天才クール美少女と女女の関係性について


§1 はじめに

ごきげんよう。かんさいぼうです。8月の記事では百合とSCP財団について書きました。百合とSCP財団という私が好きなもの2つの共通部分に日を当てようという目論見の上で書いた記事です。それがうまくいったので、今回も同じことをしてみたいと思います。
さて、私の大好きなキャラクター属性に、天才クール美少女というものがあります。そこで天才クール美少女と百合について書いていきたいと思います。

§2 「天才クール美少女」概念とは

§2.1 由来

天才クール美少女というのはインターネットで広まりつつある概念で、早い話、天才クール美少女キャラクターのことです。ふぁぼん氏(@syobon_hinata)のブログ名に由来し、長いので天ク美と略されることもあります。
(参考 https://x.com/syobon_hinata/status/1783092493468545226
天ク美概念を知らない人はイカ爆弾氏による「天才クール美少女とヒロインの属性について」(通称:「属性」)を一通り読むことを推奨します。天ク美における天才とは?クールとは?美少女とは?という3点を深く理解できるでしょう。この記事はその文章を受けて書かれたところがありますが、読んでいなくても理解できるように書いているつもりです。

§2.2 イカ爆弾氏による分類

「属性」においてイカ爆弾氏は、天ク美を分類するために①外面的天才性、②コミュニケーション能力、③外面的クール性、④クール人格の4つの分類軸を導入しています。①は隙が多いほうからサヴァン型、秀才型、完全無欠型の3つに、②はコミュニケーション能力が低いほうから鬱屈型、無関心型、エリート主義型、聖人型の4つに、③はクールに見せる行動によって陰キャ型、無表現型、ミステリアス型の3つに、④はその行動をとる理由によってトラウマ型、奇行型、未成熟型、ハードボイルド型の4つに、それぞれ分類しています。
また、氏は同じ記事で、天才クール美少女における美少女という語が、単に二次元の女の子キャラクターを指すことが多いことを指摘しています。この分類軸にどのような美少女であるかに関するものが入っていないのにはそういう理由があります。

§3 振り回す天ク美と振り回される天ク美

これまでの分類はよくできたものですが、単にキャラクターの分類にとどまっていて、関係性を考察するのには向いていないと感じます。そこで、この先百合の話をするのを見据え、それに直に結びつく新たな分類軸を提案します。それは振り回すタイプ振り回されるタイプという分類です。
振り回すタイプというのは人間関係で積極的に主導権を取りにいったり、人を導いたり、見境なく行動したりするキャラクターのことです。で、振り回されるタイプというのはその逆、つまり受動的なキャラクターやついて行くキャラクターのことです。
さらに、振り回すタイプの天ク美を以下の4つのタイプに分類します。

  1. 自分が何をするかを自分の意志で決める決断力タイプ

  2. カリスマ的魅力と高い能力を使って人を導く指導者タイプ

  3. 人を振り回すようなコミュニケーションしかできないコミュ障タイプ

  4. 顔の良さと能力の高さでなんとかできると思っている傲慢タイプ

①と②は天才性、③はクール性、④は美少女性と天才性に、それぞれ関係します。①と②は似ていますが、他人に影響されないので結果的に振り回すタイプになるのか、積極的に他人を振り回すのかという違いを重視して二つに分けています。
一方振り回される天ク美は振り回す方よりバリエーションが少なく、クール性に関連したもの以外は考えにくいと思われます。したがって一般に天ク美は振り回すタイプになりやすく、特に天才性を強調した場合にはそれが顕著だと言えます。

§4 天才クール美少女の内面とミステリアスさ

天ク美は優越的な能力を持つ、すなわち外的には「強い」キャラクターです。天ク美の多くが振り回すタイプであることもそれに関わっています。しかし、外的には強いキャラクターは、同時に他人に依存しがちな「弱い」内面を持つ人物として造形されることが往々にしてあります。そのため、天ク美を内面の強さによっても分類してみます。振り回す/振り回されるという分類が天ク美の外的な強さを表すものなら、内的な強さに関しても分類したいというモチベーションです。ここでは、どれだけ自立的かということによって内面の強さを推し量れるという考えのもと、内面が強い自立型天ク美と内面が弱い依存型天ク美に分類することにします。いわゆる太陽と月カップリングでいうところの太陽が自立型、月が依存型です。また救済カップリングにおける救済するほうが自立型、救済されるほうが依存型です。
この2つに加えて、第三のタイプとして、そもそも内面がよくわからないタイプ、すなわちミステリアスな天ク美という類型を立てます。「属性」でも、あまり多くの情報を開示しないキャラクターこそがクールキャラらしいとされているので、このタイプをひとつのタイプとして立てて考察する価値があるでしょう。まず、ミステリアスな天ク美は、ベールが剥がされるかどうかで2種類に分類できます。このうち、ベールが剝がされない方については、特に触れないことにします。理由は二つあって、一つ目の理由は私がそういうキャラクターに詳しくないから、そして二つ目の理由は百合と相性が悪いと思われるからです。理解不可能な存在が百合的な関係を作るのはやはり難しいと思います。さて、ベールが剝がされる方ですが、こちらはそれによって明らかになる内面次第で2通りの展開を見せます。すなわち、実は弱い内面を持っていたと明らかになるか、やはり内面も強い人物だったと明らかになるかです。

