君たちの脳はガガガッ
サタデーナイトフェスの会場は人いきれでむんむんしていた。
5人組グループ「ルーダ」が登場するからだ。
メンバーはアナウンスとともに定位置に付く。
衣装は白を基調としたノースリーブのミニワンピ。ニーハイをガーターでとめていた。
ファンは彼女たちの一挙手一投足を見逃すまいと固唾を呑む。
「新曲です」
センターのミロクが告げると軽快なイントロが流れた。
なぜ勝手にわたしの心を奪ってくの?
なぜわたしを自由にさせてくれないの!
なのにあなたはアナザガールと遊んでばかり
乙女心をわかっちゃない
もう堪えられない
慌てたってもう手遅れ
ズキュン to コラソン
「みんなー!楽しんでる-!」
「ウォーー」
「じゃあもっといくよー」
彼女たちはピストル状の玩具を構えていた。
水鉄砲で遊ぶつもりか。
最前列にいたオレは身を乗り出した。
「シンジくん、来てくれたんだ」
ミロクが気づいて微笑んだ瞬間、額に激痛が走る。
滴り落ちる液体は濃い赤色をしていた。
「え?」
オレが驚いていると、あちこちから悲鳴が上がった。
「キャー」
「グエッーー」
「なんじゃこりゃ」
「みんなーっ、ケチャップの味はいかがー」
ペイントボールガンにケチャップを仕込んだらしい。
当のミロクは同期のイブキと銃口を向け合う。
ビシッ ビシッ ビシッ
体が震えていた。
「やめろっ」
オレがフェンスを乗り越えようとしたそのとき。
大型モニターに映像が現われた。
灰色の丸い頭部。黒くて大きな目。エイリアン顔だ。
ジジジッ
雑音に混じって声が聞こえる。
「キミタチノノウワ・・・」
ガガガッピーッ
「ナンデ・・・チッ」
カチャカチャ
操作する気配がしばらく続いた。
「イイカ ツギワチガナガレルゾ」
ブツッ
音が途切れた。
静寂が訪れたのも束の間、会場はパニックと化す。
関係者がメンバーに駆け寄る。
オレはそんな大人たちに手帳を見せた。
「警察です」
せっかくの休暇がとんだことになっちまった。
【続く】