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変わらない青「in the BLUE」


ジルマは一人暮らしをするようになるまでに、これまで4回の引越しを経験している。

その中の引越し先の一つが「静岡県下田市」だ。

幼稚園から小2くらいまでの数年間ではあったが、これまでの引越し先の中では最も自然あふれる土地だった。

中でも、当時の自宅から車で夏になると必ず遊びに行っていた海がいまだにジルマの記憶に色濃く残っている。

1st Album「𝘙𝘦𝘷𝘦𝘳𝘴𝘦 𝘉𝘭𝘶𝘦」の1曲目にあたる「in the BLUE」はそんなジルマの故郷の一つである、静岡県下田市の白浜海岸へ大人になってから訪れた時の感情を曲にしている。


2023年7月21日、仕事終わりにそのまま"こだま"に乗り込み、車窓に浮かぶ自分の横顔を感じながら、だんだんと緑が増えていく景色に懐かしさを覚えた。

書きながら気づいたが「𝘙𝘦𝘷𝘦𝘳𝘴𝘦 𝘉𝘭𝘶𝘦」は、ほぼこの一年後の2024年7月20日にリリースされている。

全く意図していなかったが、こういうことが知らぬ間に起こるから現実は面白い。


制作期間としていた2023年の夏にどうしてもこの白浜海岸へ行き、何かのヒントを得たかった。

何かを掴める気がしていた。


静岡県下田市は、静岡の端の方に位置しており、
電車で向かうには流石に遠い。

何時間もの道のりを各駅停車で進まなくてはいけないのだ。

でも不思議とこの長い道のりも心地よく、苦には感じなかった。

途中乗車する部活帰りの数人の学生のたわいのない会話や、乗り慣れたように席につきスマホを触る乗客。

あまりに人が少ない車内だからなのか、いつもより新鮮に感じた。


到着の時間は22時を越えそうだったが、泊まる家はある。

もともと住んでいた家が今もまだあるわけではなく、ジルマが大学時代に再婚した父親の新しい家族が待っている。

大学時分と数年前に1年ほど同居していたため、気まずさは特にないが、あの頃とは大きく違う。

そこには、育ててくれた父と、同居中も嫌な顔せず家事等をしてくれた父の妻と、かわいい弟がいる。


最後に下田を離れてから、自分自身も随分と歳を重ねた。

年齢も考え方も環境も大きく変わった今の自分がいまさら訪れても何にもならないのかもしれない。

ゆっくりとレールを走る車内で、そういった想いも心の中にあった。


22:14、伊豆急下田駅に到着すると父親が車と共に待っていた。

そして、あの頃とはひとまわりもふたまわり違うカラダで、助手席に乗り込む。

「ここ覚えてるかー?」という会話をしながら、懐かしい駅の雰囲気やいつもくぐっていたトンネルを抜けて家に着くと、そこには俺のことが大好きで仕方ない小さな弟が待っていた。

その日は、夜ご飯も食べさせてもらった後、弟とひとしきり遊び、眠りについた。


朝目が覚めると、見慣れない天井があった。そこにはもちろん懐かしさはなく、いつもとは少し違う朝を迎えただけだった。

今日は白浜海岸へ向かう。ジルマがはるばる下田に来た1番の理由と言っても過言ではないだろう。


ここ数年履くことがなかった海パンを履き、海へ向かった。

海に行くことはあっても、海水浴までするのはかなり久しぶりだ。

海は家から車で数十分で到着し、砂利の駐車場に車を停め、海までの懐かしい道のりにいろいろなことを思い出す。

当時は小学校低学年だったが、意外にもちゃんと覚えているものだなと人間の記憶力に感心する。


海に着くとそこには、神奈川では見ることができない綺麗な白い砂浜が広がっており、上からも下からも日焼けしそうなほどまぶしい。

そして、そんな白い砂浜の先には、あの頃と変わらない広い海が待ってくれていた。

もう気づけば二十数年生きているが、やっぱりこの海には何歳になっても口元がゆるみ、心が躍ってしまう。


そう、海は青い。

たしかに青いが、俺が幼少期に感じた海は正確には"エメラルドブルー"だ。

そのエメラルドブルーの海はいまだにそこに変わらずあり続けてくれていた。

水面が波によって揺らめくことで、まるで鱗のようにキラキラと輝き、水平線に向かってどこまでも続いていく。

その美しい光景は、あの頃の自分と今の自分はちゃんと繋がっているんだと感じさせてくれた。


何も無駄じゃない。「あの頃はよかった」ではなく、あの頃の延長線上に今の自分がいる。

ここからまた始めていくんだ、と素直にそう思えた。

青春も、憂鬱も、恋も、悲しみも、優しさも全部が詰まった"青"の中で、また進んでいこうと思えた。

やっぱりヒントはこの海にあったんだ。まだやれそうな気がする。

ここから始まる in the BLUE 🟦




人はどうしても歳を重ねていくと、目の前のやらなきゃいけないことが増えて、今しか見えなくなってしまう。

経験や体験によって、考えられる範囲が広くなったからこそ、現時点の自分と、周りを比べて悲しくなったり、卑下してしまったり、絶望してしまう。

でも、ちゃんと一人一人小さい頃から精一杯生きてきた人生があるし、それが今に繋げてくれている。

海を見ただけで?と思うかもしれないが、人は意外とそんなふとした瞬間に勇気をもらえるものだ。

それを1st EP"regain"に収録されている「朝焼け」という曲でも俺は歌っている。


場所自体に価値があるのではなく、その場所に訪れて感じる自分の感情に何より価値がある。

きっと誰しもがそういった気持ちになれる場所や物があり、人がいると思う。

何かに迷ったら、訪れてみてほしい。

もしそれでも無いというなら、この曲「in the BLUE」があなたにとっての、その存在になれたらと思っている。

𝘊𝘓𝘖𝘝𝘌𝘙𝘚 𝘏𝘐𝘎𝘏

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