ドッペルゲンガーと出会ったら - ゲームキャラのミラーマッチに関する走り書き
Valorantのエージェント達は、ラウンド間の掛け合いで明確にもう一人の自分について言及します。例えばセージは同キャラに敗北すると、「手ごわいですね、向こうの私は」と発言します。
これを、ゲーム内キャラクターによるゲームルールへのメタ発言だと思うのはとても自然で現代的な感性です。なぜならこれは対戦ゲームであり、非対称モノではなく、誰もがフェアに競える洗練されつくしたルールを持ち、であれば貴方が本来発揮すべき素晴らしいバリアオーブ運用を、相手がセージ選んだしセージは一人に決まってるよねという現実的で下らない理由で剥奪し、萎えたわバイパーピックAFK飯食ってApexやろ、などという事態は、フェアで明瞭なeSpotrsに、或いはそもそもゲームに、あってはならないのです。
ガントレットはゲームのキャラクターに選択式かつ重複不可能な個性を持たせました。コンパネ上に設えた4人分のレバーとボタンの組に、それぞれ替えの利かない4人のヒーローをあてがえて、スタートボタンを押したそのパネルによって個性を選択する形式でした。残念ながらリアルタイムでプレイすることはありませんでしたので想像ですが、選びたいキャラで喧嘩したり或いは誰かが人知れず我慢したりしたのでしょうか、カルテットは3Pだか4Pだかが人気なので4P可能台じゃないとイヤみたいなのは聞いたことあります、私はスーパードンキーコング2でみんなディクシー使いたがるのでディディー持たされる子でした。
しかしそんなものはリアルで存分に話し合うなり取っ組み合うなりすれば良いのです、ゲームなんてものは一側面から見れば、単に音と光が出る玩具であり、座った場所で鳴る音が違う位の工夫は3歳児向けのそれにだってあるでしょう。
話が違うのは別の側面、競技や競争として見た時のゲームです。競技と言っても対戦空手道ならば両者一介の空手家として個性はプレイングのみで存分に発揮すれば良く、競争と言ってもグラディウスⅡならみんなで4番使っていれば良いです。そしてそうはいかないのがストリートファイター2でした。
ストリートファイター2は8種類の個性から一つを選び戦うゲームです。それも空手家やレスラーといった重複可能な個性ではなく、復讐に燃えるアメリカ空軍少佐や、アマゾンの奥地で育った野生児といったそれぞれの人生、そして固有名詞と、何よりこんな人間が何人も居てたまるかと言わんばかりの強烈で特別な個性を持っていました。
昔のゲームは今よりも真面目な傾向があります。例えば高い所から落ちたら普通死ぬからで、多くのプラットフォーマーには落下死が実装されていました。これを、それくらいで死ななくて良いじゃんとしたのがマリオブラザーズだったそうです。*1
そしてストリートファイター2もまた真面目な頭脳によって作られたゲームです。もはや我々のゲーム脳は確固たる個性を持った同一人物が色違いのドッペルゲンガーと対峙していたとして、カンガルーがどつき合う写真くらいにしか思いません、或いはもっと無感動でしょう、カンガルー対戦写真がTwitterに流れたらちょっと前後に注目しちゃいますがその程度の感情すらもドッペルゲンガーには沸きません、しかし真面目なストリートファイター2は、同一人物が2人同時に画面に映ることを、最初は拒否しました。
*1 「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」発売記念インタビュー 第1回「ドンキーコング篇」より。
『ドンキーコング』は、マリオがはじめてジャンプした画期的なゲームでもありますしね。
宮本 そうですね。ただ、これをつくった頃はけっこうマジメだったんです。たとえば身長より高いところから落ちたら、足がグキッとなるでしょう?
