浮世は地獄であること
地獄というのはなんだ、と考えたとき、やはり理想が完遂されない世のことを言うと思うのである。芥川龍之介の『蜘蛛の糸』に地獄の描写があるが、犍陀多は自らが助かることばかりを考え、人を蹴落として平気でいる。そうして勝ち上がった者、負けて落ちてしまった者と分かれる。最終的には、犍陀多は、糸を切られ落ちるのであるが⋯⋯。これは現世でも、当然に同等ことが行われている。富める者と貧しい者。古狸性を備えた人間が、優しい人を騙し、犠牲にし、幸福を得ようとする。太宰治の『燈籠』のさき子は盗みを働