いつかトトロに会える日が来ると、大人になっても信じている
好きな映画は?と問われると、迷わず「となりのトトロ」と答える。
初めてこの作品と出会った、小学校にあがる頃から、ずっと。
恐らくほとんどの人がタイトルくらいは知っているだろう、そして大体の人がちらりと見たことくらいはあるだろう、そんな言わずと知れたスタジオジブリ 宮崎駿監督の名作である。
都会から田舎へ引っ越してきた草壁家の元気な姉妹(姉 サツキ 妹 メイ)と、その両親や周りの優しくあたたかい人たちとの日々が、日本の里山の原風景と共に描かれている。そして、子どもたちだけが会える森のヌシ、トトロや、家に住むススワタリ(通称まっくろくろすけ)、巨大なネコのバスといった、正体不明だけれどわくわくと心惹かれるキャラクターたちと、姉妹の関わり合いもこの作品の醍醐味である。上映は1988年だが、今でも夏休みが始まるくらいの時期に大体毎年金曜ロードショーで放送されている。
かくいう私も金曜ロードショーで放送されたものを親がVHSに録画し、何かの折に見せてくれたことがこの作品との出会いだった。
物語は、お父さんが運転する引っ越しトラックの荷物の隙間から、サツキとメイが顔を出すシーンで始まる。そこからなんだかわくわくした。
うららかな春の日、田んぼが広がる未舗装の道を走り、一家はお化け屋敷のようなオンボロの家にたどり着く。その辺りからもう、幼い私の眼は画面に釘付けだった。
「こんな所に行ってみたい」。直感でそう思ったことを今でも覚えている。
まず、レバーの付いたポンプ式の井戸にすごく興味をそそられた。お水をこうやって汲むの!?めっちゃ面白そう!!幼い私はいつの間にかこの作品の世界に入り込んでしまった。
かまどがある広い台所も、ひょうたん型の浴槽があるお風呂も、サツキとメイがおはぎを頬張る縁側も、出てくるものすべてが憧れだった。現代とは違う、もう少し古い時代の田舎の暮らしに、胸がキュンとなった。
大人になってから気付いたことだが、昔からとにかく自然豊かな田舎で暮らしたいと熱望していたり、古民家を見るとテンションが上がったり(そして今ではいつか住みたいという夢を持っていたり)するのは、この作品の影響なのではないかと思う。田畑が広がるのどかな里山の景色や、トトロが住む森の様子、春から夏にかけての生き物たちの活動的な様子が各シーンで色彩鮮やかに描かれていて、アニメーションでありながら、本当にこんな場所があるのではと錯覚してしまうほどだ。
初夏の夜に田んぼに響くカエルの大合唱や、夏の夕暮れのヒグラシの声などにノスタルジーを感じ、心奪われてしまうのも、よく考えるとこの作品で同じようなシーンを度々見てきたからだ。
作中で、こんなシーンがある。
メイがトトロと初めて出会った後に、サツキとお父さんを連れてトトロの住処になっている大きな木にたどり着く。そこにあったはずの穴がなく、そのときはトトロに会えないのだけれど、その木を見上げてお父さんがこう言う。
「立派な木だなぁ。きっとずーっとずーーーーっと昔からここに立っていたんだね。むかーしむかしは、木と人は仲良しだったんだよ。」
幼い私の心に、このセリフが深く刻まれた。素敵!私も木と仲良しになりたい!!トトロに会いたい!!そんな思いを恐らく今も持ち続けているから、トトロを彷彿させるような里山の風景やざわざわと森に風が吹き抜ける音、昔ながらの大きな古民家などが大好きなのだと思う。
このように「私がとなりのトトロを愛してやまない理由」を紐解くと、この作品は自然と人との在り方を本当に丁寧に描いていると感じる。
トトロからもらったどんぐりを植えて、二人の夢の中で大きな木に育っていくシーンでは、小さなどんぐりがいつしか森になるという、命の逞しさがじんわりと伝わってくる。サツキとメイの面倒をよく見てくれる近所のおばあちゃんが育てる野菜は、お天道様をいっぱい浴びてぴかぴかしていて、川で冷やして食べるところを見ると元気が出た。窓を開け放ち、蚊帳を釣って寝るシーンでは、この時代、外と家との境界線が今よりももっともっと曖昧だったことがわかる。そんな静かな夜に、トトロは森の木の上でオカリナを吹く。まるでサツキとメイが生きる世界を、穏やかに包むように。
自然を慈しみ、自然に守られ、恵みを享受しながら生きてきた人々の暮らしが随所に描かれていて、私はその時代を生きていなかったはずなのに、なんだか懐かしく感じる。
お父さんが言う通り、昔は自然と人がこんな距離感で調和して暮らしていたのだ。私たちの心の中には、その時代を生きた人たちの魂が息づいているのかもしれない。
こんな風に、とにかく『となりのトトロ』が描く世界が好きだ。小学校低学年の頃は熱を出して学校を休むと、これさえあれば機嫌が良くなると、必ずVHSが再生されてきた(いや、熱が出なくても度々観ていた)。恐らくほぼすべてのセリフを暗唱できるほどに、何度も。
(そして大人になってみると、同じようなトトロ教信者は一定数いるらしいとわかった。)
実は、我が家のテレビに付属したDVDレコーダーが長らく故障しているために、2歳の息子とこの作品を楽しむことはまだ叶っていない。どこか懐かしくて不思議で、とってもかわいいこの世界は息子にどう映るのだろうか。とても楽しみである。
ちなみに、息子の保育園の砂場には井戸がある。大きなレバーを上下に動かすと水が出てきて、私は「となりのトトロに出てくる井戸と同じだ!!」といたく感動した。息子もこの井戸を気に入っていて、なんだか嬉しい。
オープニング曲である「さんぽ」も知っている。中盤の「さかみち、トンネル」のところが好きなようで、そこだけ歌う。
願わくば、息子と『となりのトトロ』について語る日が来ればいいなと思う。そして、豊かな自然に心躍らせ、小さなワクワクを大切にする純真さを持っていれば、息子と共にトトロに会える日が来るのではないかと、私は密かに信じている。
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