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「未来なんて分からない」という大嘘

「コロナが流行してここまで日常が様変わりするなんて、数年前のあなたは想像していましたか?…未来に何が起こるかなんてわからないんですよ」

なんて言説を目にするたびに、自分は頭の中で
一応、想像していたんだけどなぁ」
とつぶやいてしまいます。

というのは、中国発の感染症が2020年にパンデミックを起こす、というアマチュアSF小説を2017年に書いていたからです。

もっとも、ウイルスの性質や致命率、それに伴う社会の影響などを正確に当てられたわけではないですが、

2020年代に何らかの感染症が流行すること」 自体は個人的にそれなりの確信を持っていましたし、ある程度の予測は可能だったと思っています。
(詳細は4年前にコロナ禍を「予言」した自分が当てたことと外したこと|秋山。|note

そんな自分だからこそ、「未来は何が起こるか分からない」という言説には違和感 を覚えています。

それどころか、デジタル化・グリーン化など大きな変化が着々と進んでいる現代では、危険な認識ですらある と考えています。

このnoteでは自分が未来をどのように認識しているのか、どうすれば未来をよりよく予測できるのかについて、自分なりの考えを語っていきます。

予測できる未来と、できない未来と、その間


何も未来が全て決まっているとか、自分は予言者だとか、そんな大それたことを言っているわけではありません。

ただ、未来には、「ほぼ確実に予測できる未来」と、「ほぼ予測できない未来」と、その中間である、「ある程度予測できる未来」があるということ

そして、ある程度予測できる未来 の領域を増やして、精度を上げていくことは重要だし、可能だと考えているだけです。

確度の違う未来のイメージ
未来の確度をレベル分けして整理する枠組みは他にもありますが、自分のイメージはこれです


といきなり言ってもわかりにくいと思うので、それぞれについて少しづつ説明していきます。

1.ほぼ確実に予測できる未来

朝の天気予報では今日は雨が降らないと言っていたのに、それが外れて雨が降ったら、少し文句を言いたい気分になりますよね。

でも、今朝チェックした星占いが外れたところで、そこまで文句を言いたい気分にはならないはずです。

それはあなたが、星占いと違い、今日の天気に関しては予報がかなりの精度で当たること、

つまり、今日の天気はほぼ確実に予測できる未来」だということを知っていて、天気予報に期待しているからです。

実際、気象庁の朝の天気予報は、その日雨が降るかどうかについては 87%、明日雨が降るかどうかについても 85% の的中率を誇っています。

そして、ほぼ確実に予測できる未来は必ずしも直近の未来である必要はありません。場合によっては 数十年後のこともかなり正確な予測が可能 です。

例えば、日本で少子高齢化が進むことは、数十年スケールの出来事ですが、それでもかなりの確度で断言することができますし、実際に過去に行われた人口予測は今の人口動態をほぼ正確に当ててきています。

2.ほぼ予測できない未来


一方、予測が不可能か、不可能に近い未来もあります。

例えば、20年後の総理大臣に誰に就任するのか、これは全く予想できません。自民党政権の確率の方が高いでしょうが、具体的に誰が首相に就任するかまで考えようとすると不可能に近くなります。

財布にあるコインを一枚投げ上げて、表が出るか、裏が出るか。これも予想が全くつきません。予測がつくなら、その人が超能力者なのか、コインにイカサマがあるかのどちらかです。

また、このnoteが結局何人に読まれるのかもわかりません。知り合いに読まれて終わりか、意外に色んな人に読まれるかは、note初級者の自分には全然予想がつきません。

当たり前のことですが、未来には予測できないこともたくさんあるわけです。

3.ある程度予測できる未来

しかし、重要なのは、単に予測できる未来と、できない未来があるだけでなく、その中間も存在するということ。

それが、ある程度予測できる未来です。

ある程度」というのは、どういう意味かというと、

1.それが起こることはわかるが、 いつどのように起こるかは不明
2.変化の 方向は大体分かる が、正確な向き や スピードが不明

ということです。

前者の例としては、首都直下地震・南海トラフ地震があるでしょう。これらの地震は いつか起こることは分かっています。またどのくらいの規模の地震がどこで起これば、各地の震度がどの程度になるのかも試算できます。

想定される首都直下地震の震度
http://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h25/74/special_01.html より引用

しかし、具体的に 何年に起きるか、どの季節のどの時間帯に起こるかはわかりません。

だからこそ、台風災害のように「今日は地震が起きる予報だから避難しておこう」なんていうのは中々できないわけですが、

それでもいつか起こることはわかっている以上、水・食料の備蓄、避難所の整備など、被害を減らすために できることはたくさんある わけで、そこが 「ほぼ予測できない未来」とは大きく異なります。



変化の方向は大体分かるが、正確な向きやスピードが不明な未来 というのが少しわかりにくいかもしれません。

これは一言で言えば、このようなグラフで表される変化が該当します。

Way, R., Ives, M., Mealy, P. & Farmer, J.D. (2021). 'Empirically grounded technology forecasts and the energy transition'. INET Oxford Working Paper No. 2021-01.より引用