§5 百合作品における天才クール美少女

ここでは百合作品に登場する天ク美をここまでの考察に照らして見ていきます。ネタバレを含みますがご容赦ください。

・宇佐見蓮子(東方project)
 宇佐見蓮子は相棒で親友のメリーとともに趣味で異界を調査している大学生です。探検に積極的で、計画も自分で立てることから決断力タイプの振り回す天ク美であると言えます。特に最新作「七夕坂夢幻能」で失踪したメリーを助け出すところに蓮子の知性に裏打ちされた強い意志、強い行動力を見ることができます。内面的にも一人でやっていけそうな感じがするので自立型でしょう。

・御冷ミァハ(ハーモニー)
御冷ミァハは序盤、カリスマ的なイデオローグとして、語り手である霧慧トァンを導きます。従って、指導者タイプの振り回す天ク美になります。トァンの一人称視点で進むこともあってミステリアスなキャラクターになっており、ミァハをめぐる謎が中盤以降の物語の根幹を担います。異端で孤独な存在を続けていることから自立型であると言えるでしょう。

・琴紗月(わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(ムリじゃなかった!?))
琴紗月は学年で2番目に成績優秀な秀才であるとともに本人も認める陰湿な性格の持ち主です。それによって主人公のれな子を振り回すのでコミュ障タイプの振り回す天ク美でしょう。人心掌握に長けていて幼馴染の王塚真唯を自分にひれ伏させて喜ぶあたり、自立型のキャラクターでしょう。

・泉志帆(ささやくように恋を唄う)
泉志帆は主人公たちのバンドのライバルバンドをギターボーカルとして率いる人物です。音楽の技術に対する向上心・自意識が強い一方でコミュニケーションが下手で、攻撃的な態度をとることがよくあります。したがってコミュ障タイプでしょう。内面は、はじめはミステリアスタイプだったとして問題ないでしょう。問題があるのは内面が明らかになった後で、マネージャーの木野ひまりに導かれる面がありつつも自立的なところがあるので自立型とも依存型ともはっきり言えません。

・七海燈子(やがて君になる)
七海燈子は顔の良さと成績の良さでなんとかできると思っている傲慢タイプのキャラクターです。明るい子に見えますが、内面を隠しておりそれゆえに視点人物である侑を困惑させます。物語の中盤で死んだ立派な姉のような完璧な人間になろうとしていることそのために本来の自分を押し殺していることが明らかになります。その後主人公の小糸侑と出会って交流するなかで考え方が変わっていきます。典型的な救済ですね。したがって依存型に分類されます。

・成瀬あかり(成瀬シリーズ)
成瀬あかりは普通、人がしようと思わないことを行う決断力タイプの振り回す天ク美と言えます。コミュニケーションはあまり取らないので当初は内面が明らかではありませんでした。しかし成瀬視点の最後の短編では知らず知らずのうちに幼馴染の島崎に依存していることが明らかになりました。よってミステリアス→依存型と言えます。

・千代田桃(まちカドまぞく)
千代田桃は主人公のシャミ子に対して主導権を取ろうとする、振り回すキャラクターです。
主導権を取ろうとするのが人格的なところに原因があるので、コミュ障タイプに分類できるでしょう。また、桃は過去のトラウマによって無気力になったキャラクターですが、シャミ子と交流するうちに過去に向き合い、過去に囚われるのではなく、新しい目標を見つけることに成功します。この過程においてシャミ子の果たす役割がかなり強調されているので依存型に分類したいです。
 ところで桃は一人で住んでいて生い立ちを明かさない、ミステリアスなキャラクターです。しかしそれはあくまで外面的な部分なので、ミステリアスな天ク美に分類することはしないことにします。

・小林奏(エイティエイトを2でわって)
小林奏は幼い頃から何度も賞を取っているピアノの天才ですが。寮で同室の藤田美弦によく振り回されています。ピアノの経験に関して闇を抱えているのですが、天真爛漫な美弦に絆されていきます。よって振り回される/依存型の天ク美でしょう。

・ユフィリア・マゼンタ(転生王女と天才令嬢の魔法革命)
 貴族の娘であるユフィリアは何でもこなす天才令嬢ですが、感情を表に出すことは少なく、自分の意志で何かを通すこともしません。1話ではそんな内向きなユフィリアが天真爛漫な主人公のアニスフィア王女に連れ出されるシーンがあります。破天荒な主人公に知らない世界を見せられるのっていいですよね。それはさておきこれを見る限りは振り回される/依存型のキャラクターでしょう。

