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【子連れ旅行記その④】息子と海遊びと神威脇温泉

前日からの雨はすっかり止んで、よく晴れた朝だった。そういえばもともと旅行中に台風が接近する予報で、飛行機が欠航すると困るから1日前倒しで島を出た方がいいかも、なんて夫と話していたのはいつのことだったか。たまに見るスマホ通知によると、台風は私たちの旅に間に合わないらしく、快晴の奥尻島を満喫できそうだ。願えば晴れるらしい。

この日は前日買い出しをした食材を使って、家で過ごす朝のようにお味噌汁を作った。外食が続いていたから、久々に馴染みのお味噌汁が美味しい。息子もいつも通りお味噌汁をがぶ飲みし、きゅうりとミニトマトを頬張って嬉しそうだ。余ったお味噌汁はこれから自転車で島一周にチャレンジする女の子たちに食べてもらった。

さて、何をしようで始まる幸せな一日も今日までである。この日は天気が良く気温も上がりそうだったから、家族3人で海に行くことにした。宿から道路を渡るともうすぐに海だ。

息子は初日のカヤックでほんの少しだけ海デビューを果たしたけれど、広い砂浜を歩いたり、寄せては引いていく波に触れたりするのはこの日が初めてだった。初日と同様に海にびっくりしたようで、身体が浸かると固まっていた。私も海に入るのはものすごく久しぶりだ。真水とは違う強い浮遊感が心地よかった。水泳は苦手だけれど、こんな風に好きなようにぷかぷか浮かんでいるのは気持ちがいいなと思った。ただ、水が少し冷たかったのでそこそこに浸かって満足し、そこからは砂遊びになった。
息子は保育園でたくさん砂遊びをしているからか、砂浜は気に入ったようだ。宿で借りたスコップで砂を掬い、バケツに入れる作業を繰り返している。
私と夫はトンネルが大好きな息子のために、砂山をつくり、山の下にトンネルを掘る作業に勤しんだ。その昔、公園の砂場で爪の先を真っ黒にしながらよくこんな風にトンネルを掘っていたなぁ、と懐かしくなった。
ここの砂はかなり石が多く、恐らくトンネルの建設には不向きである。掘るたびに上の壁面が徐々に崩れ、最後は山が崩壊してしまうのを何度か繰り返した。無理やわ~と言いたいところだけれど、小さな現場監督は「トンネル!トンネルつくるの!」と手厳しい。いつか保育園で年上のお友達からトンネル建設講座を受け、両親にも共有してくれることを期待したい。
何度目かの建設工事でやっとトンネルが開通した。息子は満足したようだ。

気が付くとお昼でお腹も空いたので、宿に戻ってチャーハン風のものをつくった。冷蔵庫に残るありあわせの野菜と宿で冷凍保存されている行者にんにくを使えばそれなりのものができるはずだったけれど、いろいろと失敗して雑炊風のべちゃべちゃご飯ができた。それでも晴れた海を見ながら食べたらなんだって美味しいから不思議なものだ。息子はその後すぐに寝入ってしまった。


雑炊風炒飯(笑)

とても静かな昼下がりだ。夫もしばらくすると同じくお昼寝体勢になり、私はぼんやりと外を眺めながら、ひとりでいろんなことを考えた。こんなに思考がのんびりじっくりと働くのは随分久しぶりだ。
学校が早く終わった宿主ファミリーのお子さんたちが、宿のヘルパーの女性と共に海に駆けていくのが見えた。ここの子どもたちは本当に海が大好きなようだ。まさに大自然の中で駆け回り、大きな声で元気いっぱい。6年前夫が初めて来島したとき、当時もっと幼かった子どもたちは夫に随分と懐いていたらしく、それもあっていつか来たいと思っていた。もちろん子どもたちは夫のことを覚えていなかったけれど、私たちにもあまり物怖じすることなく、環境に揉まれながら健やかに育っているなあと感心するばかりだった。こちらの勝手な願いだけれど、どうかこのまままっすぐに大きくなってほしい。

夏の終わりとは思えない灼熱の太陽が少し西に傾いてきた頃、お昼寝から起きた息子は「うみいく。とんねるみる。」と言った。どうやらさっき(親が)建設したトンネルの具合が気になるらしい。もう一度水着を着て、海岸に向かった。
朝よりも潮が引いていたからか、トンネルは無事だった。崩壊しそうな様子もない。トンネルの無事を確認した小さな現場監督は、夫に抱っこをせがみ、自らの意思で海に入った。午前中はどちらかというと早く出たがっていたが、親と一緒なら楽しいものだとわかったのだろうか。抱っこから離れる様子はなかったけれど、夫と全身を海にじゃぶんと浸けてにこにこだ。顔に水がかかってもきゃっきゃと笑っている。今日一日だけでもこんなに大きく成長してくれたのか、ととても嬉しかった。
海遊びだけでなく、息子は奥尻島に来てから本当にのびのびと過ごした。宿主さんに懐き、泊まり合わせた2人の女の子にたくさん絵本を読んでもらい、ゲストハウスの中を走り回り、大きな声でしゃべり、ご飯をたくさん食べて、夜はぐっすり寝た。そんな息子の姿を見られただけでも、この島に来て本当によかった。

海からあがって、宿の近くの神威脇(かむいわき)温泉に入った。初日から通っているここに来るのも今日が最後だ。茶褐色で塩味の強いお湯は少し熱く、とろみがあって、浸かっていると肌もしっとりとしてくる。
この温泉では宿主ファミリーの奥さんと娘さんたちと毎日顔を合わせた。この日も一緒になって、お湯に入りながらいろいろな話をした。奥さんも移住者なので、きっと奥尻島での暮らしに戸惑うこともあっただろうけれど、今の暮らしをごく自然に受け入れ、宿主さんやお子さんたちと存分に味わっている感じがなんだかすごくいいなと思った。そして熱い宿主さんをいい具合に冷静に見つめ、温かく応援しているのが感じられて、なるべくしてなったご夫婦だなぁ~~とただただ感心した。娘さんたちももちろんお母さん大好きで、会うたびにとてもほっこりした。この温泉で過ごす時間が、毎日楽しみだった。
息子は夫と私が毎日交互にお風呂に入れた。この日は夫担当で、息子は3日目にして熱いお湯に慣れたのか、広い浴槽に身体を浸けられたという。私と一緒に入ったときはふくらはぎまで浸かって足を真っ赤にするのみで終わっていたから、これもまた成長だ。
お湯が熱く効能が高いからなのか、お風呂上がりの汗が止まらない。鄙びた建物も味わいがあって、宿と同じように、この旅で大好きな場所になった。

夜は夫と一緒に宿で豚汁をつくった。海の見える景色が少しずつ暗闇に変わっていく。女の子たちは無事に自転車で一周し、今頃お寿司を味わっているはずだ。息子が寝て彼女たちが戻ってきたら、皆で語りたいなと思った。
奥尻島で過ごす最後の夜が、ゆっくりと更けていく。


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