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noteの街に風が吹く:小説的考察【1話】傷心と出会い
【あらすじ】
転職を繰り返してようやくセールスレディーとして頑張れそうなところだったジュン。まさかのイジメに遭って落ち込むが、謎の座敷童子・まゆによって元気づけられる。まゆのアドバイスでnoteに記事を投稿しはじめたところ、その魅力にハマっていく。やがてマネタイズに興味を持ち、副業で稼ぐために奮闘するのだった。これは実在するnoterの活動を参考にして「noteの街」の歩き方を考察したビジネス小説のようなものである。
今日の仕事はつらかった。というかダルかった。
退勤すると会社があるビルから出て帰路についた。身も心も疲れてコンビニへ寄る気力すらない。
満員の路線バスに乗って20分ほど揺られると、バス停から歩いてすぐのところに共同住宅がある。隅っこにホコリがたまった階段を4階まで上って、ようやく我が家に着く。といってもひとり暮らしだ。
鍵をあけると1Kの部屋に向けて「ただいま」と呼びかけた。もちろん返事はない。誰も居ないのだから。私なりの我が家に対する礼儀というところか。
ただ今日はさすがに元気がなく、自分で消え入りそうな声に気づいて苦笑した。まあ、あんなアクシデントがあったのだから当然だろう。
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新年になって派遣会社から紹介された宅配の仕事を頑張っていたが、リストラに遭う。途方に暮れた私は、藁にもすがる思いで目に入った求人広告に飛びついた。
3月から心機一転のつもりで営業の仕事を頑張って、なんとか1か月が過ぎたときのことだ。
事務所で机の引き出しを開けると、「○○いらない」と私の名前をマジックで書いた紙が入っているではないか。しかも、動揺を隠そうと思ってトイレに行くと壁に「○○辞めろ」と落書きがあった。
ショックだった。社会人になってこんなイジメがあるとは想像もしなかっただけになおさらだ。すぐさま上司に直訴したところ、そのリアクションに耳を疑った。
「エイプリルフールだからね。まあ辛抱してやってくれないか」
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子どもの頃から、もの静かで目立たない存在だった。かといって、いじめられっ子というわけでもない。幼稚園・小・中・高・短大とマイペースに過しながら、正社員として就職できた。大きなミスをすることもなく順調に働いていたつもりである。ところがコロナの影響で会社が倒産してしまい、派遣会社に登録した。その仕事もリストラされ、今度はこの有様だ。振り返れば冴えない人生を送っている。
私はショックからさめぬまま帰宅すると、IKの部屋に「ただいま」と呼びかけた。何ら変わらぬ我が家で、取りあえず手と顔を洗ってから冷蔵庫を覗く。
レンジでチンするだけで美味しくできる「冷凍チャーハン」を主食に、レンジで温めればいい「冷凍焼き餃子」、お湯を注ぐだけで済むフリーズドライの味噌汁、ミニカップの納豆。これが基本的な我が家のディナーである。
おっと、唯一の贅沢として楽しむアルコール度数3パーセントのジンライム風チューハイを忘れてはいけない。鼻歌で『雨上がりの夜空に』を口ずさみながら飲むと最高だぜぃ。
一杯ひっかけながらディナーを食べて少し元気を取り戻した私は、いつものようにテレビのスイッチを入れた。
だがお気に入りのお笑い芸人たちが出演するトーク番組を見ても笑えない。笑うどころか大声がうるさくて、チャンネルを変えてしまった。
音楽番組を見ても、映画番組でアニメを見ても、私の心は癒やされることはなく、余計にもやもやしてきた。
自分で思っていた以上にメンタルをやられていると直感したので、テレビを消して気持ちを落ち着けようと試みた。
noteの精霊?
私はテレビを消すと、ノートパソコンを開いた。ネットで「note」を見たくなったからだ。
noteにはプロからアマチュアまでたくさんの人たちが文章を公開している。
私は数年前にスマホでTwitterを見ていたところ、お笑い芸人が書いた「携帯電話」を題材にした小説があることを知る。読んでみたくなり、noteを覚えた。
noteは投稿された記事を無料で読むことができる。小説のみならず、いろいろな人のエッセイや評論を見てまわると楽しい。
この日は、会社での「エイプリルフール」騒動によるショックを少しでも和らげたくて、共感できるような記事を探してみた。
すると職場で受けた理不尽な仕打ちや、子ども時代のトラウマなど辛い経験を吐露したタイトルが目に入った。
私はそうした記事を読み進めながら感情移入して涙がこぼれ、あるときは感動で鳥肌が立った。誰しも何らかの傷を心に負っていることを知るうちに、自分でも体験を投稿してみたい衝動に駆られたのだ。
しかし、子どもの頃から作文は苦手で、大人になってからも書類に必要な程度しか文章を書いたことがない。そんな私がnoteに投稿するなど無謀すぎる。
心の中で葛藤していると、舌打ちする音が聞こえたような気がした。
「もう、じれったいんだから」
舌打ちに続いて、確かにそうぼやかれた。
見ればパソコンの画面に映った人影がしゃべっているように思える。
みるみる形を成していき、おかっぱ頭をした着物姿の女の子になった。しかもディスプレイから浮き出てきそうなほどリアルだ。
「ぎゃー!お化け!」
私が後ずさりすると、さらにくっきりと姿を現した女の子は不満げに訴えた。
「誰がお化けですって!失礼にもほどがあるわよ」
そう言うが早いか、頭からぬっと出てきた。
「やっぱりお化けじゃん!あれと同じだもん!」
あまりの恐怖に「貞子」という言葉すら出てこなかった。
「いい!私は座敷童子の遠い親戚なの。つまり精霊の仲間で決して“お化け”ではありません!」
「…」
お化けはそう主張したようだが、ほとんど耳を素通りした。当の私は何か悪いことが起きそうな予感で頭がいっぱいだったからだ。
noteの街に風が吹く 続く⇒
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