・・男の一世一代の大勝負の時に、こんな半端な覚悟で助太刀してかえって安野さんの迷惑にならないか、等様々な葛藤はあったものの、Rinaさんの言葉の節々から滲み出る(いいからとっとと書けよ)の圧に屈し、謹んで任を拝命いたしました。
スーパー編集者の人に書かせる力は本当にすごい。
※本当に貴重な経験をさせていただいたので本当に感謝していますよ!!!
翌日にはメン獄に加えて、医師免許所有者でかつコンサルタント、という素晴らしい経歴を持ったメンバーが集まり、医療政策チームがあっという間に組閣されました。
インプットにしたものと作成にあたっての課題
政策作成にあたってはまずざっとこの辺りのインプットを行いました。
医師の働き方改革の推進に関する検討会各種資料
中央社会保険医療協議会各種資料
東京都保健医療計画(令和6年3月改定)全文
東京都保健医療計画推進協議会の会議資料直近数年分
東京の消防白書
その他関連書籍複数
一番最初に整理をしなければ、と頭を抱えた点は、「東京都」として医療に対して何をすることができるのか?という点でした。
具体的には国・都・市区町村レベルでそれぞれできることとできないことの境界線について、解像度を上げる必要がありました。
というのも、住民の医療費に関することはまず大前提として診療報酬加算をどのようにすべきかという話に従う必要があります。これは東京都で取り扱うアジェンダではなく、国レベルのアジェンダで2年に一度見直されるものです(今年も新たな見直しがありました)。
また、医療DXにおける最重要アジェンダとも言えるオンライン資格確認、電子処方箋、電子カルテ共通化といった話も、現在は厚生労働省やデジタル庁が中心となって進めている話であり、東京都として積極的に何かできる余地が現状あるのか?ということになります。
加えて、当然のことながら東京都は個別の病院やクリニックに対して、監督の権限は有するものの、個別の業務について指示をするような強い権限を持っている訳でもありません。
そのため、できることが、世の中で議論されている大きなアジェンダ(マイナンバー等)と比較すると地味なものになってしまい、マニフェストの目玉となるようなメッセージが作りにくいことが予想されました。
また、離島や奥多摩地区といった例外はあるものの、事実として日本において東京ほど医療が充実している都市はありません。
病院の数、医師の数も都道府県においてぶっちぎりの一位であり、正直他県に比べれば恵まれているにも程がある、と言わざるえない状況です。不便なことはあるかもしれないが、全国的に見ればズーーーーっとまし、という感じと言いましょうか。
国のレベルで見れば東京に偏在している医療のリソースを医師がいない・不足している地域に対していかに分配していくべきか?ということが最重要アジェンダです。
東京都だけがよくなるような方向性の施策を出すことは大義に背きます。
一方で当然ながら、都民の方の生活をより良くするためのマニフェストでありたい。このバランスをとったメッセージを作るのに苦心しました。
結論、今回のマニフェストにおいては
都として運営している#7119 #8000等の事業の拡張や有効活用
都としての健康管理アプリ
病院DX取り組みに対する補助金による支援
病院・医師会・消防・福祉施設等を横断する協議会運営におけるプレゼンス
東京都の中でできる施策として、何ができるかを考えつつ、医療リソースが潤沢である東京であるからこそ、全国の医療課題を解決するような新しい取り組みのモデルを示すべき、という方向性で内容を検討しました。
マニフェストはドラフト後、現役の医療従事者の方々、医系技官経験者の方々からのご意見を反映させて初版としました。
初版にこめた思い
毎日のように新聞にも書かれていることですが、日本は2040年−2050年の間に各地で高齢者社会のピークを迎えます。体力が低下した高齢者は医療リソースを若い世代よりも多く使うことが想定されるため、必然的に求められる利用のリソースは増えていきます。
一方、今年2024年は医療業界においては転換点になる年であり、医師の働き方改革が始まりました。これにより医師もこれまでのように気力体力で現場を支える、ということが「名目上」禁止された、という現状です。
つまり日本は医療の需要が確実視されている中で、医療リソースの供給の上限を定めた状態です。
これらのマクロな日本医療の背景が、医療の現場ではどのように顕在化しているのかを、メン獄は医師・看護師・医療事務の経験を持つ同僚や、現在も医療現場で戦っている方々からのヒアリングを重ねました。
働き方改革に実効性を持たせないともう医療は維持できない
