【2021年度】百合CP人気度ランキング!【pixiv小説】
文: 銀糸鳥
2021年度、あなたの推しCPは誰と誰でしたか?
テイマク、奏まふ、しずかす……。
文字通り、百人に聞けば百通りの答えが得られそうです。
それでは質問を変えましょう。
2021年度の百合界隈で、最も人気のあったCPは誰と誰でしょうか?
はじめに
ごきげんよう、銀糸鳥です。
新年度が始まり、季節は夏、SNS は某アニメの話題で賑やか。皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
ところで皆さまは〈pixiv小説〉をご存知でしょうか。
……愚問ですね。皆さまご存知の通り、〈pixiv小説〉とは、イラスト・小説投稿サイト <pixiv> の小説部門の通称です。
今回は、〈pixiv小説〉に投稿された二次創作小説を対象として、百合カップリング(百合CP)の人気度ランキングを作成してみました。ランキングの作成方法の詳細は後述しますが、人気度の指標は、カップリングのタグが付いた小説作品の本数とブックマーク数をもとに定義しています。
さらに本記事では、作成したランキングをもとに、2021年度の百合コンテンツの日本国内における動向を振り返ります。国内最大級の投稿サイトとして知られる〈pixiv小説〉ですから、百合界隈全体の動向を反映していると考えても差し支えないでしょう。
どうしてイラストではなく小説なのか、ですって?
それは単に、小説の方が好きだからです(あと調査しやすいから)。
注意点
本記事では、テーマの性質上、VTuber などの nmmn 系コンテンツに言及することがあります。過度な言及はなるべく避けますが、カップリング名・キャラクター名は伏せられていません。後ほど共有する Excel ファイルでもこれは同様です。SNS での共有は大歓迎ですし、励みになりますが、各方面に迷惑が掛からないよう注意していただけると助かります。
また、以下の記述には「○○というカップリングは去年に比べて二次創作が減少した」という類の言説が頻出します。当該カップリングと、そのファンコミュニティを中傷するような意図がないことを、あらかじめ断っておきます。
ランキングの作成方法(要約版)
まず、調査方法を説明します。
時間のない人のために簡単に要点だけを述べておきましょう。
はじめに、2021年度にある程度の人気を集めたカップリングを、pixiv小説の作品数をもとにリストアップします。次に、それぞれのカップリングに対して「合計ブックマーク数の概算値」を算出します。この数値がカップリングの作品本数・コミュニティの規模感、人気度の指標になります。最後に、合計ブックマーク数の概算値の大きい順からランキング形式に並べました。
要点だけを掻い摘んで、端折りぎみに説明しました。
もう少し詳しく知りたいという人は、以下の説明文をお読みください。
前に作成したものをそのままコピペしたので文章が事務的ですが、あまり気にせず読み進めてください。
ランキングの作成方法(詳細版)
pixiv小説でプレミアム会員限定の詳細検索機能を使用して調査を行った。参照日は 2022年の6~7月ごろである。まず、キーワードは「百合」、対象を「タグ(完全一致)」、期間を「2021年4月1日~2022年3月31日」、ブックマーク数を「50~99」、本文の文字数を「すべての文字数」、作品の言語を「日本語」として詳細検索を行った。つぎに、出力された小説作品を参照し、それぞれの小説にタグ付けされたカップリングを順番にリストアップした。このとき、調査の簡略化のために、ブックマーク数が「50~99」の小説作品が 10件以下であるようなカップリングはリストに加えなかった。リストアップされたカップリングを順番にキーワードへ入力し、ブックマーク数を「50~99」「100~299」「300~499」「500~999」「1000以上」に設定して検索を行い、それぞれの条件で出力された小説作品の数を記録した。カップリングの名前に表記揺れがある場合(「まふえな」と「えなまふ」など)は、OR検索を使った。最後に、ブックマーク数が「50~99」の作品を75pt、「100~299」の作品を 200pt、「300~499」の作品を 400pt、「500~999」の作品を 750pt、「1000以上」の作品を 1000ptとみなして、各カップリングに対応した合計ブックマーク数の概算値を算出した。たとえば、「ゴルトレ♀」の概算値は、「50~99」が 37本、「100~299」が 47本、「300~499」が5本、「500~999」が2本、「1000以上」が1本で、(37*75+47*200+400*5+750*2+1000*1=)16825ptとなる。さらに、得られた数値をもとに2種類のランキングを作成した。ひとつめのランキングは、合計ブックマーク数の概算値が大きい順に各カップリングを並べたものである。ふたつめのランキングは、コンテンツを単位として同様の序列化をしたものである。
