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賛歌 ダダ漏れのDark Matter 鉛色の重力 ―—街を歩いてもアスファルトに走る無数の 亀裂から滲み出てくる闇を見つめるだけだ―— ああ この皮膚がすべて剥がされても 感じているか? 動いている 動いている 闇の中で 蠢く者がいる おう 耳孔で劣化ウラン弾が爆ぜようとも 聴こえているか? 無限に遠く 無限に近い 闇の中で 囁く者がいる 押し黙った孤独な獅子の心音を聴く どこか森閑とした場所で 赤ん坊がむずがっている 夜の
1 八月の夜空に煌めく星達は、朝を迎えると鳥になって森に果実を探しに来る。鳥達はそれぞれ色の付いた声で囀りながら、樹々の枝から枝へ飛び移り、自分の星の光と同じ色の果実を見つけては啄ばんでいる。例えば赤い果実を啄ばんでいるのは蠍座のアンタレスだった鳥というふうに。やがて鳥達は果実の成分の働きによって無数の光の矢に変わり、はるか遠くの草原を目指して、巡行ミサイルのように丘陵地の地形に沿って飛んで行く。 2 草原に飛んで来た光の矢は、着地するなり光の
いつも既に記憶だった夏の日に 俺は裸体を晒した少年少女達と 沖合を鳥が群がる海を見たかったが だれひとり気付かぬうちに 海原を舐めて広がる火の言葉に焼かれた 熱気だけが渦巻く無音の嵐に 真夜中の街路樹の果実は金色に弾け 白昼の都市はあらゆる場所で錯乱した 見ろよ水平線を 待ち焦れた空を 天空の片隅に鳥達を追いやって 西から東へ視野いっぱいに 燃え上がる紅炎のアーチ 星々が何億年も語り継いできた 青白い水母のような蜃気楼を 無数の真っ赤な蛇の舌で メラメラと焼き尽くすプロミネン
解説の佐野さん! はいはい。 美しいって何ですか? さあて、何なのでしょうねえ。考えるよりまずは体験ってことかなぁ。ご覧なさい、東西南北どちらを向いても見渡す限りの紺碧の円盤。船の上から望むこの海洋も、美しいと言えば美しいですよね。アラカワシズカが銀盤上でイナバウアーしながらケタケタ笑っているくらい美しい。ともあれ、そろそろ水平線の東西が少しずつせり上がってくる筈ですよ。ウミスズメの群れが飛んでいますね。何処かに島があるのかな。流氷もあちこちで見えてきましたね。
影は次々と 落ちてきて 重なって 離れて あおい時間も ふじいろの空間も あなたの指で 押し広げられて そんなふうにして 世界はできあがり あなたが残した 古い写真の 風景のように どこか遠いところで うすく結像する 地平線の向こうに 昇ってゆく 痩せた月まで 湾曲しながら 続く舗道を 一歩 また一歩と 踏みしめながら 吐く息は 白い ぼくの声は どこまで届くのだろう ぼくの声は すぐに消えるのだろう そして遠い未来に 知らない惑星の上で 息を吹き返し 空想画の岩山に ぶ
樹木には牙がある それは樹木に夜が言い寄ってくるからだ 夜の言葉は樹木に浸透し それゆえ樹木は夜に牙を立てる それは樹木が樹木自身に牙を立てることだ 夜は樹木に応えて血の言葉を吐いて言い寄り続ける 樹木は夜の血の言葉で充たされ 夜の血の言葉は樹木の中で樹液となり 緑色に発狂する 樹木と思考は共生している 樹木が枯れる時 我々は思考を消失させる この時 樹木は落葉の影から思考に向かって夜啼鳥を放つ 夜啼鳥は消えてゆく思考を惜しんで囀り 思考は消失しながら夜啼鳥の囀りを祝福し返
背の高い羊歯類が 並んで鍵盤を叩く森のピアノ あまりの調子っぱずれに 浮揚&推進装置に異常をきたし 迷走のあげく空中分解したFoo Fighter デイジーの丘陵に散乱する破片 風に流されて行く落下傘 ぶら下がる死体には緑色の水掻きがある そんな遊星史上の 一エピソードには興味なさそうに 隻眼の恐竜は昼寝する 小狡そうな鳥達が群がって 鱗に寄生した虫をつついている 遠くの原生林に黒煙と火災 調査に行くため瓦斯マスクを装着した 美人惑星古生物学者は ついさっきまで私と ラボ