以上のキャラクターをまとめたものがこちらになります。名前の横は「属性」の分類法に従った分類です。

↑「強い」、導く、救済する、わが道を行く
振り回す/自立
・宇佐見蓮子 秀才-無関心型天才 / 無表現-奇行型クール
振り回す/ミステリアス→自立
・御冷ミァハ 完全無欠-エリート主義型天才 / ミステリアス-奇行型クール
・琴紗月 秀才-エリート主義型天才 / ミステリアス-奇行型クール
・泉志帆 サヴァン-鬱屈型天才 / ミステリアス-未成熟型クール
振り回す/ミステリアス→依存
・七海燈子 秀才-聖人型天才 / ミステリアス-ハードボイルド型クール
・成瀬あかり 秀才-無関心型天才 / 無表現-奇行型クール
振り回す/依存
・千代田桃 サヴァン-無関心型天才 / 無表現-トラウマ型クール
振り回される/依存
・小林奏 サヴァン-エリート主義型天才 / ミステリアス-未成熟型クール
・ユフィリア・マゼンタ 秀才-無関心型天才 / 無表現-未成熟型クール
↓「弱い」、導かれる、救済される、追いかける

割といい分類ができたのではないでしょうか。例えば七海燈子と千代田桃は「属性」の分類に従えば4つの分類軸のすべてで異なるキャラクターですが、校内の有名人で憧れられているけれど実は内に闇を抱えていて主人公に救済されるという点で似ています。そうであるところ、私の分類に従えば振り回す/依存という2つのキーワードで理解できます。

§6 天才クール美少女の人間関係 

ここでは、天才クール美少女と百合の相性の良さを理解させるために人間関係について少々考察します。

§6.1 関係の閉鎖性

天ク美は理解されないか、そうでなくとも自分から孤立を選ぶので閉じた人間関係になりがちです。そのため、天ク美が信頼している人物/天ク美を理解できる人物/天ク美が心を開く人物がいた場合、それはたった一人しかいないことが大いに期待できます。(e.g. 成瀬と島崎)
つまり、天ク美が作る関係は
①AにとってBはたった一人、BにとってもAはたった一人
②AにとってBはたった一人だが、BにとってAはたくさんいるうちの一人
のどちらかである可能性が高く
③AにとってのBもBにとってのAもたくさんいるうちの一人
である可能性は低くなります。
一般に百合のオタクは①や②の関係が好きであることが知られているので、このことは喜ばしいことです。

§6.2 三角関係

一方で、容姿が良いことが明示されていてかつ振り回すタイプである天ク美は、しばしば三角関係を作ります。とりわけ私が期待するのは物語の途中で天ク美が3人目の女として現れてメインカプを不安定にする展開です。顔がいい傲慢タイプの天ク美が既存の人間関係をめちゃくちゃにする話とか読みたくないですか?

§7 おまけの自分語り

最後に天ク美に関連して私の好きな展開について話させてください。それは、主人公の女の子が謎めいた天ク美を理解する展開です。実のところ、本当はクール性にあまりこだわりがないので天ク美でなくて単に天才でもいいのですが。とにかくミステリアスな天才キャラクターを理解する物語が好きなのです。
そもそも天ク美というのは周囲に対する優越性を持つキャラクターです。これは天ク美の良さのかなり根本にあるもので、天才性の定義としてもいいくらいです。では具体的に優越性のなにがいいかというといろいろ考えがあるでしょうが、私は「理解しがたさ」にあると思っています。人知を超える思考、度肝を抜く振る舞い、あるいは固い意志の成せる破天荒の偉業。また、外形的に「強い」天ク美には得てしてある種の底知れなさのようなものも付いてきます。このような理解しがたい天ク美は私も大好きです。しかしその上で、理解しがたさを乗り越えて理解に至る物語に何にも勝る良さがあると考えていますす。前半での分類で言えば、振り回す/ミステリアス→自立型あるいは振り回す/ミステリアス→依存型になるでしょうが、実際判明する内面が自立的か依存的かはどちらでもいいです。
そういう展開の作品は上で挙げた作品の中にもあります。また、天才だがクールではないので上で紹介しなかった作品のなかでは、『きみが死ぬまで恋をしたい』、「恋澤姉妹」、『そのうるわしきひとは、』を挙げることができます。
まとめると、とにかく理解不可能に思えた天才キャラクターを理解する物語、最高~!ということです。

§8 おわりに

天才クール美少女と百合について少々ではありますが考察してきました。とにかく、天才クール美少女で百合をやるポテンシャルを感じていただければ幸いです。

参考文献
イカ爆弾(2022)「天才クール美少女とヒロインの属性について」
https://note.com/esqrt2/n/nd71d3aa61455
天ク美の体系的分類です。大いに参考にしました。それどころかこの記事自体「属性」を受けて作ったところがありまして、特別の感謝を申し上げたいです。


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