![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/139299819/rectangle_large_type_2_f089d3efe60775b17c5aac04cf386895.jpeg?width=1200)
『風博士』(坂口安吾)
風博士の遺書
諸君、彼は禿頭である。然り、彼は禿頭である。禿頭以外の何物でも、断じてこれある筈はずはない。彼は鬘を以て之の隠蔽をなしおるのである。ああこれ実に何たる滑稽!然り何たる滑稽である。ああ何たる滑稽である。かりに諸君、一撃を加えて彼の毛髪を強奪せりと想像し給え。突如諸君は気絶せんとするのである。而して諸君は気絶以外の何物にも遭遇することは不可能である。即ち諸君は、猥褻名状すべからざる無毛赤色の突起体に深く心魄を打たるるであろう。異様なる臭気は諸氏の余生に消えざる歎きを与えるに相違ない。忌憚なく言えば、彼こそ憎むべき蛸(タコ)である。人間の仮面を被り、門にあらゆる悪計を蔵すところの蛸は即ち彼に外ならぬのである。(本文より)
『風博士』という爽やかでどことなく思わせぶりなタイトルであるのに反して、「遺書」という重い言葉が早々に飛び出し、どなたかへ宛てた罵詈雑言が並びます。
語り手は「僕」、遺書を書いたのは「僕」の先生である「風博士」、上記の遺書の中で「禿頭」と連呼されているのは風博士のライバル(?)の「蛸(たこ)博士」で、登場人物は全てです。
坂口安吾が新進作家と認められるきっかけとなった初期の作品ですが、まじめに読もうとするとこの遺書の部分でふと手が止まり、「・・文学って何だっけ?」と思い直し、滑稽な論調をようやく受け止める心の準備ができます。
朗読教室ではこの類のテキストはこれまでありませんが、時折「怒る」「悪人になる」などのワンシーンが出てきた時にお伝えしてきたのが、
普段言い慣れない(別人格のような)言葉を朗読するのは、
思うように言えた時とても気持ちがいい
ということです。朗読の醍醐味と言ってもよいかもしれません。
「諸君、彼は禿頭である。」
レッスンでは、まじめにこのフレーズを朗読していただけたら、と思っています。90分では物語のラストまではいけませんが、オチも楽しんでいただきたいので、今回は一作品まるごとテキストをお渡しし、当日読めるところまで・・という感じで進めていけたらと思います。
2024年5月のブンガクコース、テキストは
『風博士』(坂口安吾)
です。爽やかそうで、爽やかでない物語。
ご予約をお待ちしております。