司法修習で使える書籍(起案対策と日々の実務修習に向けて)
はじめに
こんにちは、76期のときわというものです。
2023年12月に晴れて司法修習生考試に落ちることなく無事に弁護士登録できたのですが、分野別実務修習や集合修習で実施される起案の対策で私が使用してきたテキストについて、これから司法修習生になる人向けに備忘録として遺しておきたいと思います。
とりもなおさず白表紙と導入修習で配られるプリント類をしゃぶり尽くすことを忘れないこと
これから司法修習生になる人にはまだあんまりイメージが湧いていないかもしれませんが、実務修習に解き放たれる前に、導入修習というものがあります。
カリキュラムをこなす上でも、修習開始前に配布される白表紙、これらを徹底的に読み込み始めていく必要があります。
特に重要な白表紙を上げておくと、民裁ならば『事実摘示記載例集』『事例で考える民事事実認定』、検察ならば『検察終局処分起案の考え方』、刑裁ならば『刑事事実認定ガイド』、民弁ならば『民事弁護教材 改訂 民事保全(補正版)』や『民事弁護教材 改訂 民事執行(補正版)』というように、二回試験のその日まで徹底的に何周もするテキストがあります。
それから、導入修習中に民弁講義で執行・保全についての講義や、和解条項の作り方、法曹倫理についての講義がありまして、ここで教官がレジュメを配布すると思います。このレジュメに書いてあった内容が二回試験や集合修習中の即日起案の小問に登場してきます。ですから、白表紙もさることながら、これらのレジュメもしっかり復習しておく必要があるわけです。
これらを最低限しゃぶっている上で、以下に挙げる書籍を使うと修習の成果が出るのではないかなと思います。
受験時代から使ってる基本書は捨てるな
司法修習生に採用されるには当然司法試験に合格することが必要ですが、あなたが司法試験に合格するために、いえ、その前の予備試験合格に使用してきたテキストや基本書があると思います。その中で、民法・民事訴訟法に係るもの、刑法・刑事訴訟法に係るもの、民事実務基礎・刑事実務基礎に係る書籍はそのまま使えるのでやった受かったぞというので捨てずにとっておきましょう。そいつら、まだ使えます。
受験生に人気な書籍で例を挙げるとすれば…
基本刑法・リークエ刑訴・大島本・要件事実マニュアル・刑事実務基礎の定石…
https://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641179332
https://www.koubundou.co.jp/book/b272798.html
ここらへんの書籍、特に起案との関係では大島本でやってきた要件事実はほぼ完璧に吐き出せるレベルが要求されます。
ここの大島本の内容を何度も周回しては、別途司法修習生に採用されることで貰えるいわゆる白表紙の一つである事実摘示記載例集も別途周回しまくって要件事実問題の対策をするというのが昨今の二回試験対策、ひいては日々の起案の対策になると思われます。
もっとも、私がこないだ受けてきた考試の民裁の問題では、大島本にも事実摘示記載例集にも特段載っていなかった再売買の予約というトピックの要件事実を記載させる内容の出題がありました。それも、再売買の予約の位置づけは、どうやら予備的請求原因として主張するのが正解であるらしいと言われています(試験問題も記録も試験会場で全て回収されてしまうので検証のしようがありませんが…)。
そうした少し高度な内容の出題もちらほら出ていること、導入修習や実務修習中の模擬裁判、ひいては集合修習中の模擬争点整理等の実務的な演習では、やはり要件事実マニュアルレベルのことを扱うことになる局面が少なくないので、手元に置いておいて損はないと思われます。
それから、例で挙げさせていただいた5つの書籍の中で、ひときわ異彩を放つのは、唯一予備校本である刑事実務基礎の定石という書籍でしょう。
使ったとしても予備試験対策までだろうと多くの人は考えるかもしれません。しかし、集合修習・ひいては二回試験の刑事系3科目では、それぞれ手続問と呼ばれる小問が出題されます。
具体的には、予備試験の刑事実務基礎の設問で問われるような問題が出てくるような設問です。
これらの対策をする上で、刑事実務基礎の定石は直前期に手続問の対策時間に思いっきり時間を割けないような局面で威力を発揮します。
被害者対応や、示談の方向性についてどのように考えるか、接見での対応というより実務的な問題については日々の起案の解説や後述する刑事弁護ビギナーズで対策をする他ありませんが、例えば接見禁止の要件に該当すると判断した理由、勾留の要件を満たすかといったふうな設問であれば、この書籍に載っていることで十分対応することができます。
実際、試験会場でこの青本を直前に読んでいる受験生が複数名いたので、間違いなくまだ使える書籍だと確信しました。
修習生時代に買ってそのまま実務に持っていきたい書籍
先述の受験生時代には買い揃えてはいないものの、修習でやることの理解の解像度を上げる上で有用な書籍(白表紙除く)を紹介しておきます。
民裁・民弁で使えるもの
まず映えある1冊目は圓道至剛先生の『企業法務のための民事訴訟の実務解説』というやつです。
第一審手続のはじめから終わりまでの解説が載っています。企業法務のためのと銘打ってはいますが、普通に修習で見るような裁判手続でも通用する内容が記載されています。将来的に弁護士になった場合には自分の本棚にそのまま置けるようなものです。
