「教授ではなく先生と呼んで」をめぐる日韓対照言語学
「教授」に対する違和感
大学の教員になって十年以上が経つが、最近気になることがある。それは、学生からよく「教授」と呼ばれることだ。特にメールに多い。例えばこんな具合だ。
オノマトペだったら同じ大学のA先生のところに行くべきじゃないかというツッコミはさておき(A先生、新書大賞おめでとうございます!)、気になるのは「教授」と呼ばれていることだ。ポイントは二つあって、一つには「私は教授じゃなくて准教授なのに・・・」ということ(最近教授に昇進したのだけど、准教授の頃から「宇都木教授」というメールはよくあったので)、もう一つには、そもそもそこは「宇都木先生」というべきじゃないかということだ。
あるときは学生からインタビューを受けたことがある。緊張した面持ちの学生によるインタビューは、こんな感じで始まった。
もっとも、面と向かって「教授」と呼ばれた経験は、メールと比べるとさほど多いわけではない。
またあるときは、うちの子の習い事の教室で、ある先生(学生アルバイト)が教室長の先生にこんな話をしているのが耳に入った。
こういった「教授」の用法に違和感を持つのは、私だけではないらしい。X(旧Twitter)では「教授」の用法に関する話題をよく目にする。
韓国の場合
ここで韓国の場合を見てみよう。韓国語には「先生」に相当する선생(님)という言葉と「教授」に相当する교수(님)という言葉がある。
以下は、韓国のある大学教員が書いた文章を日本語に訳したものである。(ChatGPTで下訳をした上で修正した。)
これは実は、今から40年以上前、1977年に韓国の新聞に掲載されたコラムである。("우리말의 현주소 <57> 선생님과 교수님" (姜信沆), 東亜日報 1977年3月23日。この記事を教えてくださった高麗大のシン・ジヨン先生に感謝します。)
この記事が書かれてから40年以上が経った今、私が観察する限りでは、職位としての教授、副教授、助教授はみな「教授」(교수님)と呼ばれるのが一般的だ。「先生」(선생님)と呼ばれることもあるが、学生が大学教員を呼ぶときの呼称としては「教授」が圧倒的に多いと思う。
おそらく今の韓国語では、「教授」(교수)には職位としての(副教授や助教授を除く)教授の意味と、職業としての(教授、副教授、助教授を全て含む)教授の意味とがある。そして、職業としての教授に対する呼称としての「教授」(교수님)がある。上の記事が書かれた頃はまだそのような「教授」の用法が定着していない過渡期で、人によって受け取り方がかなり違ったのだろう。
そう考えると、もしかしたら今の日本も、「教授」という言葉の用法に関する言語変化の過渡期なのかもしれない。
[付記]最初のイラストはDALL-E 3で作成しました。