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韓国語教員からみた第二外国語の現在

私は専任教員として韓国語(うちの大学では「朝鮮・韓国語」と呼ぶ)を教えている。学部・大学院で専門の授業も教えつつ、大学全体の(教養科目の一部を成す)第二外国語(うちの大学では「初修外国語」と呼ぶ)としての韓国語の授業も担当するというかたちだ。

教員目線からの第二外国語の話、特に最近の動向を書こうと思ったのは、それが今後第二外国語の大学教員になろうとする人たちの参考になるかもしれないと思ったからだ。ただし最初に断っておくと、事情は大学によっても言語によっても異なる。私がこれから書くことは、基本的には、とある旧帝大の韓国語担当教員の視点からのもので、そこに他の資料から得られる若干の情報を加えたものだ。

うちの大学の第二外国語

うちの大学には、第二外国語が六つある。ドイツ語、フランス語、ロシア語、中国語、スペイン語、朝鮮・韓国語。学内でいつもこの順番に言われるので、たぶん歴史的にこの順番に科目が開設されてきたのだと思う。

うちの大学では第二外国語は必修である。学生はみな受講する。学部によって1年次のみ履修する学部もあれば2年次まで履修する学部もある。第二外国語の選択は希望通りになるとは限らない。第二外国語の授業が始まるちょっと前に学生は第一希望から第六希望までを提出する。各授業には定員があるので、抽選により第一希望以外に割り振られることもある。

なぜ学生の希望通りに受講できるようにクラスが開講されないのかと疑問に思う人もいるかもしれないが、これは授業の開講計画が前年度のうちになされるからである。授業は教員がいてはじめて成り立つので、開講コマの計画を立て、専任教員と非常勤講師のスケジュールを調整しながら担当を割り振り、教員が不足している場合には新たに非常勤講師を採用する。これにはけっこう時間がかかる。ちなみに開講計画は過去数年間の学生の希望の傾向と、その他諸々の事情を考慮して立てられる。

ところで、うちの大学の第二外国語カリキュラムについて、特筆すべきことが一つある。それは2022年度からのカリキュラム改定で、春学期に6言語の入門のようなオムニバス授業ができたことだ。毎週入れ替わりで各言語の担当教員が講義をするクオーター開講の授業だ。このオムニバス授業がカリキュラムに組み込まれている学部は、まずこの授業を履修し言語選択の参考にした上で、秋学期から第二外国語を履修する。一方、このオムニバス授業が組み込まれていない学部は、1年の春学期から第二外国語を履修する。

第二外国語としての韓国語は誰が教えているのか

第二外国語の各言語で専任教員の数は異なるが、韓国語に関しては一人しかいない。つまり私だけだ。これは私が今の大学に来たときから変わっていないし、おそらく前任の先生の時代から変わっていない。

韓国語担当の教員が1名しかいないという大学はおそらく多い。2021年に発表された「日本における韓国語教育実情調査」の最終報告書をざっと見る限り(日本語版のp.45、表29)、韓国語担当の専任教員がいる大学の半数以上は、担当の専任教員数が1名である。

うちの大学でも他の大学でも、学内の専任教員だけでは韓国語の担当教員が足りない。そのため、多かれ少なかれ非常勤講師に依存している。ここでいう非常勤講師は、他大学の専任教員が兼業として行っていることもあれば、常勤職を持たずに非常勤講師をしていることもある。おそらく後者の方が多いだろう。そして、後者の中には、複数の大学で非常勤講師をかけ持ちしている人が結構いる。

最近の動向

最近の大学での韓国語教育には、拡大と縮小という相反する流れを、同時に感じる。

韓国語教育の拡大

巷では韓国が身近になってきたらしい。テレビを全く見ない私はそのことを長らく実感できないでいたのだが、コンビニでチーズタッカルビを目にしたり、家から徒歩5分のところに韓国スーパーが出来たり、娘が突然BTSの歌を歌うようになったりして、最近になってようやく実感するようになってきた。

韓国語人気も高まっているらしい。このことも私は長らく実感できないでいた。確かに他大学の韓国語担当の先生からは、韓国語の履修希望者が増加しているという話を耳にする。しかしうちの大学では、韓国語の履修希望者はさほど多くなかった。第二外国語の履修希望調査で、六言語のうち、韓国語は5位が定位置だった。(ちなみに6位はロシア語で、これも定位置。)これは、私の前任の先生の頃からずっと続いていた傾向である。

