製造業牽引型の成長モデルはもう古い? ~東アジアの奇跡は繰り返されない~
製造業を牽引役とする経済成長モデルは現在の途上国には当てはまらないだろう。理由はグローバル化、技術の進歩により、今日の製造業でのキャッチアップには膨大な資本と人的資本の蓄積が必要となるからである。よって、途上国の今後の成長はサービス分野の生産性向上にかかっている部分が大きい。
モチベーション
日本をはじめとして東アジアの多くの国は製造業が経済成長を牽引し、そのスピードと持続期間は、それを奇跡と呼ぶまでに著しいものがあった(もちろん成長モデルは簡単に一般化できないものの)。未だに、開発経済の分野では、この成功体験から、途上国の経済に必要なものは製造業への集中だと考える人も多い。
しかし、製造業牽引型の成長戦略は本当に正しいのだろうか。過去の成功体験に固執しすぎて、現在のマーケットを適切に捉えられていない悲しいワンマン社長のようになっていないか。
本稿では、国際経済学・開発経済学の分野で著名なDani Rodrickが提唱しているPremature Deindustrialization(早すぎる脱工業)をベースに上記の疑問について考察していく。文献としては2015年出版だが決して古い概念ではなく、開発分野では今もよく話題に出る理論である。
早すぎる脱工業化とは?
歴史的に工業化が進んだ国々では、非工業化は所得水準が高く、発展の後期に始まった。基本的な成長の順番としては、農業→製造業→サービス業であり、製造業がある程度成熟してからサービス業の生産シェアが増え始めると考えられてきた。対照的に、早すぎる脱工業化は、所得水準がはるかに低く、発展の初期段階にある国々で、製造業がまだ未熟なまま、サービス業への移行が進むことを指す。その結果、経済の大半はインフォーマル部門で生産性が低いままになってしまう。
なぜ早すぎる脱工業化が起こるのか?
発展途上国において早すぎる脱工業化が起こり、製造業中心の成長戦略がもはや途上国に当てはまらない理由は以下。
1. 製造業はもはや労働吸収能力を持たない。言い換えれば、オートメーションと技術革新により、今日の製造業は以前よりも労働集約的ではなくなった。製造業のキャッチアップは理論的には可能だが、先進国との競争に勝ち残り、グローバル・バリュー・チェーン(GVCs)に参加するためには、より多くの技能と資本が必要になる。もちろん製造業の中でも、労働集約的な分野もあるかもしれないが(Automationにとって替わられていなければ)、それはGVCsの中では付加価値の低い分野であり、そこにフォーカスしたとて大きな成長は望めない。先進国がやっているような高付加価値産業に移行するためには、多くの熟練労働力や、資本が必要であるが、途上国はそれらが不足していることが多い。
2. グローバル化は国内製造業育成の魅力を低下させる。規模の経済やより効率的な生産プロセスの恩恵を受ける先進国からの商品の輸入が容易になるため、発展途上国の国内産業の成長が抑制される可能性がある。その結果、自国の製造業を発展させるよりも輸入に頼るようになる。
今後の産業政策とは
工業化を中心に据えた成長モデルが繰り返される可能性は低い。
途上国の今後の成長戦略はサービス主導となるだろう(ここでいうサービス業には技能集約型のIT・金融サービスなどは一般に含まない)。
サービス業の生産性向上が急務(大部分を占める中小企業のより質の高い雇用の促進)。
Lastly but not the least
上記の議論は決してグローバル化=悪という結論ではない。グローバル化によって社会厚生は上がるためである(高品質なものを安価に入手でき、自国の比較優位のある分野に資源を割くことで効用を最大化できる)。
問題は、グローバル化の中で、途上国がどのように、より高い成長を成し遂げるかということである。サービス業主導という点で、東アジアが経験した高い成長率とは見劣りするかもしれないが、それが今日の開発戦略のあり方なのかもしれない。
参照)
Rodrik, Dani. 2015.“Premature Deindustrialization,” Journal of Economic Growth, 21:1-33.
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