血に濡れた日記
■月■日
やはり今日も駄目だった
どれだけ上質な素材を使おうと出来上がるのは鉄屑同然のなまくらばかり
もっと研究せねば
■月■日
火の温度、鉄の打ち方、どれも完璧のはずだ
なのになぜだ?私の打った刀は名刀とは程遠いものばかり
一体何が足りないというのか
■月■日
妻と喧嘩をしてしまった
満足な刀を打てないために妻にあたってしまったのだ
なんて情けないのだろう、私をここまで支えてきてくれたのは妻だけだというのに
■月■日
また駄目だ
やはり私には才能がないのだろうか
いや、支えてくれる妻のためにもここでやめるわけにはいかない
■月■日
足りない
何かが足りない
私の刀には何かが欠けている
一体何なんだ
■月■日
偶然見かけた書物に興味深い記述があった
「魂が宿った刀」
これだ、私の刀には魂がなかったのだ
「生きた刀」それこそが私の作るべき刀だ
だが問題は刀に魂を吹き込む方法がわからないということだ
■月■日
探せど探せど見つからない
だが絶対に諦めない
私は歴史に名を残す名刀を打つのだ
たとえ何を犠牲にしようとも
■月■日
ようやく刀に魂を吹き込む方法がわかった
移し替えればいいのだ、魂を人から刀へと
私は今日で人であることを捨てる
■月■日
人とはこんなにもよく燃えるものなのかと正直驚いた
だが間違いない
この火なら確実にいい刀が打てる
■月■日
遠い親戚から古い友人まで呼び寄せて炉にくべた
だが、名刀を完成させるにはもっと必要だ
もっと人を集めなければ
■月■日
孤児に浪人、集められるだけ人を集めた
これならいける
遺灰は研磨剤に利用するとしよう
名刀の完成ももうすぐだ
■月■日
ついに打ち終わった
これまでの刀とは比較にならないほどの素晴らしい出来だ、出来のはずだ
なのにまだ何か足りない
妻が悲しそうな目でこちらを見つめている
■月■日
私は名刀を打つために人を捨てた
捨てたつもりでいた
だが捨てきれていなかったようだ
最後はお前の魂を刀に移そう
それで刀は完成だ
■月■日
この手で貫いた
血に濡れた刃が怪しく輝いている
完成だ
完成させてしまった
魂の宿る刀、吸血白百合
■月■日
声が聞こえる
もっと血を、もっと犠牲を、と
お前を生み出したことを後悔はしていない
こうなることも覚悟していた
さあ、貫くといい
私を地獄へ誘ってくれ
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