巷では人気だという韓国語がうちの大学ではさほど選択されていないことについて、私は次のように解釈していた。旧帝大であるうちの大学の学生は真面目なので、韓流人気とかいう軽いノリで第二外国語を選択しないのだ。彼らは学問的に無難な選択をしようとしているのだと。

ところが、異変は突然やってきた。履修希望調査において2021年度まで定位置の5位だった韓国語が、2022年度には一気に3位に躍進してしまったのだ。

もっとも、ここには韓国語人気以外の、うちの大学に特有の事情も影響しているかもしれない。カリキュラム改革が行われ、いくつかの学部の学生は入学時に第二外国語を選択せず、まず上述のオムニバス授業を受けるようになった。このことが、二つのいずれかの(もしくは両方の)かたちで影響したかもしれない。

第一の可能性として、オムニバス授業を通じて、学生たちが韓国語の魅力を(もしくは学びやすさを)知ってしまったのかもしれない。ただし、これについてオムニバス授業を担当した立場から補足しておくと、授業では韓国語の学びやすい側面(確かにこの部分は大きい)だけでなく、日本語母語話者にとって苦労する面も伝えている。さらに、学びやすさと単位の取りやすさは別だということも強調している。

第二の可能性として、入学してから第二外国語を選択するまでに半年の猶予ができたことそれ自体が、選択傾向に影響を与えたかもしれない。第二外国語の選択について友人といろいろ話したかもしれないし、先輩から話を聞いたかもしれない。

そういうわけで、うちの大学に関して言えば、韓国語人気?の原因はよくわからない。

縮小する第二外国語

一方で、大学における第二外国語という科目群自体は縮小の傾向にある。例えば、どこかの大学が第二外国語を必修科目から外したという話は、ときどき耳にする。

うちの大学では、上でも述べてきたように、第二外国語のカリキュラムが2022年度から変わった。教養科目全体の改革の中で、第二外国語は縮小の方向での改革がなされた。第二外国語の履修の仕方は学部によって違うが、かつては理系の多くの学部で、1年次の春学期と秋学期に2コマずつ(計4コマ)の履修するようになっていた。それがカリキュラム改革で変わり、春学期に先述のオムニバス授業(クオーターなので0.5コマ)を受けたあと、秋学期に2コマ履修するだけになった。通常の第二外国語授業の部分は、4コマから2コマに半減したかたちだ。(単位数でカウントすると、オムニバス授業1単位+第二外国語4単位が必修というかたちになる。)

私が耳にした限り、第二外国語縮小には二つの背景がある。一つは、教養科目よりも専門科目の比重を高めたいという一部の学部の思惑である。そしてもう一つは、新たな教養科目の開設である。大学の卒業要件の単位数は決まっているので、どこかを増やしたらどこかを減らさなければならない。一つ目の点がカリキュラム改革に実際に反映されたのかは知らないが、二つ目の新たな教養科目については、データサイエンス科目の開設というかたちで実現した。

(ちなみに私の研究上の専門分野はデータを定量的に扱うので、データサイエンスの重要性はよくわかる。なので、データサイエンスの開設と第二外国語の縮小が同時に起きたのは、ちょっと複雑な気持ちである。)

終わりに

上に書いた二つの流れの中で、ここ最近の(うちの大学での)第二外国語としての韓国語は、ほぼ変化なしか微増といったあたりで推移している。

もっと長い歴史に目を向けると、明治時代には「お雇い外国人」によるドイツ語で行われる講義を理解するために、大学入学時点でドイツ語を身に着けていなければならないという時代があったらしい。時代が変わり、学問における外国語の位置づけが変わり、制度が変わってきた。第二外国語の意義そのものが変化し、それに伴って第二外国語のラインナップは多様化し、その流れに韓国語が加わった。今の大学の韓国語教育は、その延長線上にある。さて、これからはどうなっていくのだろうか。

付記

トップ画像は Pixabay のフリー画像をnoteのトップ画像のサイズに合わせて表示させたもので、もともとは9言語の画像だったものが、6言語になってしまいました。ヒンディー語、アラビア語、トルコ語、中国語、韓国語、日本語だと思われます。うちの大学の第二外国語の6言語とは関係ありません(中国語、韓国語は一致しますが)。なお、最初の二つの言語について私は全く知識がないため、正しいかどうかわかりません。


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