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日々に遅れて

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詩・散文詩の倉庫03
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#ユーモア

日々に遅れて

結局やって来なかった夏の記憶は、知らず知らずのうちにうす桃色の花の蕾に封じ込められる。名前を知らない花の開花を薄明のなかで反芻しようとしても、顔の無い夜の方にするすると逃げて行き、掴もうとする手はただ宙を泳ぐばかり。 早朝のごく限られた時間だけ朝日の射す場所でしか生きられない食虫植物のモウセンゴケは、密生する腺毛に朝露を付着させ、捕らえた光虫を小さな渦巻形に丸めてから、じんわりと消化してゆく。雫から弾け跳ぶ光の予感だけが私を生かしている。 やって来なかった? いや、気が付

秋日

マテバシイの高枝から 蔓植物の太いのが垂れ下がっている 山の手入れで根を伐られたのだろうか   子供の頃 こんな蔓に掴まって ターザンの真似をして遊んだものだ ちょっとやってみるか えいっと飛び付く ぶら~ん ぶら~ん 枝葉がバッサバッサ揺れる 山の斜面を蹴って グオーン 戻って ぶら~ん また蹴って グオーン 戻って ぶら~ん 一回転 ぶ~らり 逆戻り ぶ~ら ぶ~ら 腕がアップアップ 着地しよう   おおっと 尻餅をついてしまった   ズボンをパンパン叩きながら ふと道

笑いの亀

ずいぶん久し振りに 笑いのツボにハマった レンタルの古いコメディ映画 『 裸の銃を持つ男 』だ レスリー・ニールセンぐっじょぶ!   笑いのツボは温泉スパにあったのを ダイハツの軽トラに乗せて持ち帰っていた 身体がすっぽり入るツボ風呂だ   いや 間違えた これは壺風呂じゃなくて  甕風呂だった 私は笑いのカメにハマったのだ   お尻からザッブンと漬かると あひゃひゃいひゃひゃうひゃらららんザッパーン 笑いが四方八方へ溢れ出た   何処からか笑いの亀が這い出て来て えひゃらお

或る日の光景

日曜日のショッピングモール お洒落な私服姿の女子高生が二人 通路のソファチェアでお喋りしている   その向かいのソファチェアでは 髭ボサボサに野球帽のおっさんが のけ反り姿勢で大鼾を掻いている   街でよく見掛けるあの人だ 相当な年齢 臭うようなボロを着て いつも手押し車を押して歩いている 積み荷は汚れたナベヤカンその他ガラクタ   書店コーナーへ向かいながら 今見た光景を思い出す 女子高生の一人がスマホカメラを構えて おっさんのソファチェアにそっと歩み寄り 大口を開けた寝

会社をたたむ

会社をたたむと決心して以来 もののたたみ方に注意するようになった これまで自分でたたまなかった布団を たたんでみたりするようになった いつもはそこら辺に放り投げている パンツや靴下もたたんでみた 風呂敷もたたんだし タオルやキャンプ用テントや 驚く女房のパンストまでたたんだ たたむのは案外簡単だと思った しかしあまり音がしなかったので 何とも言えず奇妙な感じがした お前はたたむものの気持は理解しているが たたまれるものの気持は分かっちゃいないと 私をなじるものがぼつぼつ出て来