移りゆく「あれから10年も」“ひとり世代間交流”を実況。
「あぁれぇかぁらじゅぅねーんもー」
私は渡辺美里が3年ほど前にスタジオライブで歌った『10years』の動画を見ていた。
「今はもう、あれから35年過ぎちゃったのか」
“新卒C”がつぶやいた。
サラリーマンになって仕事に慣れてきた頃に『10years』をよく聴いたことを思い出したのだろう。
懐かしさとともに記憶回路の回転数が上がり始める。
ジャーンジャジャーンジャジャジャンジャンジャン
渡辺美里の声を掻き消すように響くエレキギターのロックサウンドが心地よい。
「ヤードバーズの『幻の10年』っていう曲もあったな」
ギタリストのジェフ・ベックに憧れて、ラジオでエアチェックしていた。
ただ『幻の10年』の発売は1966年まで遡る。まだ幼稚園に通っていた頃だろう。
“幼児A”がぼやく。
「10歳にもなってないのにまだ意識してるわけないじゃん」
当時よりも知識は増えているので生意気だ。妄想による世代間交流だからご理解いただきたい。
「十年はひと昔って陽水が歌うのをよく聴いたな。『夏まつり』だっけ」
“中二B”がフォークソングブームの頃を振り返る。
当時は井上陽水が好きで、両親が年老いていく様を歌った『人生が二度あれば』を聴いて切ない気持ちになったものだ。
「父は65歳だもんな。中学生からすればモウロク爺さんに思えて涙が出てきたよ」
「あのーーー。来年65歳になりますけど・・・」
「誰?あんた?」
冷たくあしらわれて“還暦E”は返す言葉がなかった。
だって「お前らのなれの果てだよ」って言ったら、せっかくの“世代間交流”が白けちゃうかと思ったんだもん。
アラフィフの渡辺美里は『10years』を歌っても、やはり「大切なもの」は見つけられないという。
私など還暦過ぎてもなお、見つけられそうにない。
「なんだかなぁ」
無力感を抱きながらふと目にした映画のCM動画に救われた。
ーおしまいー
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