音色のデザイン
演奏する楽器によって違う音楽体験
東京へ行くようになったおかげで、いろんな楽器とそれを演奏する人たちの音楽体験にふれることができました。
そして、手に取る楽器が違うと、それをドローイングで再現してもらうと、なにかがとても違っている!ことばでは言えないけれど、時間の解像度がことばとはぜんぜん違う動線に現れる違いは歴然でした。
なんだこれは・・と。
それをまず直感的にそれに気づいたこと、そしてそこを掘り下げることが出来たのには、私の過去の以外な体験がやくだってくれたのでした。
それは音楽大学でのシンセサイザーの実習講義。
シンセサイザーが教えてくれたもの
当時は、シンセサイザーを個人が持つなんてことは考えられないしろものでした。
それが、大学には一つあったのです。大阪豊中の大阪音大水川記念館、今もあるのかなー。当時冨田勲さんが大好きだった私は、いつか自分もあの不思議世界の演奏をしたいとおもって、もちろん講義に参加したのでした。
機材は一部屋いっぱいほどあり、実際どこからどこまでが部屋でどこまでが本体なのか、私にはその境のイメージが残っていません。ただの機械室みたいだったような記憶しかありません。本体の見えない楽器、神秘的ではありました。
で、やってみて大変さがしみじみわかりました。一年講義を受けたけれども結局まともに音色の一つもできなかったように思います。そう、今ではシンセサイザーといえば様々な音色がすでに組み込んであって自由に取り出せる楽器、というかんじなのですが、当時、シンセサイザーというのは、音一つから作っていく楽器だったのです。つまり音色からデザインしていく。
たとえば、フルートの音に似たものを作ろうとすると、波形がどんなふうで、どんなふうに立ち上がってどう経過してどう消えていくのがフルートらしくなるのか。それはバイオリンと何が違うのか。(それもボタンではなくて、配線を握って、色々つなぎ直して・・・みたいな作業だったように思います。そこはうろおぼえ・・)それは楽器ごとにちがう。そしてそれを人の手で作っていく。ムチャムチャ大変ですが、音色を聞き分け、解析し再構築していく、という今までにない体験をしました。そして、そこに興味をもたせてくれました。音色、というものがどれほど多くの情報を持っているか、それを一から作り出してくなんて相当なイメージ力が必要。(改めて冨田勲すごいな。)
だからあれは、なくてはならない体験でした。一つの体験が自分の実質となって、感覚の中で働き始める、そんなものだったのです。私にとってシンセサイザーとの出会いは。
それから、YAMAHAからDX7という音色から作っていくことのできるシンセサイザーが売り出され、当時ポップスなんかにもちょっと手を出していた私でしたがキーボードよりそちらを買いました。(ステージでは使いにくいったらなかったけど)そして、大学のシンセサイザーでは配線と配線の組み合わせだったものがコンピュータのアルゴリズムで再現されボタンのつまみでかんたんに操作できることに驚喜したのでした。そこでも地味に音色をつくる作業がツボにはまり、いろいろあそびました。その後、シンセサイザーはすでに誰かによって作られた音やサンプリングの音しかなくなり、自分で音を生み出す事はできず、私の興味もすっかりなくなってしまいました。
それに・・結局シンセサイザーで作られる音には限界があり、またその作業の大変さより、生指先ひとつで音を作っていくピアノに戻っていったということもあります。それは機械で作られた音と生音の何が違うかという体験としても貴重だったかもですね。
その体験の中で生まれた音の実質感。
これがここに来てこんなに役立つとは、です。驚きです。人生って。
その体験の延長として、utena drawingを通して知った、様々な楽器を持つ人達の動線の特徴。
楽器と身体の親和と楽器からの開放
出会ってきた楽器は、縦笛・フルート・オーボエ・尺八・クラリネット・ケルトハープ・ライアー・ボーカル(クラシック・ポップス)・ドラム・ギター・ヴァイオリン・それからオイリュトミーという舞踏など。
無茶面白かったです。目の前で展開していく音の世界。人の体験の世界。シンセサイザーを作ったときの自分のニッチな解像度がそれを開示してくれていくさま。
たとえば、歌とピアノとでは、音の立ち上がり方が全然ちがうのですから、それぞれのフィールドで培ったリズム感というのも違ってくるわけです。物質的に奏でる音楽の立ち上がりが違っているからこその豊かさがあり、アンサンブルの気づかれにくい難しさもそこに生まれてきます。
以来、その人がどんな楽器を自分の隣に置くか、ということがその人の音楽を知る大きな手がかりとなってきました。そして逆に、その楽器の特性に縛られてしまうこともありますから、そこからの開放ということも含めながら、レッスンは進められます。