はい(笑)。
宮本 そこで、身長の1.5倍くらいの高さから落ちると死ぬようになってるんです。でも、さすがにそれくらいで死ななくてもいいんじゃない、ということでつくったのが『マリオブラザーズ』で、いまや身長の5倍くらいの高さから落ちても平気な顔をしてますからね。
マリオがジャンプするたびに、足がグキッとなったらゲームになりませんからね(笑)。
https://topics.nintendo.co.jp/article/cb4c1aca-88fb-11e6-9b38-063b7ac45a6d
唯一、事実上の同キャラ戦を行えたのはリュウ/ケンです。方や文無し宿無しの山籠もり、方や財閥の御曹司と、異なる人生を送った二人ですが、ゲームの中で発揮される性能は全くの互角、コンパチでした。
彼らにのみ同キャラ戦が許された理由を、ウメハラ氏は「同キャラやって唯一面白いのがリュウだから」と分析しています。2D格闘に波動拳が必要な理由と並んで語られていますが、納得する部分もある反面、単に前作の主役二人とも揃えといたとか、そもそも仲間内でしか対戦しないと思ってたので仲間内のガントレットどこ座るノリで決める想定だった*2、所謂「作った人そこまで考えてないと思うよ」と捉えることもできるでしょう。
その辺はどうであれ、同キャラ戦を行うには、性能差の無い同キャラのための別人格が必要だった、そんな時代だったことを考えて下さい。今よりも常識がゲームを支配していた頃、腕が伸びようが火を吹こうがゲームだから良いが、同一人物が2人居るとは考えもしなかった頃のお話です。
*2 すみません、これ開発者インタビューっぽいのどこかで見た覚えがあるんですが、シャドルー格闘家研究所、IGCCクリエイターズボイスを軽く流しても見当たりませんでした。4Gamerの記事は見つけたけど、これだったような違うような……。
対戦をウリにしたアーケードゲームは,それほど流行(はや)らない。それが1980年代の常識だった。それを考えると,「ストリートファイターII」を楽しむプレイヤーが最初はCPU戦で遊んでいたのは当然と言える。
「ストリートファイターII」は対戦が楽しめるように作られた作品だが,開発スタッフでさえ,「日本では対戦が流行らないだろう」と考えていたのだろう。対戦はどちらかと言えば,日本より米国を意識していたのではないかと思う。
https://www.4gamer.net/games/368/G036842/20170520002/
しかし現実は制作サイドの思惑を超えて、プレイヤー達は知らない相手とすら対戦を始めました。始めは一言声をかけてからの乱入だったとの話ですがこちらもリアルタイムではなく聞いた話です。そしてそこに私は妄想を重ねます、オレもそろそろ春麗使いたいんだけどどいてくれねーかなコイツ、と。
1P2Pを見分けるための色違いを実装しつつ、スト2ダッシュは全てのキャラクターの同キャラ対戦を可能にしました。当然リュウにも色違いのリュウが存在するため、ケンは不要になりクビ……ではなく、リュウと違った技個性を持つに至りました。
それ以降、リュウは波動拳が燃えて、ケンは昇竜拳が燃えて、ユンの2Pだったヤンも2ndで別キャラとして独立し、同キャラ戦やるのに態々別人格を用意する必要は無くなりました。
余談ですが、BATSUGUNは性能差の無い同キャラのための別人格として1P2Pを見ていましたが、風の噂で2Pのほうが足が速いと聞きました。サターン版で調べたところ、端から端へ動くのに必要なフレーム数は1P2Pどころか機種ごとにすら全く同じでしたので、どうぞお好きな方へお座り下さい。2Pに座るのにそんな仰々しい理由付けは要りませんよ、みんな分かってます、若い子の方が好きでしょう、可愛らしいですからねメカニック娘。アルティーノ=トリューデュ、18歳。
さて世は正に大ドッペルゲンガー時代、オレもアイツもリュウだけどオレのほうが強いぜと言う時代において、じゃあアイツのリュウって何者だよってトコには触れないのがお約束でした、さながらギャグ漫画で致命傷を負ったキャラがピンピンしているかの如く。
