しゃべるピアノ【ショートショートnote】
森の奥、湖の畔。
遠い昔に声を失った彼女がとても美しいピアノを弾いていた。
森に迷い込んだ若者がその音色に導かれてやってきた。
「なんて美しいんだ」
若者は度々やってくるようになり彼女の孤独を癒してくれた。
彼女はその喜びをピアノで奏でる。
その音色は若者にも伝わったていたけれど彼女は不安だった。
ある夜、白い満月を眺めながら彼女は願った。
『ピアノの音色が言葉になればいいのに』
すると、月から光が降って来てピアノを包んだ。
彼女が淡く光る鍵盤をひとつ叩くと『ア』と声が出た。
ひとつの鍵盤にひとつの音。
彼女は嬉しくて夢中で歌うように鍵盤を叩く。
彼に気持ちを伝えようと奏でる。
けれど、この光るピアノは少し意地悪だ。
どうして『ア』と『イ』がこんなにも離れているんだろう。
彼女が泣きそうになって困っていると若者が言った。
「この鍵盤を鳴らせばいいかい?」
彼女の隣に座ると『イ』を鳴らした。
それから二人はいつまでも言葉を交わし続けたのだった。
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