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Prominence

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詩・散文詩の倉庫02
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#光

賛歌

賛歌 ダダ漏れのDark Matter 鉛色の重力   ―—街を歩いてもアスファルトに走る無数の    亀裂から滲み出てくる闇を見つめるだけだ―—  ああ この皮膚がすべて剥がされても     感じているか?  動いている 動いている 闇の中で 蠢く者がいる   おう 耳孔で劣化ウラン弾が爆ぜようとも   聴こえているか?    無限に遠く 無限に近い   闇の中で 囁く者がいる 押し黙った孤独な獅子の心音を聴く どこか森閑とした場所で 赤ん坊がむずがっている 夜の

眼をやられた男

街を這いずり回る 薄汚れた思想を ひっくり返せば 苔の付いた鰐の腹を晒し 蹴り上げれば 貧弱な翼で羽ばたいて 裏通りを低空飛行した後 暗い巣穴に引っ込む    (奴らはウザウザと生きて   ウザウザと死ぬ)   ヒトの言葉は 絶えず剥がされる 無くした言葉を求めて ざらざらの舌で 風のスジを探ってみても 絡み付いて来るのは 饐えた思想のフラグメント    (奴らの巣穴に手を突っ込んでも   卵は生ゴミに出された後だ)   街外れのゴミ集積場で 屍骸で膨れたゴミ袋を漁る このバ

八月

 1 八月の夜空に煌めく星達は、朝を迎えると鳥になって森に果実を探しに来る。鳥達はそれぞれ色の付いた声で囀りながら、樹々の枝から枝へ飛び移り、自分の星の光と同じ色の果実を見つけては啄ばんでいる。例えば赤い果実を啄ばんでいるのは蠍座のアンタレスだった鳥というふうに。やがて鳥達は果実の成分の働きによって無数の光の矢に変わり、はるか遠くの草原を目指して、巡行ミサイルのように丘陵地の地形に沿って飛んで行く。               2 草原に飛んで来た光の矢は、着地するなり光の

クリプトビオシス

瞑目した胎児が抱いている灰色のあぶくは、光と色彩を閉じ込めたまま、徐々に干からびてゆき、固い小さな意識のしこりになる。胎児は海老の干物のように丸まって、街に降り積もる灰の中に埋もれてゆく。   ある種の線虫は、白銀の極冠に発生時の記憶を影のように落とすと、瞬時に凍結してしまう。双翅目昆虫の幼生は、永久に溶けない樹氷に緊縛されると、若草色の時間をじわじわと氷の中に吸い取られてしまう。   同様に、乾燥してゆく胎児は、冬の到来を待つことなく、視界の遮られた灰の砂漠の中で、濃紺の夢

薄いアポカリプス

執拗にのたくる 蛇のような走査線の裏側から 黒色に泡立つ粒子の ホログラフィックな性夢として 二台の戦車の 幽霊が姿を現わす   海へ突き出た岬の草地を、蹂躙する鋼鉄のキャタピラー。七色の光彩を放つ無数の走査線が、二台の戦車の厚い鋼鈑に、水平方向から衝突し、発光し、四方八方に飛び散って行く。 二台の戦車は追いつ追われつ。敏捷な前進と後退、方向転換。互いに背後を取ろうと、回り込み、正対する。至近距離から放つ戦車砲の炸裂、黒煙、弾道の交錯、光の軌跡。モノの形骸は砕け散り、すべて