格ゲー全盛期において同キャラがゲーム内ではどのように扱われていたか、本来なら調べてリストにでもするべきでしょうが、ちょっと体力要りそうなのでイメージで失礼。大体、勝ち台詞シーンで、そっくりさんとか真似すんなとか、そういう感じだったと思います。
有名なのは真サムのナコルルの2Pカラー、勝ち台詞シーンの顔が違うというお遊びが発展して、全キャラが修羅と羅刹の2モードを搭載したり、アスラ斬魔伝では羅刹ナコが髪の毛ばっさり切ったり、それがナコりものでレラになったり、そして零サムで本当に別キャラで参戦したり、ちゃっかり覇王丸の羅刹モードも羅刹丸として出てたりしましたが、これほど2Pカラーが取り上げられた例も中々無いでしょう。基本はあくまで、触れないお約束、だったハズです。
2P側の存在に納得がいくゲームも無いわけではありません。例えばメルティブラッドは同人版のストーリーモード内で、噂や都市伝説から来るイメージが具現化されては消えて行き、それを生み出す黒幕を負う物語がつづられます。であれば対戦プレイという無尽蔵で偶発的な殺し合いもまた、そのお話の道すがら、具現化しては殺し合い消えて行く噂のイメージ達として納得できます。流石は型月、ノベルゲー途中で投げがちな私が引き込まれた月姫を書いた先生はやっぱ一味違うなあと舌を巻いた部分でした。
さて、ここまではたった2人で閉じた対戦のお話。世の中にはもっと大規模な殺し合いゲームが存在していました、FPSです。
Wolfenstein3Dの主人公はB.J.ブラスコビッチといいます、これはシングルプレイゲームですのでB.J.は彼一人です。ならばデスマッチが搭載されたDOOM、4人が一緒に入る部屋に、ドッペルゲンガーを信じない真面目な時代の開発者は4人それぞれに別の個性を割り振ったのでしょうか?Doomguy, Space Marine, DOOMおじさん、多種多様な呼び名がその答えです。DOOMは主人公から固有名詞を剥奪し(ペットのウサギにさえ名前があるのに!)、全てを「貴方(You)」に委ねました。上で言う所の対戦空手道形式、Doomguyとは画面下で鼻血を出している彼であり、スポーン地点にロケットを垂れ流す憎いあん畜生であり、水平二連ショットガン片手に返り血を浴びる貴方自身です。
対戦FPSについて深く調べていないので、以下個人の経験に基づく思い出話です。
私が触れた対戦シューター、真っ先に挙がるのはアウトトリガーなのですがこれは日本アーケード文化の中にある作品なので平気でドッペります。
次がCoDとBF1942、どちらも第二次大戦中の無力な一般兵Aくんに寄り添った視点が特徴で、対戦モードで似たような恰好のが何人居ようと全く気になりませんでした、対戦空手道形式です。
GunZOnlineを一瞬だけやった覚えがあります、基本無料で一部アイテム有料……と言うと今ならスキンにお金を払って一般兵Aを脱出しよう!というスタイルが一般的ですが、この頃は、時間か金かを投入してイカツい武器防具買って性能差で轢き殺そう!みたいなスタイルが主流でした。このゲームも装備の差を埋めるには時間か金の投入が必要ですが、本質的には腕の差、ダッシュとガードと壁蹴りを繰り返しながらバタバタと動き回るテクで高速に展開するゲームプレイの部分が、Payしても尚Winできないコアな味わいを生んでいた……と思います。当時ガキンチョの私はPayもWinもしていない方でした。
9つの個性から1つを選ぶTeam Fortress 2は、どれも何人も居てたまるかな見た目をしていますが固有名詞より役職といった感じの名前が付けられています。
Unreal Tournamentシリーズに触れていないのはこの手の話をするのに致命的でした、ヒーロー選択式の対戦FPSとして一時期なら真っ先に挙がったタイトルですが、ご覧の皆さまのほうがきっとお詳しいと思います。
