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高2女子がゴイサギとリンクしたら世の中が1ミリ動いた【第23話】覚醒

「お前、ウチのもんじゃねえか! 何やってんだ!」

タイジがコグレに気づいて怒鳴った。作業着姿でなくとも見覚えのある顔だけにわかったらしい。

相対する3組から少し離れたところで、私や草野さんの横にいたコグレがゆっくり歩を進めた。

「あなたあの時の…」
「何でここに??」

ビンちゃんとラリホがびっくりしたのも当然だろう。あの日、幽霊アポートで一戦を交えた青年が現れたのだから。

一方の堂園一派としても釈然としない。

「コグレとかいったな。何で仲間を倒してんだ?」

オッサンが淡々と確認すると、答えを聞く前に堂園朝日が言い放った。

「どうやら警察と関係がありそうね。作業メンバーでもないのにここに来たことからして怪しいわ」

「ちょっとわけありでね。婦警さんとこちらのJKにはお世話になったことがあるのさ」

コグレは素直に“こちら側”であることを認めた。

「どうせスパイのつもりで紛れ込んだんでしょ。わかったからには容赦しないよ」

堂園に宣告されたコグレは平然と言い返した。

「ああ覚悟のうえさ。あんたも堂巻屋グループと反社の関係を追究されることになるからそのつもりでいるんだな」

「ちょっと!いい加減なこと言わないでちょうだい!」

堂園朝日は色をなした。

その頃、堂園が動揺する一方でアマゾネスは異変を察知していた。

「いがみ合ってる場合じゃないかもよ」

「ああ、そのようだな」

オッサンがそれを受けてうなずいた。

森の動物たち

静かに、しかし確実に、何かが迫ってくる気配を感じる。

ゴイサギ大明神の境内(といっても半径20m程度である)から外は雑木林が広がり、すすきなどの野草が生い茂っていた。

薮の中からさまざまま音がするのだ。

「ガサガサ、ガサガサ」

風に揺れる草木がこすれているのか、はたまた生き物が通るときに出ているのか。

「ふん、ふん、ふん」
「はぁ、はぁ」

鼻息のような音もする。

気配が近づくにしたがって鳴声がハッキリ聞こえた。

「キュー、キュー」
「フオー、フォー」
「ンゴッ、ブォッ」

数種類の獣がいることは間違いない。薮に隠れてこちらの様子をうかがっているのだろう。

片や高い木の上からは鳥らしき鳴声が響く。

「クワーッ、クワーッ」

カラスの鳴声はさすがにわかる。

「ホホホホッ、ホホホ」
「ピッピピピッ、ピッピピピッ」

野鳥もかなりの種類が集まってきた。

人間たちときたら圧倒的な森の気配を感じてビクビクする始末だ。

「ギャー!」

怖がって叫んだのはタイジだった。

「ヘビ、ヘビ、ヘビ-」

1mぐらいある黒い斑文が鮮やかなヘビがタイジの前を横切っていく。

「ヤマカガシね。毒があるから気をつけて」

アマゾネスが先生らしい口調で説明した。

「俺は毒があろうがなかろうが、ヘビが一番苦手なんだよ!」

タイジがアマゾネスの後ろに回り盾にしようとして肘鉄砲を食らった。いいざまだ。

動物たちは我々を試して「恐るるに足らず」と踏んだのか、動きが活発になってきた。

毛並みがキレイな1匹のアライグマがのそのそ歩いてきた。

アライグマは外来種だが、アニメの影響などでペットとして人気が出た。しかし気性が荒く爪と牙が鋭いこともあって、手を焼いた飼い主らが野に放したため、野生で繁殖してしまったのだ。

「あら~カワイイ。私、ラスカル大好きだったのよ」

意外にも堂園朝日が手を伸ばそうとしたところ、アマゾネスに一喝された。

「気をつけて!アライグマは感染症の病原菌をたくさんもってるのよ!」

「ヒッ」

堂園が手を引っ込めたからよかったものの、アライグマは爪をたてて引っ掻こうとした。

まるで日本人がカワイイ動物に気を許すことを知っているかのようだ。

今度は、シマシマ模様の小さなイノシシの子どもが姿を見せて、地面を嗅ぎながらちょこちょこ歩いてきた。

「お、うり坊じゃねえか。おーよしよし」

オッサン!お前もか!

