中島英樹展『Infinite Libraries & Re-CitF』と、一回性へのシフトチェンジ[2008・8〜9]
8月×日
ラフォーレミュージアム原宿で、映画『ビューティフル・ルーザーズ』の出演者によるペインティング/ドローイング、写真などの展示、『BEAUTIFUL LOSERS & LIGHTNING BOLTS EXHIBITION』を観る。サーフィンにホイチョイ的な80年代大学生文化の幻影を重ねてしまう自分には、サーフィンやスケボーと一見対極にあるアートに彼らがのめり込んでいく姿がどうしても想像できない(やっぱ映画観るべきだった……)。ひとりひとりの作品がそうしたコミュニティにかかわらず、ワンアンドオンリーの作品として成立していたのが素晴らしかった。その場でみんなでペインティングしたとおぼしきブースもあって楽しそうだった。
9月×日
8月後半から続いた仕事がなかなか終わらないので、息抜きに街へ出る。表参道GYREのホワイトルームトウキョウの、細江英公人間写真展『抱擁』と『薔薇刑』。褐色の男の肌と白い女の肌が織りなす水墨画のような世界を、最新型のプリントで表現した『抱擁』と、三島由紀夫を被写体にしたシアトリカルな『薔薇刑』。極限まで突き詰められ構図含め計算された黒白のコントラストが美しい。ギャラリー360°のコレクションを覗いたあと、ピンポイントギャラリーの水上多摩江 銅版画展へ。面の爽やかな色合いとかりかりした手描きのタッチのバランスが絶妙で心地よい。
もう一つよくばってCLEAR GALLERY(青山)の米原康正写真展「the world wants to be changed by….」へ。これはエロい。チェキを使っているのだが、ある意味普通にヌードを撮ったのよりエロいかも。
9月×日
恵比寿へ。東京都写真美術館『液晶絵画』。いわゆるビデオアートを高解像度の液晶モニタで再現した作品が並ぶ。液晶にふさわしい作品もあれば、旧来の枠組みのままのムービーにとどまっているものもありいろいろ。展示のタイトルのように、映像よりも絵画に近いものの方が今回の主旨に近いような気がした。その点、以前SCAI THE BATHHOUSEでも展示されていたジュリアン・オピーの一連の作品(画面の中の一部分だけしか動かない)が液晶モニタの特性を最大に生かしていたように感じられた。画面が動かなければ動かないほど(絵画に近いほど)良かった。期待したブライアン・イーノの『サースデイ・アフタヌーン』は古いせいか、液晶にいまひとつフィットしてなかった。
続いてG/P Gallery(NADiff A/P/A/R/T内)の中島英樹展『Infinite Libraries & Re-CitF』。グラフィック・デザイナーのように複製を前提とする仕事にたずさわる人々がアートの世界に向かうとき、一回性へのシフトチェンジを余儀なくされることがあるのではないか(普段の仕事と作品は別物、みたいな)。複製そのものに思い切り振り切ったグルビは別として、普段の立ち位置と変わらぬまま一回性を追求していく中島さんのような試みは、きっと至難の業だと想像できる。今後に期待したい。
9月×日
8月にギャラリーに通えなかった分を取り戻すのだ。きょうはlamfromm(代々木八幡)で始まった古平正義展『DESIGN & ART』へ。壁にこれまでの仕事(おもにポスターとフライヤー)がずらりと並ぶ。中島英樹さんの仕事にバリエーションを付けた感じ、というとあまりポジティブに聞こえないかもしれないが、とても良かった。細かいところまで丁寧で安心できる仕事。通勤途中なので何回か足を運ぼう。
9月×日
YMOの仕事で知られる写真家・松江泰治の展示『Nest』を、馬喰町に移ったTARO NASUで。中島英樹さんの『文字とデザイン』に、太陽が正午ちょうどに南中したタイミングでシャッターを切る、という松江さんの写真技法が紹介されていて興味をひかれた。大きな写真の隅々までピントが合っていて、一部分を取り出してもちゃんと作品として成り立っている。昔、Illustratorを使ったイラストでこういう世界にトライしたことがあるが、写真でこれをやるのは難しいだろう。
9月×日
表参道で、先日観た古平正義展の『ART DIRECTION & DESIGN』の方を観る。場所は古平さんの事務所FRAMEが元あったマンションの一室。こちらは『デザインの現場』で紹介されていたパッケージや、色校、メモなども含め多角的な展示。ものすごく勉強になったし、改めてその仕事にほれぼれした。室内にいた案内の女性の90度のお辞儀にも感服。その後スパイラルに向かい、長崎訓子さんの『merchandise me』展へ。普段のイラストの世界とはまた違う趣向のグッズたち。平面を超えて立体そのものが表現になるから、グッズの世界は面白い。
9月×日
仕事を早めに切り上げ、新宿エプサイトの中野正貴写真展『中野正貴 東京』へ。これまでの東京シリーズの集大成。全体に暗く感じたのはインクジェットプリントのせい?
9月×日
ようやく最終日に間に合った、東泉一郎さんの『COUNT-DOWN, WAVES, SPIN』へ。開場のレクトヴァーソギャラリーは茅場町の、以前訪れた森岡書店と同じビルの中にあった。映像3作品が、プロジェクターで前後の壁に投影されている。珍しいキノコ舞踏団が参加した作品に心を揺さぶられた。一こまずつ手で描かれた入魂の作。いつか舞台映像の仕事があったら一郎さんにお願いしてみたいと思った。
――2010秋以降の展覧会ツイートを、こちらのハッシュタグ #gbiyori に残しています。