ゲーマー友達と実際会ったら…って話。
"メインにいる!"
"あと一人だけ。"
"ナイス!"
イヤホンを通して響く複数人の歓喜の声。
一年ほど前にこのゲームにハマっては空き時間を費やしてプレイしている。
SNSで繋がったのがきっかけな面子とは都合がつきさえすれば、こうやってオンライン空間で時間を共にするのが恒例になっている。
"そういえば今度のイベント行く?"
ふと、仲間内の一人がそう発した。
なぜなら、熱中しているゲームのイベントがひと月後に開催されるから。
僕は好きな演者も推しも出るし現地の空気感が好きなので足を運ぼうと思っている。
"話振ったけど俺はその日仕事です..."
"私も予定あるからパスかな〜"
「あー僕は行こうかなって。」
そうして行く旨を伝えると少し間を置いてから、
"私も...行こうかな。現地で見たいし。"
彼女はそう言った。『おいもちゃん』と、
彼女の事を呼んでいるがもちろん本名ではない。
僕もハンドルネームで「△△」と呼ばれている。
"お、じゃあ2人でチケット取って行きなよ。"
"それいいじゃん!こないだコイツと行ったけど楽しかったよ〜"
残りの二人がそう話す。
正直な所、一人で行くよりは同じ話題を共有出来る人がいた方が楽しめるからいいな。なんて安易に考えていた。
「僕はおいもちゃんが良いなら。」
"私もいいですよ、行きましょっか。"
声とハンドルネームしか知らない彼女とそんなこんなでひと月後待ち合わせることになった。
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会場の最寄り駅。
イベント前という事もあって、人通りが多く少し喧騒としている。
「いざ会うと思うと緊張するな」と思っていれば後ろから声を掛けられた。
『△△くんですか?』
聞き覚えのある声を聞き振り返ると、少し屈めば目線が合う高身長さとそれでいて華奢な体型をした女性が立っていた。
「あ、そうです。」
『私、おいもです。
...会えて良かった。』
目の前にいる綺麗な女性がいつも遊んでいるあの人なんだ…と思いつつ、二人で会場まで向かう事に。
『これ○○っ...
じゃないや△△くんのチケット。』
「ん!?それ本名じゃ…!」
『チケット取る時に見ちゃって...笑』
『○○くん、いい名前だなって』
そう微笑みながら僕の名前を呼ぶ彼女がしきりに手を触れ合わせる事にも動揺を重ねながら、僕らは会場に入った。
『ポテトそこで買って来たので一緒に食べましょ?』
「おいもちゃんだからポテト買ったの?笑」
なんておどけて言う僕に彼女は、
『芋好きだからこの名前にしたの〜』
『あとさ…私の名前。
美羽ちゃんって呼んでいいから。○○くん。』
「いや流石に…」
『呼ばないならあげません。』
と、冗談めかして笑う彼女に根負けして塩味の強いポテトを口に運んだ。
始まってからは食い入るようにステージに視線を集中させたり、応援しているチームが勝てば盛り上がった勢いで美羽ちゃんにハイタッチを求められたり。
あっという間の時間だった。
『楽しかったなあ。』
「やっぱり生で見れたの良かったね。」
『うん。
…それに○○くんと一緒に見れたから。』
帰り道。
歩きながら綺麗に巻かれた艶のある黒髪をふわりとさせて肩を預けてくる。
控えめな柑橘系の匂いを乗せて。
『疲れちゃった。』
そんな彼女の言葉に何も言えずに僕は受け入れた。
「…美羽ちゃん駅見えてきたよ。」
『ん。』
「その…また来れたらいいね、
あの二人とかも一緒に。」
『...ね、○○くんはもう帰りたい?』
『私はもっと○○くんの事知りたい。』
控えめな声量で発せられた大胆な言葉によろめきそうになりながら僕は君の手を取った。
「…ご飯でも行こっか、美羽ちゃん。」
帰り道とは反対方向の電車に飛び乗った。
不思議な夜に包まれながら。
後々聞くと、彼女は内心は恥ずかしさに駆られながらもアプローチしてきてくれたらしい。
『あの時は頑張ったんだからね。』
『もっと意識しろよ。バカ。』
なんて笑いながら僕の肩を小突く君は触れられる距離にて時間を共に。