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『ソーシャル・キャピタル新論―日本社会の「理不尽」を分析する』各界コメント紹介

佐藤嘉倫氏(京都先端科学大学教授・社会学)、辻󠄀中豊氏(東洋学園大学学長・政治学)、近藤克則氏(千葉大学特任教授・公衆衛生学)、石田祐氏(関西学院大学教授・NPO論)よりいただいたコメントを掲載します。



稲葉氏の「冷静な頭脳と温かい心」
(佐藤嘉倫 京都先端科学大学教授・社会学)

社会関係資本論の第一人者が怒りと渾身の力を込めて執筆した、読み応えのある力作である。著者の稲葉氏は日本社会を覆うさまざまな違和感を社会関係資本によって説明し解決の道筋を探究している。そのために社会学者のジェームズ・コールマンのミクロ・マクロ=リンク図式に依拠しつつ、経済学の概念である負の外部性および非凸性と社会関係資本とを結びつけた議論を展開している。その手法は見事というほかない。かつて経済学者のアルフレッド・マーシャルは講演で経済学者が「冷静な頭脳と温かい心」を持つことの重要性を指摘したが、稲葉氏は本書においてこのことを実践している


言葉の真の意味で「社会の科学書」
(辻󠄀中豊 東洋学園大学学長・政治学)

本書は、現代に極めて稀な、言葉の真の意味で「社会の科学書」である。巷にあふれる多くの悲惨さ、さまざまな問題、課題。それを違和感、「表立って表現されることのない苦しみ」ととらえ、人々の「なぜ」だという声を見逃さない。社会科学のディシプリンに囚われず、解決へ理論化を探る。ツールとして独創的なソーシャル・キャピタル=社会関係資本概念を用いる。特に負の外部性に着目し、経済学、社会学、政治学さらには計算社会科学の最新の成果をツールの理解に総動員し、個人の苦労を、社会の強者の理不尽として分析する道を拓く。日本が誇る社会関係資本研究の第一人者の、社会の閉そく感を破らんとする意欲的な理論書である。


ソーシャル・キャピタルに関心がある読者にはぜひ
(近藤克則 千葉大学特任教授・公衆衛生学)

ソーシャル・キャピタル(社会関係資本、以下SC)は、政治学、社会学、経営学、社会疫学などいろいろな学術領域で着目されるようになった概念である。日本におけるSC研究の草分けの一人である稲葉陽二先生が渾身の力を込めて書いたこの本で、ソーシャル・キャピタル論の定義から、社会が抱える課題解決の手立てとしてSCが期待できることを提示している。企業の組織犯罪など数々の社会問題を、分析ツールとして経済学、特に「(影響が市場の外に及ぶ)外部性」概念を用いて、その原因やSCの影の部分がなぜ生まれるのかなどに深く切り込んでいる。後半では、チャティらのビッグデータを用いたスケールの大きな研究を紹介し、SC研究の発展可能性を感じた。SCに関心がある読者にはぜひ読んで欲しい一冊である。


眼前の課題に解決の糸口を見つけたい人に
(石田祐 関西学院大学教授・NPO論)

現代の日常生活で気付かされる「違和感」に対し、その背後にある経済社会システムが生み出す「外部性」を「信頼」によっていかに克服し、社会を正しく機能させられうるか。これまでのソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の論点と議論に関する丁寧な引用、碩学らの当時の状況も引き出した興味深い構成、著者が長年提示する外部不経済に関する個人の認知、すなわち「心の外部性」の考慮、そして問題解決の方策を探るための長年のデータの蓄積と実証研究の試行錯誤、まるで『社会関係資本物語』である。さらには、21世紀の重要機能となっているSNSやAIが社会関係や信頼にいかなる影響を与えるのか、四半世紀にわたり社会関係資本研究を牽引してきた著者だからこそ書ける物語が含まれている。誰もが違和感を感じる現代社会において、眼前の課題に解決の糸口を見つけたい人にぜひ読んでもらいたい。



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