次に紹介しておきたいのは、『ステップアップ民事事実認定』という最高裁判事を務められた方々も共著者として参画している本になります。
民事事実認定についての手法は、導入修習や実務修習の即日起案、その後の集合修習の起案でも何度も何度もその型を教えられるので、その通りに書けばいいのですが、そこでの事実認定というものは、様々な経験則をもとに成り立っているものです。
中には、裁判官にとってはあるあるな経験則であっても、修習生にとっては必ずしも一般的ではない感じの経験則というものがあることは少なくないでしょう。そうした経験則の方向性(もちろん証拠に照らしてその典型的な経験則が当てはまらない事案であることは往々にしてあるので、結局最後は自分が論理的に説得できるものとして正しいものを自分で選ばなければならないわけですが)を掴む上で有益なテキストだと思いました。
以上の2冊を、要件事実マニュアルや白表紙と含めて民事裁判修習で活用できるといいと思います。もちろん民事弁護修習にもいい影響が跳ね返ってくるでしょう。
一方で、民弁の起案対策で使えるものとしては、以下の書籍が役に立つと思われます。
まず1冊目は『実践演習 民事弁護起案』という書籍です。
https://www.kajo.co.jp/c/book/06/40883000001
著者は皆司法研修所の民事弁護教官の経験者です。民弁の起案は集合修習段階になって本格的にゴリゴリ書いて添削を受けることになるのですが、このときに訴状・答弁書・準備書面の起案を必ず1回は経験します。
その時に、典型的な事案をもとに、どのような形でこれらの裁判文書を一方当事者の立場に立って書くのか、文章の型や全体的な論理展開のあり方、文量を掴む上で非常に優秀な書籍です。
ここに載っている模範的な訴状や答弁書などの起案例をそのまま頭に叩き込んでいるだけでも自ずと起案でそれなりのものが出来上がってきます。
司法研修所の売店でも売っているので入手しておきましょう。
それから、『民事弁護の起案技術―7の鉄則と77のオキテによる紛争類型別主張書面』というものです。
こちらにも模範的な書面が載っていたと思いますが、どちらかといえば先程の書籍とは異なって細かいTIPSを集めた内容になっています。
全体については先程の実践演習で掴み、細かく都度意識すべきことの方向性をこの本で固められれば手堅い答案が書けるようになってくると思われます。
刑裁・検察・刑弁で使えるもの
正直刑事系については、白表紙がかなり優秀(刑弁除く)で、検察に至っては先程述べた『検察終局処分起案の考え方』を只管武蔵理論で回しまくって型通りに書いて、小問対策はこれまでの司法試験受験で培ってきたもので足りるという感じですから、特に紹介するべき書籍がないという感じです。
一方の刑裁も同様に、『刑事事実認定ガイド』で事実認定の書き方や考え方を抑えたら、白表紙として配布される『プラクティス刑事裁判』や『プロシーディングス刑事裁判』にある内容を押さえることに加えてこれまでの司法試験の受験対策でやってきたことが抜け落ちていなければ対応可能です。
正直、刑裁に至っては下手したら伊藤塾の『刑事実務基礎の定石』あるだけでかなり対応できるのでは…?と思わなくもないです。
もっとも、刑弁の白表紙は物語形式でつまりこういう手続のときにはこうするべきっていうところのハウツー本形式にはなっていません。
ブレインストーミングといって、検察官が提示している物語と両立する被告人サイドの物語を作る上でどういう頭の使い方をするのかという話を架空の登場人物がその場で話し合いながら進めていくという体裁で書かれています。
ですから、これらを読むのもいいですが、集合修習でやるような模範的な答案の型や修習生の間で出回る優秀な答案で答案の型を「盗んで」最終弁論起案に備えるというのが一番手っ取り早く安定するきらいがあります。
もっとも、最終弁論起案以外にも、小問として被害者対応や取調べ対応、示談の方針といった実務的な問答が登場します。これらに向き合う上で、先程上げた伊藤塾の『刑事実務基礎の定石』はさすがに物足りなくなってきます。
そこで、使えるテキストとしては、『刑事弁護ビギナーズver.2.1』という雑誌になります。
だいたいここに書いてあることを一通り頭に叩き込んでおけば、刑弁科目の最終弁論起案も小問対策も、日々の集合修習での起案の講評と併せて有効な対策となると思います。
もっとも、実務に出てもこの書籍を引っ提げて刑事弁護に臨むことになるわけですが、本に書いてあるとおりやろうとすると「認め事件でそこまでやる?」っていうような反応をされることも少なくはないようです。
ただ、司法研修所はそういう立場ではなさそうなので、ここに書いてある内容を叩き込んで二回試験に臨んでおけば問題ないです。
おわりに
以上、備忘録として書き留めておきました。とにもかくにも、白表紙と導入修習中にもらうレジュメ、起案の講評をもとに徹底的に復習することが大前提になりますし、これまで司法試験の刑法・刑事訴訟法・民法・民事訴訟法、予備試験でやってきた民事実務基礎・刑事実務基礎の対策でやってきた基礎的なことをもう一度やり直しておくということも非常に有効です。
その上で、民裁・民弁・刑弁については、先に挙げた「修習生時代に買ってそのまま実務に持っていきたい書籍」で扱った本の内容を叩き込めていると、尚の事安心して二回試験に臨めるのではないかと思います。
というわけで、勉強もおろそかにせず、一度しかない修習ですから、配属先で旨い飯食ったりどこかに旅行行ったり、思いっきり羽伸ばしてみてください。
それではまた