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日々に遅れて

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詩・散文詩の倉庫03
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#ショッピングモール

日々に遅れて

結局やって来なかった夏の記憶は、知らず知らずのうちにうす桃色の花の蕾に封じ込められる。名前を知らない花の開花を薄明のなかで反芻しようとしても、顔の無い夜の方にするすると逃げて行き、掴もうとする手はただ宙を泳ぐばかり。 早朝のごく限られた時間だけ朝日の射す場所でしか生きられない食虫植物のモウセンゴケは、密生する腺毛に朝露を付着させ、捕らえた光虫を小さな渦巻形に丸めてから、じんわりと消化してゆく。雫から弾け跳ぶ光の予感だけが私を生かしている。 やって来なかった? いや、気が付

或る日の光景

日曜日のショッピングモール お洒落な私服姿の女子高生が二人 通路のソファチェアでお喋りしている   その向かいのソファチェアでは 髭ボサボサに野球帽のおっさんが のけ反り姿勢で大鼾を掻いている   街でよく見掛けるあの人だ 相当な年齢 臭うようなボロを着て いつも手押し車を押して歩いている 積み荷は汚れたナベヤカンその他ガラクタ   書店コーナーへ向かいながら 今見た光景を思い出す 女子高生の一人がスマホカメラを構えて おっさんのソファチェアにそっと歩み寄り 大口を開けた寝

初夏を聴くーラップフィルム

 初夏を聴く。初夏を聴け。そんな言葉を呟きながら、初夏の風が吹くイチョウ並木の道を自転車で走る。ショッピングモールの裏手に差し掛かった時、商品搬入口の半開きのシャッターが、風に打たれてガタッと音を立てた。チラと目を遣った瞬間、白い大型犬がシャッターの上方から飛び降りて来たように見えた。そいつは段ボール箱を積んだキャリーカートの上でフワッと宙返りすると、風に押し戻されて空中で一時静止し、その後ゆっくりと地上に舞い降りて来た時には優雅な女人の立ち姿にも見えた、と思ったら風に折り畳

ケヤキ

ケヤキは自身が「逆立ちした竹箒」であることにほとほと嫌気が差している。そんなケヤキのもとに、天空から救世主として飛来するのがムクドリの群れである。ショッピングモールの入り口近くの、落下した糞で焦げ茶色に染まったガラス張りのルーフと、駐車スペースにまで達する糞でベトベトの地面は、それぞれムクドリ達が仕掛けたケヤキのメタモルフォーゼへの優れた起爆装置なのである。加えて鳴き声というNoiseの大合唱も忘れてはならない。これらが惹起する情動の激しい波立ちに襲われて、ヒトは慌ててケヤキ