働き方改革に関していえば、まだまだ改革の途中と言わざる得ない現状のように思えます。勤務状況に関するアンケート調査を実施し、自身の勤怠についての報告は行っているものの、先生方の立場からすれば実際に毎日ひっきりなしに病院に運ばれてくる患者を放って置いて帰るわけにはなかなか行きません。また、一言で医療といっても専門分野は細かく分かれており、医師であれば誰でも良いというわけではなく、患者さんの状態に合わせた医師を過不足なく配給するというマッチングが求められるのですが、そんなに都合よくその日運ばれてくる患者さんにあった先生を用意しておくことは難しいのです。
また、病院間の情報連携やカルテの共通化はまだまだ進まず、一人の患者さんを別の病院に転院させるためにも、病院ごとに異なる多くの個別の文書の作成が必要になり、また電話やFAXでの調整を先生本人がやらなければならない等、本来医師が集中すべき診察業務を圧迫しています。
現状ですでに限界まで働いている医療現場において、なんら具体的な実行策を示さずに「働き方改革を進める」とトップダウンでいったとしても、ではどうすれば良いのか?という話にしかなりません。
こういった不条理は東京に限らず日本全国で発生していることです。
そして、医師の数がぶっちぎりで多い東京において、この状況を打開できなければ、一体他にどこで解決し得るのか、そういった思いをこめて、東京をモデルとして、他の地域においても同様の施策が横展開が可能となるような、結果として全国的な医療の問題を解決する一助になるようなマニフェストを作成したいと思いました。
さて、医療を持続可能にするためには、需要と供給をバランスさせる必要があります。
病気になりたくてなる人はいませんから、需要を減らすことは難しい一方で、供給についてはまだ見直しの余地があると考えています。何故なら、医療はDXの宝庫といいましょうか、多くのアナログ作業が存在している場所だからです。
もちろん大前提として全ての先生方の業務をデジタル化して自動化することはできません。
医療の原則は対面にあります。
臨床とは「病人のそばにいること」です。
機械化自動化された医療によって簡略化できることは多くあるかもしれませんが、それによって患者の心身の尊厳が維持できないのであれば、それは医療の根底にある思想から離れてしまうのではないかと感じます。医療行為に対して、コスパとタイパという考え方を当てはめることは安全面はもちろん、国として、地域として患者に対してどのような心身のケアをどこまで提供する必要があるのかという正解の見え辛い倫理の側面からも慎重に議論しながら検討する必要があるでしょう。
しかし一方で、現在先生方の時間を拘束しているのはむしろそういった本来先生が時間をかけて行うべき診察とは異なる事務作業であることも多いのです。
例えば、ある患者さんをA病院からB病院へと転院させる際に、現在は先生が、転院先の病院に対してこれまでの経緯を説明するために過去の患者のカルテ情報を手作業で編集する必要があります。自分がずっと担当していた患者であれば良いですが、入院歴が長い患者の場合は前任の医師やさらにその前の担当がどのようなことをしていたのかまで調べる必要があり、なかなかに骨の折れる作業です。
この辺りの作業は膨大な情報量から、読み手の欲しい情報を編纂してアウトプットしてくれる生成AIとの相性が非常によく、東京として病院に対してソリューション導入を補助金等を支援することは先生方の負担軽減に寄与できるのではないかと考えています。
石川県七尾市の恵寿総合病院ではすでにUbie社と共同で生成AIを利用した事務負担軽減の取り組みが実施されており、一部事務作業の業務時間を最大1/3まで短縮した成果を発表しています。
別の例で言えば、ある程度病状が回復した患者は大きな病院からご自宅やリハビリ施設等へお返しする必要があります。病床には限りがあるため、重症状態にある患者のために、回復の目処がたった患者をいつまでも大きな病院のベッドに寝かせておくことは出来ないのです。
しかし、どこの施設であれば目の前の患者さんを受け入れてくれるのか、これもまた探すのが難しい。ただでさえ、施設の空き状況が情報として電子化されているわけではないことに加えて、どのような患者であればどこの施設が受け入れてくれるのか、この条件のマッチングが非常に大変なのです。
患者に前科があるような場合、施設の中には他の入居者やご家族への配慮から受け入れを拒否されるケースもあり、決定まで大変な時間を要することもあります。
このような現状も施設データベースの構築と運用を、現場の負担にならない形で構築することができれば、負担軽減できる場所はあるのではないかと思うところがあります。(もちろんさまざまなハードルは予期されるのですが...)
