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江戸の配管街

※これは実際に見た夢をお話風に書いていったものです。ちょい怖いです





そこは、古びた木製の長屋が密集する住処だった。


あちらこちらで風呂や繊維を茹でる煙がモクモク立ち昇り、決して美しいとは言えないはずなのだが、入り組んだ路地にはセピア色に錆びた独特の配管の交差が連なって不思議と魅入ってしまう所でもある。


そこには乳飲み子、腰の曲がったおばあさん、働くふんどしの若人、頑固そうな親父など、皆着物やら着ているからさしずめ江戸時代だろうか、個々が個々なりに生活、している、らしい。

・・知っている土地のはずなのに、ここは初めて見る場所だ。



ここまで見えていて、私にはその景色が瞬きの間でした映らなかった。





「はあ、はっ、あ、」


人や建物が私を避けるように、小さい虫1つかすりもせず必死で逃げている。


その身体はまるで羽の様に、軽く、早いものだったが、理由も分からない。



まるで洗練された様な動きに何で、なんて思わない。ただ、ただならぬ殺意でずっと自分の兄弟に追いかけられていることに違和感も感じない。


殺される、と焦燥感だけが今のわたしを捕らえて離さない。



曲がって、走って、曲がりくねって、飛んで、壁を伝って、次第に長屋が裏路地のトタンに囲まれるようになると、いきなり現代味が出てくる。まるでどこかの廃墟でしかないその場所も、江戸時代から来た違和感すらやはり感じない。


「(・・・もう大丈夫か)」


少し息切れしたしんどさを感じながら、追っての気配を感じなくなった私は走るのをやめて路地から漏れる光の方へ歩みを進めていく。何だか、あそこはとても温かい。


あそこに行けば、大丈夫な気がする。きっと、大丈夫などと安心感を勝手に感じるも、足は吸い寄せられる様に光の方へ進んでいく。


「・・・・・ーーーーーーーー。」



もうすぐ出口だ。いや、入り口だろうか。


そう思った時には既に目の前にいっぱい、聖域の様に眩しく、輝かしいばかりの美しい花が咲いていたと思う。今まで通ってきた街はあまりにも昔ながらで、錆びついていて、こんな所があろうとは全くもって思えなかった。


それに、そこには聖女のような、うす紫のフリルがついた、真っ白なドレスの少女が佇んでいたのである。



とても残念なことに、やさしい表情をした少女の声は聞けなかった。



気付くと、自分はまた古臭い配管の道を抜けて、学校の様な場所で走り回っていたのだから。



昔会ったことのある顔を通り過ぎたり、他愛のない話や噂を耳にしながら、昔とは違い全く気にしない私は俊足で通り過ぎていく。

何か、冷え性の自分からは考えられない温かさが手が、少女と出会ってからずっと感じられている。これが、「愛」なんてものだろうか。そういえばさっきの体育館では新郎と隣に座った。


着替えてトイレに行くと、急に学校の建物が旧校舎の様にさびれている。これは夢だと薄々気づいてはいたが、速さや温かさ、体に感じるものがあまりにリアルで、焦燥感もずっと続いている。


と、ずっと考えに浸れる訳もなく、殺気が感じられて人気のない4階を走り抜ける。再び配管通りに逆戻りだ。


この思いから逃れたい。焦燥感から逃れたい。違和感を感じない恐怖感が、自分を徐々に蝕んでいく。体力が削られていくほど、行動力は落ちる。元々そんな体力はないから、隠れながら逃げるしかない。


安堵感を感じたい。さっきの聖女と会いたい。この今感じている手の温かさがもう少し、続く様に。





心に決めた私は、くるりと来た道を戻り、恐怖を感じながらも『聖域』を目指す。


安らぎたい。逃れたい。逃げ切りたい。



心は高ぶっていく。途中、もの凄い目つきで見知った顔がナイフか包丁かを投げたか、振り回してきた。その顔は、知っているのに知らない顔だ。


慣れた様に避ける。ギリギリの所で、交わしていく。



何やら、恨みを買ったようだ。恨み言が投げられている。



私はただ、聖域に行って、聖女と会いたいだけなのだ。


よく刃先を見て交わしていくと、逃れながらも聖域の光は見えてくる。開けた場所で、輝かしい花々は、変わらず自分を受け入れてくれるかの様に、踏みしめても殺意を感じない。



温かさが、欲しい。聖女は、どこだろう。




追いかけてきた兄弟の手が止まり、殺意は直に自分に向けられる。




ふと、そこで私は聖女がいないことに気づく。





手が、まだ温かい。





やっとその時、目線を降ろして右手を見ると、鮮血がとめどなく溢れている。いや、べったりとついている。




小説に出てくる様な、つややかなブロンズの髪、聖マリアの様な優しさ、温か


さ、は、




「         」




私の右手に、ずっとあった。




私がずうっと、引きずってきたのだった。




「・・・そうか、私が殺したのか」





兄妹の顔は歪んで、もう私の知っている顔ではない。





ひとりごちる様に、ぽつりと自分が言う。




「私が、殺人鬼だったんだ」





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