【#2】終わってみれば生徒の三分の一ぐらいは死んでるし一クラスぐらい人体改造してるし一人はロボットになってる【保健室登校】
一ヶ月ぐらい動画を投稿していない動画専門のVtuberがいるらしいな。
さすがになにもないのは申し訳ないし、noteで本紹介をすることで茶を濁していくぜ。
動画の方は作ってたやつがデータ壊れたり登場人物の名前を読み間違えたりしていたから進捗0に元通りだ。僕だけが新雪の野を持っている。
まあ、それではさすがに本紹介Vとしての名折れ。久々にnoteを起動だ。
動画では紹介する予定のない本を紹介しようのコーナー。
今回紹介するのはこちらの本。
『保健室登校』矢部嵩作。
収録作は『クラス旅行』『血まみれ運動会』『期末試験』『平日』『殺人合唱コン(練習)』
動画で紹介しない理由は『矢部嵩作品は前一度紹介しているから』。
僕、結構な作者読みタイプの読者だから、作者被りを気にしないと「矢部嵩、白井智之、平山夢明、矢部嵩、平山夢明、森博嗣、平山夢明、小林泰三、矢部嵩、白井智之、大槻ケンヂ、清涼院流水、白井智之、西尾維新、矢部嵩」って感じになりそうなんだよな。そういうとこ、気を付けていこうぜってわけだ。
さて、今作。
矢部嵩の二作目にあたるこの小説だが、一体どんな小説なのかと言えば、説明が非常に難しい。小説としての完成度は高くなく、しかし低くなく、常識的かと思えば非常識的で、笑っていると思ったら人が死んでいて、しんみりしているなって思ってたら宇宙との交信を試みていて、前を人が歩いていると思ったらそれは人の下半身が上下に重なっている人で、頭だと思っていたのは風船だったみたいな小説で、聞くより読むが易し。引用文を重ねていくぜ。
工作に使ったはさみ数丁か何かで頭を切り開いたらしく(壊れたはさみと髪と頭の欠片がごみ箱に見えた)、頭蓋を手にした状態でテレビ台の足元に人形座りさせてあった。露出した脳みその皺には適当に線が差してありそれがテレビと繋げてあった。(『クラス旅行』)
「裸足でガラスでも蹴ったの」
「実はふんふん」
「いじめか何か」
「そう思いますか」(『血まみれ運動会』)
折れた骨が皮膚を飛びだしていると駅子は最初思ったが肉は肉で足の形をとどめずぐちゃぐちゃに裂けてそっくり返っていた。バナナの生ごみのような状態の床子の足を見ながら例えば爪が剥がれた時は取れた爪ではなく本体の指を手当てするけれど折れて大きく外れた骨とぐちゃぐちゃの肉とこの場合どちらが足の本体だろうと駅子は考えた。飛び出た脛骨に雨が当たって骨の白さが現れた。(『血まみれ運動会』)
踏み出した時に泥で滑って爪先に床子の足を引っかけてしまった。
床子の膝から下が宙を舞った。保険の先生が空を見上げた。
先生の頭上を越えた床子の右足は三年生の足元までごろごろと数メートルも転がった。校舎の壁に血が跳ねて、すぐに雨で洗い流れた。先生と三年生は驚いていた。駅子もびっくりした。(『血まみれ運動会』)
「足になんかついてるよ」「え何」「取る取る動かないで」クラスメイトの女子は斧を取り出し女子のつま先を上履きごと切り落とし、本人に渡しました。「取れたよ指。ついてたよ」(『血まみれ運動会』)
2田君がバトンと思って拾ったのが自分の足だったので待てこらといいながら宣野さんは這って2田君の背中を追いました。凄まじい匍匐前進でした。(『血まみれ運動会』)
「思うに先生は昼べのテストだよ。先生は昼べの今後と何も繋がらないよ。だから先生に何しても昼べはよかったんだと思うよ。いくら一緒にいても何話しても、失敗したって間違ったってどこにも着かないし何に繋がりもしないと思うよ。どうしたって大丈夫なんだよ。取り返しのつかないことはなにも起きないんだよ」(『期末試験』)
「触って」
「何これ」
「ゴキブリの頭」
「うわあ!」
駅子が仰け反ると手首のスナップでゴキブリの頭部が宙に飛んだ。(『殺人合唱コン(練習)』)
ゴキブリの頭で驚くということは、矢部嵩小説の中ではわりと一般人であることは間違いない。他の小説だったら飯の中に虫が入ってても普通に食べるし、彼女は一般人だ。
まあそんなわけで、こういう感じの小説だ。ホラー小説というのはどこまでもどこまでも泥の中に体を沈めて泥の重みと苦さと苦しみを味わうようなものなんだけれども、この小説は不意に一瞬だけアイスクリームをくれる。そのアイスクリームはとても甘くて美味しいんだけど、ふと自分の手を見てみると血と肉と吐瀉物が引っかかっていて、ああ。アイス食ってる場合のシーンじゃあねえんだよな。と思いだす。
でもそれはそれとしてアイスは美味いんだよな。アイスの味は口の中に残り続けて、それからどれだけ口の中に泥が入り込んできても、アイスの味も混じる。それはストロベリーだったりチョコレートだったりする。だからもう気持ち悪がればいいのか笑えばいいのか泣けばいいのかよく分からなくなって、でも小説を読み終えたときふと空を見上げたら虹がかかっていて、それがとても綺麗だから「まあ、いっか」って気分になる。なるな。
でもなっちゃうんだよなぁ。虹が綺麗で皆で頑張って旅行に行って二人が両想いになったから、まあいっかなぁって。
結果的にこの学校生徒殆ど死んでるし校長先生デスマラ(デスマラソンの略。校長になったら最後、頭のおかしな生徒か先生に殺されるので人員補充マラソンをする必要が発生する)してるけど。
この小説はいっぱい人が死ぬ小説だ。
罪悪感があるようでないようで死への恐怖があるかもしれないしないかもしれない小説だ。
また同時に『一生懸命に頑張る人』を応援する小説であり『一生懸命に頑張れない人』たちが保健室に集まっている話でもある。
中学最後の運動会。中学最後の合唱。上手くいっていない恋。クラスの団結。流行。
どんなものにも一生懸命に頑張る人というのはいて、同時に一生懸命に頑張れない人もいる。
最後は有終の美で飾りたい。終わりが良ければ全てが良い。どうせ最期に見るなら土砂降りの雨じゃあなくて虹が見たい。
だから皆一生懸命に頑張る。
リレーに負けたくないから足の遅いやつを襲って突き落とすし。
恋を成就させるために顔を削って校長殺して。
合唱で優勝するためにうどんを吐いてトラばさみで足を挟んで人体改造を施し、喉を楽器にする。
明らかに間違っている。頑張る方向性が960度間違っている。
それでも彼らは頑張っている。
そんな彼らを『頑張れない人』が保健室から眺める。
皆、頑張れ!
皆、頑張ろう!
でも頑張る方向性については要相談!
頑張れない人からのアドバイスだ!
そんなわけで『保健室登校』
頑張れる人、頑張れない人。なんかよく分からないけど脳みそをかき混ぜられたい人。え、良いことここで言うの? って混乱したい人。人がいっぱい死ぬ本が好きな人におススメだ。
ちなみに僕はこの中だと『期末試験』が一番好きってぎゅっと抱きしめたらびゅっと血が噴きだした。
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