これは 再生可能エネルギーのコストが今後どの程度下がるのか を研究者が新しい手法で推定したグラフです。

横軸が年で、縦軸がLCOE(コスト指標の一種)の対数になっていて、黒い点が実際の観測値で、水色の部分が著者らの予測で、赤の線がIEAによる既存の予測です。

見ればわかるとおり、太陽光発電のコストは下がっていくということは明らかです。

ただ、どの程度下がるかに関しては幅があります。赤い、IEAの予測では下がり方は鈍いですが、著者らの予測ではもっと下がります。

筆者の予測も一本の線で表されているのではなく、濃い水色のゾーンに収まる可能性は50%、薄い水色のゾーンに収まる可能性は95%という形で範囲で表現しています。

しかも、縦軸は対数グラフなので、不確実性はかなり大きいです。(逆に言え不確実性はあるが結構な勢いで下がることだけは言えます)

このように、「ずばり、○○年後にはこうなる!」というのがあまりわからなくても全体としての傾向・方向は把握できる ような変化も存在するわけです。

もちろん、できることなら「ずばりどうなるか」を知りたいですが、これだけでも予測としてはそれなりの価値があるわけですし、わからないよりはかなりマシなわけです。


このような整理をすれば、予測精度を高めるためにするべきことは大体分かります。

1.「ほぼ予測できない未来」に分類されていたものをある程度予測できる未来に格上げ していくこと、

2.「ある程度予測できる未来」の精度を高めていく こと

これらが必要です。

ただそのためには、まず、予測が成功している分野が、なぜうまくいっているのかを考える必要があります。

「予測できる」未来はなぜ予測できるのか?


天気予報は、改めて考えてみるととてもすごいもので、素人がただ空を眺めても、明日の天気なんてほとんどわからないのに、ぼんやりニュースを見ているだけで私たちは高い精度で未来の天気を知ることができるわけです。

しかも、その制度は景気・株価予測や、選挙予測など世の中にある様々な予測と比べても高い水準を保っています。

なぜ天気予報だけ高い精度で未来がわかるんでしょうか?

色々考えたんですが、多分理由は二つあって、

1.天気は「既に起こっている」こと。
2.気象の変化を高度にモデル化して、計算できること

これに尽きると思うんですよね。

「天気が既に起こっている」というのはどういうことかといえば、天気が西から東に変わることを知っていれば、気象学の知見を全然知らなくても、西の天気を見れば、ここの天気の(とても粗い)予測が立てられるということです。

つまり、今ここの天気だけ見ると将来の天気は予想が難しく、天気はランダムに起こっているかのようにさえ思えるかもしれませんが、視野は広げて、他の場所の気象条件を知ることができれば、それを予測の手がかりに使えるということです。

だからこそ、観測網を拡充すればするほど、予報の精度は上がっていくわけで、観測所やアメダスが整備されるだけでなく、観測網は宇宙にまで拡大していて、今や20もの気象衛星が運用されているのです。

逆にもし観測網が弱体化すれば当然予測の質は下がることが懸念されるわけで、最近ではコロナ禍で航空機の便数が減って、航空機から観測される気象データも少なくなったことで、予測の質が悪化してしまのではないか、という懸念がありました(実際にはそこまで影響はなかったようですが)

航空機観測の減少続く 天気予報への影響は?(片山由紀子) - 個人 - Yahoo!ニュース

そして、気象予測はただ観測網が充実しているだけでなく、そのデータをどう活用するか に関しても優れています。

高度に発達した気象モデルがあり、それをもとにスーパーコンピューターでシミュレーションすることだってできる。さらに、そこに気象予報士というプロの知見も加わる―――。

だからこそ、精度の高い予測が可能になるわけです。

そして、同様な条件がそろえば、気象以外にも制度の高い予測は可能です。人口の将来予測がそのいい例でしょう。

まず、将来の人口動態は既に起こっている未来」です。

というのは、今0歳の人のほとんどが30年後にはそのまま30歳になるということがわかりきっているからです。生まれた瞬間から30歳だという人もいなければ、今30代の人が30年後も30代であることもありえません。

未来の人口動態は既に今の人口動態にかなり現れています。

左が2020年、右が2050年の人口ピラミッドを比較したもの。
現時点で高齢層でなければ人口は単純にスライドする
https://www.ipss.go.jp/site-ad/TopPageData/PopPyramid2017_J.htmlで得られる図を改変した
図に女性のみを使ったのはピラミッドの右半分同士で比べる図が最も編集しやすいため。


だから、天気と同じように今の状態を正確に把握するだけで、ざっくりとした予測を立てることが可能であり、

日本には(それなりに)信頼のおける人口統計があるので、この国にどの年齢の男女が何人いるのかについて私たちはほぼ正確に把握することができます(逆に言うと人口統計の信頼性が著しく低い国々こそ、世界の人口予測を難しくしている要因の一つです)。