このような、生成AIをはじめとするテクノロジーで効率化・自動化することを、東京都として支援し、先生方の働き方改革に実効性を持たせた肉付けをする、これがメン獄にとって一番マニフェストで訴えたいメッセージでした。
住民向けのメリットをいかに訴求すべきか?
こういったメッセージは医療の現場にいる方以外の多くの住民にとってはリアリティのない話であることも自覚していました。
日常的な通院が生活の中にある高齢者や慢性疾患を持っている方にとっても、医療を提供する側がどのようなことに苦しんでいるのか、ということはあまりイメージがつかないのではないかと思います。ファミレスであってもコンビニであっても、バックヤードがどうなっているのか等、従業員以外知らないのです。
ということもあり、特に若年層や現役世代にとって切実な政策を提示することも必須でした。そのため現役世代に対して、医療のマニフェストに興味を持ってもらい、読んでもらうには、急性期医療を必然的にアジェンダとして入れる必要がありました。
メン獄が目をつけたのは、住民にとって医療との窓口であり、比較的日常の生活に近いもの。しかも東京都が運営する #7119と#8000でした。現在東京都では#7119 #8000というような医療に密接した事業を東京都の予算を使って運営しています。
それぞれの事業の目的はあるのですが、大まかにいうと、救急車を呼んでいいのかわからない時に、成人の場合は電話で #7119 小児の場合は #8000にかけると、看護師さんが病状をヒアリングして、救急車を呼ぶべきかどうかを判定してくれます。特に医療機関がしまってしまっている夜間休日においては非常に有効な仕組みと言えるでしょう。
しかし #7119と #8000は救急車を呼ぶ稼働かの判断や、医療相談は受けてくれるものの、実際の診察を受けたりお薬をもらうためには結局病院に行かなければなりません。
電話している身としてはその場で解決策が欲しいのですから、救急車を呼ぶほどではない場合はオンライン診療による診察をその場で受けて、お薬が夜のうちに手にできる方が便利でかつ安心です。
それができれば薬を飲んで安心して夜眠れますし、翌朝体調が悪い中、クリニックに長い時間並ぶ必要もありません。
オンライン診療については安全面の観点で導入に慎重な自治体がまだまだ多いのが現状ですが、とにかく薬だけ飲んで寝ていればなおるような軽症患者に対しては有効な側面はあるはずです。
こういった夜間休日の医療へのアクセス手段を残しておくことで、本来より重症な患者を受け入れる必要のある大きな病院に軽症の患者が流れ込んでしまうことを予防することができ、結果として医療関係者の負荷を下げることにも繋がります。
東京都として積極的に導入推進することができれば、これが実績となり、他地域への展開にも繋がるように思えます。
死に方に関する議論がタブーになっている日本
一部で怪しげと言われてしまった自分らしい生き方アプリ、については元々、自分がどういう人生の最期を遂げるべきなのかの意思をしっかりと周囲の人たちと話し合う場を作って欲しいという思いから書いていました。
(以前、お笑い芸人の小籔さんがモデルになっている「人生会議」が炎上した経緯があるため、ネーミングには非常に神経を使いました・・・。)
以前、急性期の大きな病院で働いていた看護師の友人が以前「癌はゆっくりと進んでいくから、自分も家族も少しずつ死を受け入れる時間を持つことができる。一番辛いのは事故で突然死を突きつけられた時に、家族がもう助からない可能性が高い状態の本人について、蘇生させるかどうかを突然突きつけられること」と言っていたのを今でも覚えています。
