宇都正哲・浅見泰司・北詰恵一 編『人口減少時代の都市・インフラ整備論』試し読み
2.2.4 人口減少時代に求められるインフラのあり方
人口減少時代においては,インフラ需要をハード整備だけで達成しようとする考え方に固執しない方がよい.人口減少時代では将来のインフラ需要は低下することが明らかであるのだから,現在の需要を満たすと,将来にはストック余剰を引き起こしてしまう.先に述べたように現在は多少混雑があっても長期的にその混雑が解消されることがわかっているのであれば,今のインフラストック量を維持したまま,制度面や利用料金の変更などで需要を分散させることは可能である.
たとえば,東京オリンピックの際に,首都高速の通行料を1,000 円に値上げする実験が行われた.そうすると利用者は一気に減少し,渋滞のない高速道路となった.そこで再認識されるのは,東京のインフラ整備の水準が実は非常に高いことである.首都高速の道路網が渋滞なく利用できると,目的地までの到達時間は飛躍的に短縮し,板橋あたりから,湾岸エリアまで 30 分程度で到達できてしまう.その分,一般道が混雑すると反論する人もいると思うが,一般道さえも渋滞するようであれば,物流事業者はトラック輸送ではなく貨物列車輸送など別な方策を考え,効率的な輸送手段を考えるし,一般生活者も公共交通機関へシフトする動きが起きることも考慮すべきである.現状の需要はよくよくみると真に必要なものばかりではなく,ある程度のプライスコントロールで劇的に変化するのである.
また,貨物輸送の需要も諸外国と比べてトラック陸送に偏っている.これは利用するコスト(料金と時間の双方)が相対的に安いために起きている現象である.デジタル化の進展がみられるなか,AI を活用すればそれほど複雑でない限り,輸送の最適ルートはシミュレーション可能であるし,貨物の輸送シェアといったマッチングもリアルタイムで可能な DX(デジタル・トランスフォーメーション)技術は既に商用化されている.旧態依然とした輸送業の体質を温存したまま新規のインフラ整備を続ける前に,需要側のイノベーションを誘発する政策を推進することも同時に考えるべきであろう.
また,昨今の MaaS (Mobility as a Service) の議論は,カーシェアなどを通じて「自動車の所有」から「移動サービス」に焦点を変化させたといわれるが,「所有の満足」等を除けば自動車が提供しているサービスは元々「移 動」であり,昨今の消費者は,より純化した形で,サービスを需要するよう に変化してきた可能性がある.これは,インフラサービスに対しても同様である.価格という要素を無視したら,「パイプラインで供給される水」が必要なのか,しっかりと品質管理されているのであれば「供給手段は問わない」のか.インフラサービスの需要者の真の需要は何かを改めて考察する必 要が出てきている.
インフラ需要の真のニーズを汲み取り,ハード整備だけに拘らないインフラ整備を行っていくことが,人口減少時代のインフラを持続可能とする1つの方策であり,インフラをサービス提供と考える Infra-aaS と捉える柔軟な発想の転換が求められている.