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【21世紀を照らす】『会社法』(2016年)/解題: 田中 亘

本書は、筆者が2016年に刊行した会社法の概説書である。幸いにして、会社法の学習者、研究者や法律実務家に受け入れられ、今日までに3版を重ねることができた。

本書を執筆する際に心がけたことは、主に3つある。第一は、会社法の諸規定の趣旨や内容について、初学者にもわかりやすく説明することである。第二は、会社とりわけ株式会社という制度の基本的特徴と、それが経済社会において果たす役割・機能を明らかにすることである。そして第三は、会社法の解釈論や立法論を、どのような基準によって行うかを明確にすることである。具体的には、効率性を会社法の望ましさの評価基準にすること、すなわち、会社法の諸規定の解釈や立法は、人々に生じるネットの便益(便益から費用を差し引いたもの)をなるべく大きくするように行うべきであるとの立場をとっている。

以上の点は、本書刊行に際して、東京大学出版会のPR誌に寄せたエッセイ(「わかりやすい教科書と法の評価基準を求めて――『会社法』執筆に込めた思い」『UP』2017年1月号)の中で、より詳しく説明している。実は、このエッセイの方が、ことによると本書それ自体よりも、筆者の研究活動の転機になったかもしれないと感じている。同エッセイでは、筆者が、なぜ、法制度の評価基準として効率性を用いることが望ましいと考えるのか、またなぜ、法と経済学(法の経済分析)が法制度の分析のための有効なツールだと考えるかについて、かなり率直に語った。

その後、筆者は、同エッセイで述べた見解を敷衍する形で、商法の解釈方法について考察した論文を公表した(「商法学における法解釈の方法」山本敬三=中川丈久編『法解釈の方法論――その諸相と展望』(有斐閣、2021年)所収。なお、商法学の対象である「商法」とは、企業に関する法制度全般を指し、会社法は、この意味の「商法」の一部である)。この論文では、法制度は、一般に、社会の全構成員の効用の集計値である社会厚生を増進するように設計されるべきであり、商法の解釈や立法においては効率性を追求することが、社会厚生を増進する手段として最善であることを論じた。また、効率性の追求が、多くの人々が抱く公正観念と対立する場合があることを明らかにしつつ、そのことは、幼少時の教育や進化の過程で獲得された公正観念が現代社会の複雑な状況にうまく適用できないことによるものであって、効率性という基準を拒否して公正観念に従って法の解釈や立法をするほうが望ましい理由には必ずしもならないと主張した。

法制度の評価基準に関する以上の議論は、もとより未だ不完全なものであり、一層考察を重ねる必要性を感じている。今後は、筆者の専門領域である会社法を初めとする商法の研究を進めつつ、その研究で得られた知見を生かしながら、法制度の望ましさはどのような基準によって判断されるべきであるかという課題にも取り組んでいきたい。

文・田中 亘
初出:創立70周年記念リーフレット第2弾「21世紀を照らす」(2021年8月)

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