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賛歌 ダダ漏れのDark Matter 鉛色の重力 ―—街を歩いてもアスファルトに走る無数の 亀裂から滲み出てくる闇を見つめるだけだ―— ああ この皮膚がすべて剥がされても 感じているか? 動いている 動いている 闇の中で 蠢く者がいる おう 耳孔で劣化ウラン弾が爆ぜようとも 聴こえているか? 無限に遠く 無限に近い 闇の中で 囁く者がいる 押し黙った孤独な獅子の心音を聴く どこか森閑とした場所で 赤ん坊がむずがっている 夜の
南へ向かう鳥達が うす色の空へ溶けて行く きみは衣装棚から 厚い上着を出してきて 胸元を飾る小さな憧れを そっと隠した 子犬が地層の匂いを嗅いでいる 鳥の化石に恋をしたんだ
街を這いずり回る 薄汚れた思想を ひっくり返せば 苔の付いた鰐の腹を晒し 蹴り上げれば 貧弱な翼で羽ばたいて 裏通りを低空飛行した後 暗い巣穴に引っ込む (奴らはウザウザと生きて ウザウザと死ぬ) ヒトの言葉は 絶えず剥がされる 無くした言葉を求めて ざらざらの舌で 風のスジを探ってみても 絡み付いて来るのは 饐えた思想のフラグメント (奴らの巣穴に手を突っ込んでも 卵は生ゴミに出された後だ) 街外れのゴミ集積場で 屍骸で膨れたゴミ袋を漁る このバ
1 八月の夜空に煌めく星達は、朝を迎えると鳥になって森に果実を探しに来る。鳥達はそれぞれ色の付いた声で囀りながら、樹々の枝から枝へ飛び移り、自分の星の光と同じ色の果実を見つけては啄ばんでいる。例えば赤い果実を啄ばんでいるのは蠍座のアンタレスだった鳥というふうに。やがて鳥達は果実の成分の働きによって無数の光の矢に変わり、はるか遠くの草原を目指して、巡行ミサイルのように丘陵地の地形に沿って飛んで行く。 2 草原に飛んで来た光の矢は、着地するなり光の
1 目を瞑って 灰の砂漠を 食べていると こころは 徐々に ひからびて ちっぽけな 雲塊になって コトコト笑う 鳥の頭蓋に 埋め込まれる 鳥のくさめ いや、 くしゃみで ポスンと 吐き出された こころは 夜露を吸うと ジュワッと 膨らんで 星雲になり スピンを 始めるけれど 暗黒エネルギーの 不足により 失速しちゃって 淋しい鉱石が 身を寄せ合う 晶洞都市に きり揉みしながら 墜ちてゆく なし崩し的に 錆びてゆく 時間が 散らばった こころと 散
倒れた街灯に群がる鳥達 古い記憶がけぶる雨の午後に 羽根を一振りして雨粒を散らし 海に向かって飛び立って行く あのひとのうなじの 仄かな香りを鳥達は紡いでいる 遠い海の流木に降り立ち 濡れた羽根を休めながら 時の空白に流れ着きたいと 海原に伸びる黒髪のほつれが 鳥達の嘴が指す夜へと傾き 思考は闇にほどけてゆく あのひとの頬紅が溶け落ちて 一滴ずつ滲みてゆく夜の無音を 鳥達はまた啄ばみに来る 紺色の果汁を振りほどく刻限 ヒタヒタと迫る夜明けに慄き 鳥達は叫ぶ 炎の予感