その上で、出生率など様々なパラメーターを組み込んだモデルを立てれば、ほぼ正確な人口予測が出来上がるわけです。

「ある程度」未来を予測する


徹底した現状把握
高度なモデル 

ほぼ確実に予測できる未来の予測を支えているこの二つをできる限り応用することで、「ほぼ予測できない未来」を「ある程度予測できる未来」に格上げしたり、予測の精度を高めたりすることができると考えられます。


例えば、日本の環境政策が今後どうなっていくかをざっくりと知りたい人がいたとします。自分のアドバイスは一言です。

「とりあえずEUを見ておけ」

EU内で行われた制度や法規制は、しばらくのタイムラグの後に日本に取り入れられることが結構あります。逆は中々ありません。どちらが優れているとかそういう話ではなくて、現実としてそうなっています。

天気のたとえで言えば、EUが西で、日本が東です。西を見れば明日の東の天気が一応はわかります。

例えば、2020年末、日本は温室効果ガス排出を2050年までに実質ゼロにすることを表明しました。

このことは多くの人にとって晴天の霹靂だったでしょうが、この分野を多少知っている人にとっては「ある程度」予想できる未来であり、まさに時間の問題でした。

その約一年前の2019年末、EUは主要先進国で初めて、2050年温室効果ガス実質ゼロを宣言していて、かつその動きは他の国や地域にじわじわ広がりつつあったからです。

もちろん、EUでの政策が必ずしもグローバルスタンダードになるわけではなく、日本に取り入れる際に変質することも多いです。

単純に EUの変化が日本に伝染すると考えるのは、天気が西から東に流れるだけだと考えるのと同じくらいざっくりしたものです。

なので、海外の潮流を日本に取り入れるときに、どのようなことを変えなければならないか(もしくは変わってしまうのか)などについてもきちんと考察することで、より精度の高い予測が可能になります。

2050年実質ゼロの例で言えば、

EUのグリーンディールは再生可能エネルギーをかなり強調していましたが、日本では温暖化対策というと、原発が議論されやすく再生可能エネルギーが軽視されやすい傾向・構造があるので、2050年実質ゼロ宣言が、再生可能エネルギー推進のモーメンタムにはつながりにくいことが予想できました(それでも変化はそれなりには進んでいますが)。

こう言った推測は気象予測や人口予測とは違って数字を使いませんが、要は、どのように変化が伝わるかについて、簡易的にモデルを作っているわけです。

現状をしっかり把握して、変化が先行して起こっている場所を見つけ、その変化がどう移行するかモデルを立てて予測する。これだけである程度の予測を立てることが可能になるのです。
(とはいえ、あくまで、「ある程度」の予測なので、具体的にいつ日本が実質ゼロ宣言をするかは予想できませんが)


そして、ある程度予測できる未来は個人の努力でどんどん増やしていくことができます。

自分にとってこのnoteがどのくらい読まれるかは、ほとんど予測できない未来です。

しかし、わからない理由の大部分は 自分がnote初級者だからです。

どのようなnoteがよく読まれているのか、今どのような話題が増えているのか、全く把握していません。要は現状把握ができていないわけです。

そして、どういうタイトルで、どういう内容にした方が伸びがいいかなどの経験則もなく、モデルも立てられません

それがどんどんわかるようになれば、ある程度の予測が立つようになってくるでしょう。


まとめ:結局、未来は分かるのか?


もちろん、それで精度を向上していくのにも限界があります。

天気予報と同じような高みに持っていくためには、分析者の血のにじむような努力と、観測網整備のための莫大な費用が必要となるでしょう。

現に選挙予測に関しては、世論調査と分析者によるモデル構築がフルに取り入れられていますが、まだまだ誤差が大きいのが現状です(投票者全員にアンケートを取っているわけではない点で世論調査は気象観測や人口モデルに劣っていますし、物理現象と同じレベルで人間の政治的行動をモデル化するのがかなり難しい)。

ただ、「ほとんど予測できない未来」 を 「ある程度予測できる未来」 に変えていく だけでも意義は大きいです。

一応想像することができるだけで、未来に対する備えは大きく変わるからです。想像も予想もしていない未来に対しては備えることもできないのですから。

今まで言ってきたことをまとめるとこんな図になります。

右下はふざけているのでお気になさらず


未来への予測精度は努力次第で高められると自分は考えています。

ただ、そのためにはまずは、「未来に何が起こるかはわからない」という考えからは一度脱して、真摯に現状を把握し、モデルを考える(法則を探る)ことから始める必要があります。

グリーン化、デジタル化など、メガトレンドと言うべき大きな潮流がある現代では、現状把握をしっかりするだけもかなりの予測が可能になると考えられます。

「未来に何が起こるかなんてわからない」なんていうのはその後でいいはずです。

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