コンボ練習なんて面倒くさい - コンボゲー/Airdasherは何が楽しいのか
あなたの「コンボゲー」はどっち?
2D格闘ゲームの中には「コンボゲー」と呼ばれる物が存在します。
一般的にコンボゲーという言葉は「コンボがだらだらと長く続くゲーム」と解釈され、非格ゲーマーが頻繁に論う「練習に何時間も費やさねば入口に立つことすら許されないクソ面倒で邪悪なゲーム」と同一視され、「格ゲーはコンボゲーだから初心者に流行らなくてダメだ」のように用いられます。昔は良かった、コンボなんて無い頃は云々と昔話が添えられることも多いです。
しかし、現役の格ゲーマーが「コンボゲー」と言われた時に想像するものはやや違います。コンボがだらだらと続くゲームというのは大抵、それを可能にする程の自由度がシステム上に存在することが多く、その結果派手な試合展開を期待できるため、「細かい駆け引きよりも、自由度の高さから来る複雑な(往々にして派手な)展開で遊ぶゲーム」と解釈されます。
対義語として用いられるのは「差し合いゲー」ですが、これは細かい駆け引きによる硬派な勝負が持ち味のゲームは、往々にして地上戦の差し合いにその駆け引きの主眼を置かれることが多いからです。
アニメな、空ダなの、どっちが好きなの?
(現役格ゲーマーが差す所の)コンボゲーに近い言葉として、英語圏ではAnime game、或いはAirdasherという言葉があるようです。
同項目にて語られているゲームタイトル、『ギルティギア』『アンダーナイト インヴァース』『ドラゴンボール ファイターズ』は、どれも日本語で言う所のコンボゲーに当ります。
しかしここでは、「創造性や判断力が問われ」としつつ、その好きな理由の大きな部分を「空中ダッシュ」が占めている……とも書かれています。
創造性や判断力が問われるというのは、自由度の高いプレイングが許されるゲームであると解釈できるでしょう。しかし国内ではその創造性が発揮された結果としての「コンボゲー」を呼び名にしているのに対し、海外ではその自由度の要因として実装される「空中ダッシュゲー」と呼び習わすのは、非常に興味深い対比です。
また、「アニメの美学を重んじながらもエアダッシュを重視しないゲーム」というのはつまり、見た目だけジャパニメーションで中身は差し合いゲーなタイトル、『恋姫演武』『AQUAPAZZA』『電撃文庫 FIGHTING CLIMAX』『グランブルーファンタジー ヴァーサス』等のことでしょう。
これらはコンボゲー複雑化の反動、初心者獲得や原点回帰を主眼としたタイトル群で、版権キャラのガワを被せて中身はシンプルに差し合い重視、という構図は一時流行しました。
そしてその差異、アニメゲーはアニメ絵だから一律に良いのではなく、アニメ絵であっても空中ダッシュゲーか否かで好みを分かつ層も居る……というのは、AirdashersかFootsies、コンボゲーか差し合いゲーかを食べ分けるセンスは世界共通であることの証左です。
では、コンボゲー/Airdasherを好む者達は、本当にその自由度から来る創造性を楽しんでいるのでしょうか。
それとも言葉の通り、ある国ではそのコンボ自体を楽しみ、ある国ではその空中ダッシュ自体を楽しんでいるのでしょうか。
全てはX-MENから始まった
コンボゲーの歴史を紐解くと、通常技から通常技へとシステム上繋がる最初のゲームが、奇しくも1994年、国内と海外で、ヴァンパイアとKillerInstinctの2タイトルが同年にリリースされます。
しかしこれらはまだ、所謂目押しコンと呼ばれるテクニックをシステム化したものであり、簡易に爽快な操作感を得るためのものです。決して今日的な自由度を高めるものではありませんでした。
現代コンボゲーの下地が出来上がるのは、X-MEN: Children of the atomからでしょう。
それまでお約束だった「空中やられは着地まで無敵」「ダウン中は無敵」といった仕様に手を入れ、基本あらゆる状態でコンボが繋がるスタイルと、浮かせて追いかけて殴って二段ジャンプしてまた殴る所謂エリアルを実現させた、正に現代コンボゲーの元祖でした。
このゲームのコンボは、キャラ毎の重量と技別に設定された吹き飛びベクトルが複雑に絡み合う、ある意味リアルな構成をしており、サイロックに入るコンボがセンチネルに入らないのは、そりゃ生身の人間(?)とロボットを同じく蹴って同じ吹き飛び方するわけないよね、別の追撃の仕方考えて下さい……といった具合でした。
つまり、後の世に言われる「キャラ限」の塊であり、こういった実装は淘汰されて行きました。今ではゲーム的に遊びやすく均一な吹き飛び方により、少女から巨漢まで概ね同じルートで追撃できる仕様が一般的です。
しかし、この時点で空中攻撃を二段ジャンプでキャンセルできたというのは、そんな現実的な実装の中に於いて滅茶苦茶にゲーム的、現代的であり、この英断が無ければ今日のコンボゲーシーンというのは存在しなかったでしょう。
格ゲーのニッチ化、コンボゲーの隆盛