調査結果の公表
調査結果のデータファイルを無料で配布します。
タイトルに「2021ver」とありますが、2021年"度"の調査であることにご注意ください。
ダウンロードしたファイルは、ご自身の記事で引用するなり、お茶の間の話題にするなり、好きにしていただいて構いません。ただし、数値を書き換えたものを配布したり、あたかも自分が作成者であるかのように配布されたりすると悲しいのでやめてください。
ちなみに、この記事の執筆者は、以前から同様の調査をしています。
2010~2020年度の Excelファイルは↓の記事から DL できます。
大学3年の春から夏という貴重な時間が投じられた労作です。頑張ったので読んでください。
その調査結果をもとに、2010年代の百合二次創作の変遷について論じた記事を↑の同人誌に寄稿したことがあります。2013年度は『ラブライブ!』の時代だとか、2017年度はガールズバンドが逆襲したとか、まるで講談のように百合二次創作の 2010年代史が語られています。私以外の記事も面白いので、目次を見てぜひご購入を検討ください。
本記事は、これらのアーカイブの続編として位置付けられます。もしも本記事を読んでご興味をお持ちいただけたなら、これらの記事にも目を通してくださると嬉しいです。特に、後者の同人誌をご購入いただけますと、編集担当としては非常に助かります。
百合CP人気度ランキング(1位~10位)
前置きは終わりました。全体のランキングを紹介すると長くなるので、上位10組だけを見ていきましょう。
栄えある1位に輝くのは誰と誰になるのでしょうか?
なお、括弧内には前年度調査からのポイント増減を記載しています。
まふえな(朝比奈まふゆ×東雲絵名)
181,975pt(+155,200pt)テイマク(トウカイテイオー×メジロマックイーン)
177,825pt奏まふ(宵崎奏×朝比奈まふゆ)
131,350pt(+72,425pt)Crossick(白雪巴×健屋花那)
128,800pt(-95,725pt)リゼアン(リゼ・ヘルエスタ×アンジュ・カトリーナ)
108,950pt(-69,700pt)みずえな(暁山瑞希×東雲絵名)
82,525pt(+39,925pt)タキモル♀(アグネスタキオン×女性トレーナー)
45,375ptはるみの(桐谷遥×花里みのり)
42,850pt(+35,600pt)タキカフェ(アグネスタキオン×マンハッタンカフェ)
42,050ptゴルマク(ゴールドシップ×メジロマックイーン)
41,350pt
僅差を制して、2021年度の栄えある人気度1位のカップリングに輝いたのは「まふえな(プロジェクトセカイ)」でした。おめでとうございます!
それでは、もう少し詳しく結果を見ていきましょう。
まず気付いたのは、上位にランクインした10組が『プロジェクトセカイ』『ウマ娘 プリティーダービー』『にじさんじ』のカップリングであるということです。近年の百合二次創作における存在感の大きさを感じさせられますね。
『プロジェクトセカイ』に関しては、1位の「まふえな」、3位の「奏まふ」、6位の「みずえな」が、いずれもコンテンツ内のユニット「25時、ナイトコードで。」のメンバーで構成されています。百合的な需要に関しては、このユニットの存在感が強い、ということがわかります。
『ウマ娘』では、アグネスタキオンやメジロマックイーンなど、ツイッターランドでよく見かけるキャラクターがランクインしていますね。7位に「タキモル♀」がランクインしたことは特筆すべき点でしょう。「プレイヤーキャラとノンプレイヤーキャラのカップリング」が上位にランクインすること自体、この調査では非常に珍しいからです。
前年度と比較すると、『プロジェクトセカイ』のカップリングは軒並みポイントを上げて、『にじさんじ』のカップリングは逆にポイントを下げていることがわかります。特に、「まふえな」と「遥みの」の躍進は目ざましいもので、前者は前年度比 6.8倍、後者は 5.9倍の成長を果たしました。その反面、「奏まふ」の成長率は 2.2倍、「みずえな」は 1.8倍に留まっているのが興味深いところです。台頭したばかりのコンテンツでメジャー/マイナーカプの勾配が定まらないのはよくあることですが、このあたりは「25時、ナイトコードで。」のコミュの内容を検証してみる必要があるかもしれません。
百合コンテンツ人気度ランキング(1位~10位)
次に、コンテンツごとのランキングを見ていきましょう。
ランキングの作成方法は【調査方法】の章で説明しています。
これは百合コンテンツなのか??……的なのもありますが、大丈夫です。
オタクが百合を見出した瞬間、そのコンテンツは百合になるのですから。
プロジェクトセカイ
601,950pt(+428,475pt)ウマ娘 プリティーダービー
553,725ptにじさんじ
358,275pt(-199,600pt)ホロライブ
161,600pt(+63,075pt)ラブライブ!スーパースター!!
