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(朝読で読みづらいシリーズ)「戦争における「人殺し」の心理学」の感想
朝読で読みづらいシリーズとは・・・
朝読で読みづらいシリーズとは、本のタイトル的に学校の朝読の時間に教室の真ん中(に限らずとも良いがともかく誰しもが公共の場)でブックカバーなしではちょっと読みづらい、しかしそれを理由に読まないのはもったいない良書を紹介するコーナーである。
今回紹介する本の情報
タイトル:「戦争における「人殺し」の心理学」
著者:デーヴ・グロスマン 翻訳:安原和見
出版社:筑摩書房(ちくま学芸文庫)
※戦場の現実についての記載もかなりあるので、高校生以上におすすめする。
「戦争における「人殺し」の心理学」感想
先日(2025年1月20日)、NHKの映像の世紀バタフライエフェクトで「戦争のトラウマ 兵士たちの消えない悪夢」を放送していた。第一次世界大戦頃は兵士本人の心の弱さが原因だとされていた症状が、次第にPTSDと呼ばれる精神疾患であると認識されるようになるまでを追っている。
戦場における殺人行為は人間に大きなストレスを与える。本来、人は好んで殺人を行わない。多くの人は、殺人を避けるよう行動する。しかし、実際の戦場で兵士があらゆる手段で殺人を避ける行動は、戦争を主導する側にとっては都合の悪いことである。
この本の中では、アメリカ軍が研究してきたどうすれば殺人への抵抗を無くせるか、PTSDを発症させないためにどう訓練するのかということがベトナム戦争の実態を交えて書かれている。
簡単に言ってしまえば、健康な若者に戦場で殺人行為を行わせたうえで本国では身体・精神ともになんの異常もない状態で生活できるよう頭のネジを緩めたり締めたりするにはどうすれば良いかという研究をしているのである。
恐ろしいことである。そんな人工的に殺人への抵抗を無くしたり、再び作り出すことをされた若者たちがあふれた社会は、そして彼らの家族や子孫たちは本当に大丈夫なのだろうか。
さらにまずいのは、私たちはそのような次の戦争に向けた準備や研究をしなくてはならない社会に生きているということである。戦争をしないと決めていても、戦争をしたくないと思っていても、戦争を仕掛けられることがある。戦争が降りかかってくる日に備え、世界中の国が配属先によっては職務内容に殺人が含まれる仕事(軍隊)を存在させている。今のところ、私たちはそのような世界から脱出する方法を見つけられていない。若者に対し、社会の発展につながるはずのない殺傷武器の扱い方を教え、殺人への抵抗を無くし、行ったことのない国で話したこともない人間を、誰かの命令によって殺せるように教育する方法を研究する世界が、この世にあるのだ。
朝読で読みづらいシリーズということで、タイトル的にブックカバーなしで学校や職場で読むのは勇気のいる本書だが、ぜひとも若者にこそ読んでほしい本である。なぜなら、世界のどこかで若者、子どもたちを兵士候補として見ている誰かがいるからだ。自分の生きている世界が、自分に向けている期待や眼差しがどのようなものかを知り、この社会について考えることも時には大切であろう。
(執筆:うたたん総研 研究員B(総研内読書サークル所属))