と思った矢先、地響きがした。

「タッタッタッタッ」

「ブォーーー」

体長は1m以上、まるまるとして重量感がある親イノシシが突進してきたのだ。

「うわっ」

オッサンが叫んだときは吹っ飛ばされていた。咄嗟に牙を交わして受け身をとったから大事にいたらなかったが、オッサンでなければ命が危なかっただろう。

あわや大惨事という事態を目の当たりにして、人間どもは震え上がった。

「いったいどうしたらいいの? ゴイっち!何とかしてよ!」

私は心の中で叫んだ。

覚醒

「グワッー、グワッー」

一羽の鳥が翼を広げて雄大な姿で空を舞う。

ゴイサギ大明神の上空を旋回してやがて屋根にとまった。

「みんなー。出て来ていいよ-」

ゴイっちだ。私にはわかるが、周りから驚きの声が上がった。

「え、今しゃべったよね」
「まさか。ゴイサギの言葉がわかるなんて」

ビンちゃんが信じられないという表情で確認するとラリホが頷いた。

「また出た!ゴイサギ大明神の祟りだわ」

草野さん宅でゴイサギに追い出された経験がある堂園朝日は忌々しそうにぼやいた。

「皆、気をつけて。下手に刺激しちゃだめよ」

そんななかアマゾネスが釘を刺した。

ゴイっちのかけ声とともに、森の動物たちが茂みから姿を現したのだ。

「おい、ヤバいよ。俺たちもう帰れないのかな」

タイジが不安そうにオッサンに声を掛けた。

「さあな。でも、今はあの先生の言うとおりにするしかない」

さすがのオッサンも、ずらっと並ぶ森の動物たちに囲まれては為す術がないらしい。

するとゴイっちが切り出した。

「ボク、ゴイっち。人間たちに忠告するよ。この山はボクたち鳥や動物が暮らしているんだ。森を壊すようなことは許さない」

「その前にひとつ教えてほしいの。あなたはなぜ人間と会話ができるの?」

アマゾネスが最も知りたいことを聞いた。

「アマゾネス、いや南条先生らしい質問だね。ボクはあなたたちの脳内にリンクして交信しているのさ。実際にはしゃべっているわけじゃないんだ」

「人間界でいうテレパシーと思っていいのかしら」

「人間はテレパシーについてまだ十分わかっていないだろう。でもその概念が一番近いと思うならば、ボクはそれでかまわない」

ゴイっちはそう答えてさらに続けた。

「どうだろう先生。そして婦警さんたちも。なつきとボクはそうやって交信しているんだ。もう『狐憑き』だの『多重人格』だの理屈をこねてなつきを困らせないでもらえるかなぁ」

「そうね。こうやって私たち自身があなたとの脳内交信を経験したからには、もう彼女と同じなんだもの。その必要はなくなったわ」

「ちょっと待ってちょうだい。私はそんなことより、ゴイサギ大明神を使ったあなたのやり口に納得できないのよ」

堂園朝日がとんでもないことを言い出した。今、自分が置かれている立場をわかっているのだろうか。

「私たちはこの山を開発して市民の憩いの場を作ろうとしているの。無意味に山林を伐採しようというわけではないの。それに山林は人間が管理して計画的に伐採しなければ機能しなくなるとも言われてるわ」

「人間はそうやっていつも勝手に山を壊すんだ。公園やドライブ用の道路なんかを作ったときも、動物たちが暮らしていた森林がどれだけなくなったと思ってるの。自分たちのことしか考えていないから知りもしないだろうけどね」

「俺はゴイっちとやらの意見に賛成だな。そもそも市民の憩いの場なんて言ってるけど、土地を安く叩いて金儲けしようという魂胆だろう。なあ、堂園さんよ」

「そうだ。青年の言うとおりだ。私に追突事故を仕掛けて近づき、土地を狙っているのがなによりの証拠じゃないか」

コグレが裏事情をぶちまけたうえ草野さんが同調した。こうなると堂園朝日は返す言葉がなかった。

ゴイっちは人間の勝手な言い分にシビレを切らしたのか、再度忠告した。

「とにかくこの山を壊さないで! ここから出て行くんだ! さもないと皆が何をやっても知らないよ」

ゴイっちの言葉とともに、動物たちが興奮しだした。ここで突進されては押しつぶされてしまう。

「やべえよ。俺は下りるぜ」

タイジの後に作業員たちが続くと、堂園朝日もしぶしぶ退却した。

その背中にゴイっちが呼びかけた。

「今日のことは誰にも話さない方がいいよ。話しても信じてもらえないだろうし、虚言癖を疑われるのがオチだよ」

堂園一派は作業を中断してほうほうの体で逃げだしたため、その言葉に耳を傾ける余裕すらなかったかもしれまい。

私は去り際にアマゾネスたちに待ってもらい、ゴイっちと個別に交信した。

「ゴイっち。すごいわね。いつの間に皆と脳内交信できるようになったの?」

「うん。実は道真公が『ゴイサギ大明神を守るうえで必要になるだろう』って能力をくれたのさ」

「もう名実ともにゴイサギ大明神の主じゃん」

「なつき。これからは森の動物たちが大人しくしていないと思う。だから、しばらくはあまりゴイサギ大明神に近づかない方がいい」

ゴイっちはそう伝えて飛び去っていった。

【24話】へ続く


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画像は『クリエイター 九十九屋さんた タイトル「タイトル 大鉗・小鉗」』

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