100,725ptラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会
53,600pt(-40,400pt)アサルトリリィ
44,200pt(+2,225pt)少女☆歌劇レヴュースタァライト
42,450pt(-4,900pt)BanG Dream!
39,875pt(-113,875pt)呪術廻戦
24,825pt(+5,300pt)
このようになりました。
人気度1位に輝いたのは「プロジェクトセカイ」でした。おめでとうございます!
それでは、結果を詳しく見ていきましょう。
カップリングの場合と同様に、『プロジェクトセカイ』が躍進し、『にじさんじ』が後退した、という傾向が読み取れます。また、『BanG Dream!』がポイントを大きく減らしていることにも注目すべきでしょう。『BanG Dream!』と『プロジェクトセカイ』は制作会社が親会社/子会社の関係にあり、そのゲームシステムは、リズムゲームの攻略に合わせて複数のユニットを軸としたストーリーが展開される、という点で形式的にほとんど同じです。同系統のコンテンツ間で、世代交代が進んでいると捉えるのが自然でしょうか。
『にじさんじ』も『BanG Dream!』と同じように下落傾向にあります。前年度1位を記録した 557,875ptから4割近く落とし、3位に転落しました。その代わりに台頭してきたのが『ホロライブ』です。前年度と順位は変わりませんが、ポイントは6割近く上昇しています。カップリング数だけに注目すると、ランクインしたのは 12位の「あくしお」、24位の「miComet」ほか 18組で、13組がランクインした『にじさんじ』より多いです。
『ラブライブ!スーパースター!!』は 100,450ptを獲得しましたが、2013年度の『ラブライブ!』や 2016年度の『ラブライブ!サンシャイン!!』のような、一気呵成に首位に躍り出る、というムーブメントは起こせていません。姉妹コンテンツである『虹ヶ咲』と、コミュニティ同士でファンの喰い合いが生じている可能性があります。
上位にランクインしたコンテンツは、リズムゲーム、育成ゲーム、アイドルアニメ、バーチャルライバーと幅広く、百合コンテンツ、ひいては今日のコンテンツが、多様なメディアを横断して展開されていることがわかります。
しかし、率直に言えば、これまでにない新しいタイプのコンテンツが誕生・台頭した訳ではないように思えます。『ラブライブ!スーパースター!!』はシリーズ系列作品ですし、『ホロライブ』はバーチャルライバーという大枠では『にじさんじ』と同系統ですし、『プロジェクトセカイ』は上述したように、ゲームシステムという点では『BanG Dream!』とほとんど同系統です。『呪術廻戦』のランクインは意外に感じられるかもしれませんが、2014年度の第3位には『進撃の巨人』の「ユミクリ」が、2019年度の第4位には『鬼滅の刃』の「みつしの」がランクインしているので、少年漫画作品のランクインは取り立てて珍しいことではありません。
もちろん『プロジェクトセカイ』は『BanG Dream!』と比較して、主要キャラに男性が登場するという特徴がありますし、『ウマ娘』は『艦これ』にはない、公式から供給されるストーリーの豊穣さがあります。しかし、青春系リズムゲーム、擬人化コンテンツという大枠は同じです。2021年度の百合界隈には、2017年度に『BanG Dream!』、2020年度に『にじさんじ』が登場したときのような新鮮さは感じられない、というのが個人的な所感です。
"人気"キャラクターは誰か?(参考記録)
カップリング、コンテンツと分析したので、最後にキャラクター別の分析をしてみましょう。同じようにやるとカップリング部門上位のメンバーが並ぶだけのランキングになってしまいそうなので、単純にランクインしているカップリングが多い順に並べてみます。
今回は、ファンコミュニティからどれだけ人気か、という基準ではなく、コンテンツ内のキャラクター何人とカップリングを結ばれているのか、という観点から"人気"キャラクターを決めていきます。
6組
シンボリルドルフ(ウマ娘)
ルドエア/ルドトレ♀/テイルド/ルドオグ/ルドシビ/ルドブラ
5組
該当者なし
4組
リゼ・ヘルエスタ(にじさんじ)
リゼアン/tklz/frlz/mtlz
アンジュ・カトリーナ(にじさんじ)
リゼアン/とこアン/ssan/みこアン
澁谷かのん(ラブライブ!スーパースター!!)
