マガジンのカバー画像

Prominence

45
詩・散文詩の倉庫02
運営しているクリエイター

2023年8月の記事一覧

眼をやられた男

街を這いずり回る 薄汚れた思想を ひっくり返せば 苔の付いた鰐の腹を晒し 蹴り上げれば 貧弱な翼で羽ばたいて 裏通りを低空飛行した後 暗い巣穴に引っ込む    (奴らはウザウザと生きて   ウザウザと死ぬ)   ヒトの言葉は 絶えず剥がされる 無くした言葉を求めて ざらざらの舌で 風のスジを探ってみても 絡み付いて来るのは 饐えた思想のフラグメント    (奴らの巣穴に手を突っ込んでも   卵は生ゴミに出された後だ)   街外れのゴミ集積場で 屍骸で膨れたゴミ袋を漁る このバ

悪魔とモリー

立て簾を尻からげ 西日から遁走する ポンコツ食堂 って何のこっちゃ 真白いうどんを まさにいま啜りつつある 丸い背中と脊柱の軋み 頸椎の湾曲と パブロフの猫舌 畢生の大仕事として つるつるつると 一本ずつうどんを啜る その生きざまは 哀しくも喜ばしくも べつに無いですが 向かいのテーブルの 爺さんは何ゆえ はよ食わんかいワレと 歯抜けた顔で笑うのか 放っといてくれ フーフーフーと ダシを冷ましつつ この脳裏には アメリカ五大湖周辺と 中西部の荒野に ハイウェイの光景 モーター

インソムニア

漆黒の空の下 パーマネントグリーンに輝く草原で 千人の私が牧草を食んでいます すぐに千と一人になりました 次は私が千と二人になり 次は私が千と三人に 次は私が千と四人 私が千と五人‥ 私が千と‥ 私が千‥ 私が‥ 私‥ ‥ ‥ 数日後の午前中 私のクリニックのクライエント羊が 両眼の下にどす黒い隈を作って ヨタつきながらやって来ました   充血した眼で私を見るなり 「ああ‥‥あなたが九十九万九千九百九十九人」   私を数えてバッタリ倒れると 四つ足万歳のヘソ天姿勢で 深い眠

海と即興

海が 挫滅する 群青色した 海が 挫滅してゆく 錐もみ状に 圧搾されて きらびやかに 弾ける 海の果肉 総天然色のNoise   決して来ることのない 終末の周りを 永劫回帰する潮流 死者が蘇る 静謐な海に 巻き起こる Milford Gravesのパーカッション びっくらした! イルカと太刀魚が エレクトするたびに   海は 群青色の濃さを 増してゆき 僕らは ゆったりと撓む水平線の 胸に抱かれることを 夢見てしまう   湾岸の礼拝堂の 微笑む聖母像の下で 君と僕はまだ青い

八月

 1 八月の夜空に煌めく星達は、朝を迎えると鳥になって森に果実を探しに来る。鳥達はそれぞれ色の付いた声で囀りながら、樹々の枝から枝へ飛び移り、自分の星の光と同じ色の果実を見つけては啄ばんでいる。例えば赤い果実を啄ばんでいるのは蠍座のアンタレスだった鳥というふうに。やがて鳥達は果実の成分の働きによって無数の光の矢に変わり、はるか遠くの草原を目指して、巡行ミサイルのように丘陵地の地形に沿って飛んで行く。               2 草原に飛んで来た光の矢は、着地するなり光の