乃木坂推しメダリストがオタク談義【実話風フィクション・さりしの間】
この夏はパリオリンピックにお盆と行事が目白押しだ。
ある日の夕暮れ時、サラリーマンや大学生と思われる集団やカップルたちで賑わう新橋駅前を二人の女性が寄り添うように歩いていた。
「あの辺りにあるはずなんだけど」
10センチほど小柄な方が、何かを探すようにスマホに目を落とす。
「ねえねえ、そろそろ教えてよ」
背の高い方が甘えた声でせがむ。
「だめだめ。言わないでって釘を刺されてんだもん」
「めちゃ気になる」
新橋駅周辺は繁華街として知られ、評判の良い居酒屋が多い。
二人は私服姿でマスクを付けているが、帽子を被っていなかった。
髪型や目元の特徴は一見してわかる。なにより放つオーラが違う。
もし昼間だったら、街ゆく人々が彼女たちに気づいてざわついたことだろう。
「あ、きっとここよっ」
小柄な方が何度もスマホと見比べながら声を弾ませた。
その店は漆喰の壁と無垢の木を使った引き戸というシンプルな外観をしている。
派手なのぼりやネオンサインはなく、小さなのれんがかかっていることからどうにか居酒屋だとわかった。
おそるおそる引き戸を開けてか細い声を出した。
「あのー、予約していた者ですが」
「どうぞー!奥のさりしの間で待たれてますよっ」
二人は元気の良い女将らしき人に案内されて、店内の通路を進む。
外観とは打って変わり、内装は明るくてモダンな作りだ。有線だろう、耳に心地よいジャズが流れている。
入り口から奥に向かって左手に客室がいくつか並び、右手にはカウンターがある。カウンターと厨房は対面していて、板前や店員と思われる人たちが見えた。
「さりしの間」の表札がある部屋の前で女性が声を掛けた。
「お連れの方がいらっしゃいました」
「はーい。ありがとうございます」
障子は開いていたので、顔をのぞかせるとお互いに目が合う。
「おひさしぶりです」
「元気してた?」
「えーーーー!うそでしょ!」
三者三様の感情が弾けた。
※来店したのは平野美宇と志田千陽。
「まぁまぁまぁ、座ってよ。いろいろ聞きたいことがあるの」
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