かのちぃ/かのすみ/かのくぅ/れんかの
2位と一馬身の差をつけて、シンボリルドルフが人気度1位(参考記録)を射止めました。おめでとうございます!
どうやら、特定のカップリングが人気を博することと、特定のキャラクターが他のキャラクターから「モテる」ことには、別の力学が働いているようです。
ちなみに、2020年度はリゼ・ヘルエスタ(にじさんじ)と氷川紗夜(BanG Dream!)、2019年度は氷川紗夜(BanG Dream!)と津島善子(ラブライブ!サンシャイン!!)が人気度1位でした。
2021年度の「百合の世界」と展望
以上、カップリング、コンテンツ、キャラクターごとに人気度ランキングを作成しました。それぞれ、カップリング部門は「まふえな(朝比奈まふゆ×東雲絵名)」、コンテンツ部門は『プロジェクトセカイ』、キャラクターは「シンボリルドルフ(ウマ娘)」が人気度1位を獲得しています。
2021年度は『プロジェクトセカイ』と『ウマ娘』が台頭して、『にじさんじ』の人気度がやや後退、『BanG Dream!』の人気度はかなり後退してしまった、というのがざっくりとした理解になるのではないでしょうか。
2022年度の百合の世界には、どんな未来が待ち受けているのでしょう。
『虹ヶ咲』のアニメ2期が放送されましたが、どこまで伸びてくるのでしょうか。『プロジェクトセカイ』と『ウマ娘』は堅調だと思われますが、新しいコンテンツの台頭はあるのでしょうか。たとえば、『リコリス・リコイル』はどうでしょうか。個別のカップリングは支持を集められそうですが、コンテンツとしてどこまで規模を広げられるかは未知数です。
今回、調査をしていく中で、私自身にもたくさんの発見がありました。プロセカ人気は知っていたけど、ここまで伸びているものなのか、とか。『ラブライブ!スーパースター!!』や『ホロライブ』の名前は知っていたけど、百合的な人気があることはまったく知らなかった、とか。
私たちはそれぞれ、私たちなりの「百合」を愛好しています。
私の愛好している「百合」と、あなたの愛好している「百合」はちがう。
そこには、普段こそ感じられませんが、確かに「壁」が存在しています。
ランキングを作成すること、それを通じて、多種多様なカップリング/コンテンツの存在を知ることには、その「壁」を取り払う効果があるように思います。もちろん、その「壁」を取り払ったところで、なにか抜群に良いことが起きるわけではありません。ですが、そのとき、私たちは自分たちの住んでいたコミュニティの狭さと、世界の広さを実感することができます。「百合」という言葉が持つ広がりに、可能性に気付くことができるのです。
本記事を通じて、あなたが、あなたの知らない「百合の世界」を知り、まだ見ぬカップリング/コンテンツに興味を抱いてくれたのなら、この記事の執筆者としてこれほど嬉しいことはありません。
それでは、ごきげんよう。