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Prominence

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2022年7月の記事一覧

季節

ぼくは還ろう 蒼白く光る星座が 漆黒の弦楽に導かれて 黄道をゆっくりと巡り 月が幾つもの朔と 潮汐を繰り返すあいだに 遠ざけられた道標を 一つ一つ燃やしながら かつてぼくは わらべ唄のなかの 幼い五月の女王様が 微笑みながら差し出してくれた 清々しい風を頬に受けて 恩寵のように きみに恋をした 夏になると 有頂天のぼくには 太陽から深紅のアーチ形をした プロミネンスが燃え上がるのが視えた 磁気嵐と強風に 深緑の樹木がざわめき 窓ガラスが音を立てて揺れても それは季節からの

世界樹(Yggdrasill)

樹木には牙がある それは樹木に夜が言い寄ってくるからだ 夜の言葉は樹木に浸透し それゆえ樹木は夜に牙を立てる それは樹木が樹木自身に牙を立てることだ 夜は樹木に応えて血の言葉を吐いて言い寄り続ける 樹木は夜の血の言葉で充たされ 夜の血の言葉は樹木の中で樹液となり 緑色に発狂する 樹木と思考は共生している 樹木が枯れる時 我々は思考を消失させる この時 樹木は落葉の影から思考に向かって夜啼鳥を放つ 夜啼鳥は消えてゆく思考を惜しんで囀り 思考は消失しながら夜啼鳥の囀りを祝福し返