心裂くような悲しみもいつかは消える
タイトルの「心を裂くような悲しみもいつか消える」は、「風化する」のか、「治る」なのか、悲しみではなく「痛み」なのか、どれがしっくりくるかわからなかった。書き始めた今ですら悩むような文章だ。
平成の最後に、ヒトリエのVo. wowaka が亡くなった。ボーカロイドの作詞作曲時代に好きな曲を何度か聞いたことのある程度の俄かに覚えのある程度の人だった。ヒトリエというバンド名は耳にしたことがあるが、曲は聴いたことなかった。
最後のアルバムに収録された“SLEEPWALK”は随分いい曲だった。彼が亡くなった後に聴いて、ずいぶん惜しい人をなくしたのだと気づいた。
今回この話を出したのは、友人の米津玄師がその時出したブログの記事にあった一言が印象的だったからである。
「時間が攫って行くんだろうな」このフレーズにはあまりにも寂寥が詰まっていた。悲しい気持ちが風化してしまう。死への悲しみで傷ついたけれど、いつかその傷が癒えていくことへすら悲しく思ってしまう気持ちが詰まっていた。
同じような気持ちの表現に心当たりがある。アジアン カンフー ジェネレーション、通称アジカンの「ムスタング」という曲のフレーズである。
この曲は、浅野いにお原作の「ソラニン」が映画化されるにあたり、主題歌を担当したASIAN KUNG-FU GENERATIONのゴッチ-後藤正文が原作からインスパイアされて書いた曲である。バラードでもなければ、メロディーが侘しさを持っているわけでもないのに、どこか悲しさを持っている曲だ。YouTubeにMVがアップロードされているので知らない人は是非聴いてほしい。
ここからはネタバレになるが、ソラニンでも人の死を乗り越えることが一つのテーマになる。
この曲のサビで出る様々な種類の「雨」は涙や悲しみを表している(と、個人的に思う)
最終サビの
この泣き止むかな、に込められる、いつか相手を思う悲しみも、その涙も、止まってしまうことが、「時間が攫う」と同じニュアンスを感じる。
誰かか近しい人を喪ったことがある人なら分かるかもしれない。悲しむ気持ちと、その悲しむ気持ちが少しずつ癒えていく寂しさが、ムスタングの歌詞にも、米津玄師のコメントにもある。
そして、それは、初めて失った悲しみではなく、今までに少なくとも一度経験しているからこそわかる気持ちなのだと思う。
極論ではあるが、初めて誰かを失うときというのは深い悲しみの中、これ以上立ち直れないのではと思うだろう。個人差があることは考慮する。けれど、悲痛という言葉通り、張り裂けそうな胸の痛みが苦しくて、もう耐えられないと思うくらいの痛みがあるとする。毎日のように相手のことや幸せを思い出して、相手を失ったことを思い出しては、涙が出る。自分の傷を抉るような記憶で、心も、身もぼろぼろになる。
でも、生きる本能というべきか、慣れという言葉が正しいのかはわからないが、失ったときから時間が過ぎると、自然と多くの悲痛は癒されてしまう。そして、少しずつ胸を傷めることがなくなった本人は、その事実に若干の罪悪感と諦めを感じるかもしれない。
抗えない時間の流れに、故人への思いが薄れていくような感覚に申し訳なさを感じるかもしれない。
それは、経験しなければわからない。そして、それが当然であると感じる人であれば、きっとあのような言葉は出てこなかっただろう。
悲しんでいる時こそ相手を思えると感じる人であり、その感情が薄らぐことへ寂しさか悲しさか、もしかしたら罪悪感を感じる人間からだからこそ出る言葉だろうと思う。
個人的な感想の域を出ないていどの話である。推論でもなんでもない。ただ、そう感じただけの話だ。
でもその悲しみすらが愛おしかったと思うタイプの人間だから、私は少しだけその言葉が引っかかったのだ。傷つきながら思い出すことが、少しだけ愛おしいと思ってしまう人間だからだと思う。胸が張り裂けそうな痛みは、自分のことを裂いたりすることはないけれど、その痛みの分、相手を大切にしていたことを思い知らせてくれる気がするのだ。もう思い出でしか会えない相手に、傷ついてでも良いから会いたい時の痛みだと、思えるからだと思う。
その痛みすら手放すのが惜しいというのは、ごく僅かな人間の気持ちなのかはわからないが、そんなことをぐるぐる考えさせるような力が米津玄師の言葉にはあった。そんなところで、と言われそうだけれど、この人はやっぱり曲を書く人なのだなと思った。
張り裂ける痛みがあるわけではなかったけれど、wowakaさんの曲を聴いた時、少しだけ生前に彼の曲をもっと聴いてみたかったと思った。時間にさらわれるような思いではなかったけれど、やはり惜しい人をなくすというのは胸が痛むと思う。話題にしたみたいな人間が、無闇矢鱈とR.I.P.を叫ぶのが正解だとは思えないから、コメントすることが大変難しいけれど、哀悼を表して。また彼のSLEEPWALKに心をしずめます。
この記事は2019.05.19にはてなブログに載せたものを転記しています。
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