思い出話はここら辺にして本題。私が触れたヒーロー選択式対戦FPSの最初は恐らくOverwatchです、よくよく考えれば他にもあるかもしれませんが一旦はこれで。
キャラ毎しっかり人生やらの背景が存在し、公式からキャラクターストーリーを語る動画すら配信されています。私はあれを見るのが好きでしたが、好きだったからか、敵に1人味方に2人のゴリラがドッペった時は面食らいました。
敵味方同型同色のキャラが入り乱れる中を縁取りの色で見分ける、その画面に見慣れていなかっただけだったかもしれませんが、兎に角あの濃密なバックボーンを持つキャラ達が、単にピックされたからというだけで手を組んだり殺し合ったり、ドッペルゲンガーとして現れたりするのに、何かきっと理由を付けてくれるに違いないと期待していて、そしてそれはまだ叶っていない筈です、最近ストーリー追ってないので叶っていたらごめんなさいにわかです。
何故Overwatchばかりこんなに気になるのか、このゲーム好きなのかなとも思いましたが、何のことはない、私がまだFPSに関して、昔の真面目な常識に囚われていただけの話でした。
Apex Legendsもまた、骨太なストーリーラインを持つレジェンド達から一人を選び、そして60人のドッペルゲンガーから3人が生き残るゲームです。
元々PUBG、さらに遡ればマインクラフトやGTA:SAのMOD、それらの元ネタであるハンガーゲームやらバトルロワイアルまで行けば、有象無象の死んでもいい何人から最後の一人を決めるのが大筋です。
映画なら有象無象にバックボーンを描きますが、それはその無象が殺したり死んだりするシーンに興奮を振りかけるスパイスであったり、延々と殺したり死んだりするシーンを映すための添え物、ステーキの横の言い訳としてのインゲンやら、味噌を舐める言い訳としてのきゅうり、その類です。
ゲームにインゲンは要りません、きゅうりも要りません、パパが怒り狂いママが泣き叫ぶようにゲームは悪辣極まりないもので、殺し合う言い訳は個々人に委ねらています、それはキャラシート書けという話ではありません、インゲン嫌いなら残して貰って構わないんです。
しかしApexは、1マッチ57人死んでる有象無象惨殺ゲームの、死んでるハズの有象無象57人をふわっとぼかして(リスポーンとかいう謎機能があるし皆再生パイロット並に生き死にしてるんだろ等の言い訳)(そうすると皆レヴナント状態だけどみたいなツッコミどころ)、レジェンド毎にきっちりストーリーを描きます、あたかもすべてのApexゲームを生き残り続けているかのように、スカルタウンに降りては雑魚死を続けるレイスの死体の山を無視して、アカウント販売業者のマクロに従って痙攣するジブラルタルの死体の山を無視して、このレイスとジブラルタルは違うんですよとの言い訳もせず、公式トレーラーでミラージュやバンガロールをバンバン撃ち殺しながら。
ここまで来ると、最早ゲームはドッペるものというのは常識で、それも1人OKなら60人くらいでも問題ないということになります。
今一度ご確認下さい、Valorantのエージェント達は、明確に、もう一人の自分、対戦相手に現れたドッペルゲンガーを認識しています。
これはドッペる常識で言えば、触れてはいけない部分に触れるメタ発言、第4の壁の突破です。
しかし私は期待せざるを得ないのです、パイロットごと爆散した戦闘機に瞬時におかわりが来て死んだ筈の自分が戦闘続行できるその場復活STGに13機の理由を付けたレイストームのように、簡易な操作量に対してリアクションがあまりに大袈裟で派手すぎるロボットアクションにM.S.B.S.の理由を付けた電脳戦機バーチャロンのように、敵弾が即死で自弾が何百発も必要なことにも自機の慣性にも残機性にも全て言及したHellsinker.のように、Valorantの現状評判の悪いストーリーが、これを伏線として回収する日を夢見てしまうのです。
多分ないけどね。