「かわいそう」
「お前の話を聞いているとなんだかかわいそうになってくる」
先日ひさしぶりに飲んだ人にそう言われた。
確かにわたしの収入は少ない上に不安定。
好きなことといえば好きなことを仕事にしているけど、
そのためにものすごく一生懸命努力をしてきたとか、
今現在寝る間も惜しんでシコシコと技術を磨いているとか、
情熱大陸的に絵になる感じのエピソードは別にない。
「人よりもなぜか少し得意」程度のことが、それなりの需要があって、
それなりの対価を払ってくれる人が、それなりに周りにいてくれたから、
今日のご飯を食べることができている。そんな感じ。
将来を考えてみても、明るい想像なんて、これっぽちもできない。
28歳で、彼氏はいるけれどフリーター。
今まで結婚にあまり興味はなかったけれど、
まわりはバタバタと結婚していくし、
お約束で家族からも急かされるものだから、
それとなく「結婚考えてたりする?」って彼氏に聞いてみたら、
「考えたこともなかった」ってきょとんとした顔で言われた。
私自身、特別外見が良いわけでもないし、性格も良く言って普通。
時間にはものすごくルーズだし、部屋はものすごく汚い。
ちなみに彼氏とは2年間付き合っているけれど、
我が家に入れたことは一度もない。
「汚い」という言葉では足りないほどに汚いから。
「散らかっている」とか「汚れている」とか、そんな生半可なものではない。
料理はまぁ普通にはできるけど、彼氏だって普通に自炊している。
この状況でなぜ、
「結婚考えてたりする?」という言葉を発することができたのか。
そりゃ、きょとん顔もするよね。
そんな感じのこの状況。
新婚ホヤホヤの10歳上のサラリーマンから見たら、
「かわいそう」って言わずにはいられないほど、
わたしって「かわいそう」だったみたいで。
哀れすぎて、飲まずにはいられなかったんだろう。
ベロベロに酔っ払った彼は、そんな状態でも、
「顔がものすごくブサイクに見えるのはおれが酔っ払ってるからかな?」
「性格がにじみ出ちゃってるよ」と、しっかり忠告してくれた。
それだけじゃなくてもっとたくさんいろいろなことを、
「わたしのために」言ってくれた。
なんでどうして、この人と二人で飲みになんて行ったんだっけ。
確か頼まれごとをされて、その打ち合わせと称した食事だったはずだった。
なのに蓋を開けてみたらこの有様だったわけで。
頼みごとっていうのは嘘で嫌がらせをしたかった説と、
頼みごとはあったけれど途中で気が変わったために
わたしから断るように仕向けたかった説。
数日考えた末、この二つのどちらかだろうという結論に達した。
そうじゃなきゃ、説明がつかないこの状況。
前者だとしたら、彼に嫌がらせされる理由って何かあったかしらと考えたけど
数年前同じようにベロベロになった彼に抱きしめられて、
セックスを申し込まれたけれど断ったことぐらいしか思いつかなかった。
思い返せば、これまでに彼はわたしにいろいろなことを学ばせてくれて、
今回もまたひとつ、スマートに「NO」を伝える術を教えてくれた。
だからこの日、2杯のウーロン茶代がなぜか4000円だったけど、
決して高いとは思わない。