格ゲーでもSTGでも衰退という言葉を用いるとすぐ「また衰退論者だ!我々は衰退していない!我々を見よ!」と噛みつかれるのがインターネットですが、客観的事実としてSTGは90年代初頭に、格ゲーは2000年代初頭にその栄光の時代の終わりを迎え、ゲーム産業のメインストリームから身を引きました。
隠遁したゲームジャンル、好きな人は好きなアレというのは、いつでもひっそりと先鋭化していくものです。カプコンが新作を出さなくなり、新生SNKも目立った成果を上げない格ゲー業界で、2000年後半にまだリリースされるのはアークや悠紀、エイティング、或いは独立系や同人の業務用移植で、その内に複雑怪奇なコンボゲーは無視できない数存在し、格ゲー村社会の中で一大勢力となっていました。
そしてそれらコンボゲーには、ほぼ常に二段ジャンプと空中ダッシュが存在し、そういった空中行動は単なる移動の他にも、フェイントや隙消し、コンボ継続手段として用いられました。
我々コンボゲーマーは、差し合いゲー勢が巧妙な足さばきでにじり寄る硬派な地上戦を横目に、画面3つ分の高度に飛び上がり、原理不明の空中ダッシュで空を駆け、珍妙なダンスを踊るが如く技を連携させていたのです。
であればきっと、空中ダッシュはコンボを生み、コンボは空中ダッシュを羽ばたかせ、我々はその両翼で自由の空を謳歌するのでしょう。そう信じて止まない心が、コンボゲーとAirdasher、二つの名前を付けさせたのだと思います。
現代格ゲーの簡便化と、対するコンボゲーの解答
2008年、ストリートファイター4が登場。9年ぶりのナンバリングタイトル、スト2を強く意識した原点回帰的な手触り、懐古的ながら徐々に復活する格ゲーコミュニティと、長い年月を経た対戦環境の変化は、緩やかにジャンル自体の指針を修正していきました。
即ち、理解しやすく、初めやすいこと。
幾度かのアップデートを重ね、対戦ツールとして完成に向かって行ったスト4が衆目に晒されるのは、もうゲームセンターではありませんでした。動画サイトの台頭です。
プレイはしなくとも動画だけは楽しむ、所謂動画勢と呼ばれる勢力すら現れるようになった環境を、格ゲーメーカーはチャンスと思ったのかもしれません。格ゲーは次々に簡便化され、1/60秒ビタで目押しが必要だったリバーサル昇竜拳は大きく先行入力が効くようになり、長いコマンドは次々と廃止され、ゼロから始める際の障害は順次取り払われていきました。
そしてその中に、当然、シビアな入力を次々と要求する長大なコンボというのも存在しました。であれば我々は、この簡便化の潮流に飲まれ、もう二度と自由の翼を羽ばたかせることは無いのでしょうか。
ギルティギアシリーズといえば、アークシステムワークスの看板シリーズであり、高い機動力、早い展開、難解なコンボゲーの代名詞の一つでしょう。
そしてその最新作、ギルティギアストライブは、ハイコンテクストすぎた空中受け身やダウン追い打ち関連の読み合いの撤廃、強烈すぎた端攻めをインスタントにリターン化しつつリセットの機会を得るウォールブレイク、何より通常技の連携ルートを大きく制限し、難解なコンボという部分を緩和しました。
しかし相変わらず空中ダッシュはあります。二段ジャンプもハイジャンプも空中ガードもあります。アクションするに於いて、Airdasherするに於いて、GGSTは全く不足無くデザインされています。
長い沈黙を破ったエイティングが久々にリリースするのは、MORPGアラド戦記(Dungeon & Fighter)のスピンオフ、DNF DUEL。
格ゲーマーの間で話題騒然だったオープンベータを私もプレイしましたが、二段ジャンプ、空中ダッシュ、空中ガード全て存在しませんでした。
しかしプレイフィールはコンボゲーです。延々と連携する通常技と、コマンド無しで出せる必殺技で、相手をだらだらと固め続けてガードクラッシュをちらつかせ、動いた所に長大なコンボを簡便な入力で気持ちよく入れまくる気持ちよさを、コンボゲーと言わずして何と呼ぶでしょうか。
我々はコンボを楽しんでいるのか、空中ダッシュを楽しんでいるのか。
コンボを制限しても空を飛べるゲームが1周年を迎え、空中ダッシュが無くとも無限の連携を組めるゲームが今年6月遂に発売を迎えます。そしてその両方が、大きな自由度と創造性を持ち合わせています。
我々は複雑怪奇なゲームの、その複雑さを生み出す創造性に惹かれて、今日も自由の翼を羽ばたかせているのです。
特に今度出るDNF DUEL、ベータ版めっちゃ面白かったし操作簡単なので期待してます。
蛇足
……冒頭の、長いコンボしているGIF。これはストリートファイター5のクソ長オタクコンボですが、このゲーム普通こんな長いコンボしません。わざと例外的なキャラの例外的なコンボを紹介しました、スト5は差し合い重視のゲームです。
オタクもロリコンもフェミもヴィーガンもゲームも、特別目立つ例を論えば幾らでも悪く言えるということです。取り上げられた一例が全てなのか、本当にメナトのVT1コン練習しなきゃ格ゲーできないのか、どうかご自身で真実を見極めて下さい。