メン獄自身も、コロナの時に仕事で患者や患者家族、医療関係者の方と話ている中で、もう意識のないような状態の患者がいた際に周囲にいる人が、本人が人生の最期を自宅で過ごしたいのか、病院で過ごしたいのか、臓器は移植したいと思っているのか、蘇生はどこまでして欲しいのか、といったことについて本人の意思がわからずに困ってしまう、という場面に多く立ち会いました。
一部の蘇生行為については本人の体に大きな負担をかけてしまいますし、現実論として高額な医療費を用いることになります。もちろん本人が可能な限りの蘇生行為を希望している場合は迷う余地もありませんが、本人が蘇生を希望していない場合に、その本人の意思を知らずに蘇生行為をしてしまうことは、本人の尊厳を損ないますし、限りのある医療費分配の観点からも望ましくはありません。
人間である以上、いつかは死にます。これは避けられない運命です。しかし、どのように死ぬことが自分らしい死に方なのか、これはある程度選ぶことができます。
自身が希望する死に方をしっかりと周囲に伝えておくことは、いざという時に、周囲の人たちに過度な負担を強いないための優しさだということを、このマニフェストを通して伝えることができればと考えました。
この辺りの考え方は、高山義浩先生の著書を拝読し、参考とさせていただきました。
反省点
結局最後まで、国で何をすべきか、東京都で何をすべきかの境界については自分の中でこれだ!という基準が持つことができず、探り探り執筆することになってしまいました。これはもし参考になる書籍や文献をご存知であれば教えていただきたいです。
また、医療保険と介護保険の境界もそうですが、医療の隣にある介護という分野についての知識の収集が総合的に甘かったように思っています。特に、介護分野についてはさらにヒアリングを重ねた上で、より良い政策を盛り込むことができたと感じているところです。
まとめ
上記のように、今回のマニフェストは医療という観点では恵まれている東京都において、医療関係者方々の圧倒的な負担軽減を住民にもメリットが出る形で実現するをコンセプトとして、現役世代・先輩世代・医療関係者それぞれに向けたメッセージとして編纂した結果であったというのがネタバラシです。
Github上では本当にさまざまなご意見をいただきまして、嬉しく感じました。
メン獄自身がまだまだ不勉強な中、気づかせてもらった新しい考え方や仕組み、暮らしの観点をたくさんいただきました。
マニフェストについては一部の方からは世間知らず達の考える文化祭のようなもの、という厳しい批判をいただいています。そのような受け止め方をされている事実について、チームとしては真摯に受け止めなければならないと感じています。
一方で、そういった批判もこのように行動しなければ頂けなかったご意見だったとも思います。どうせ書いても読んでもらえないからといって、マニフェストを書かなくて良いのか?といえばそうではありません。
伝え方は工夫すべきですが、選挙は政局ではなく政策の議論をすべきだというのがチーム安野の基本的な姿勢です。
まずはこれからもこのように考えてきたこと、自分たちの思いを明文化すること、その上で、いただける意見に向き合うことをチームとして今後も実直にやっていくしかないのかなと思っています。継続する胆力がすべてですね。
またどこかで。