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極端に評価が別れてる美容室に行ったら運命の出会いが待っていました。

「はぁ……髪伸びたな……」


元々担当していた美容師さんがお店を辞めてしまってから数ヶ月。

"今度でいいや"
なんて、先延ばしにしていたせいで整えられていた髪はボサボサに。


近くで良い美容室無いかな…


おもむろに携帯で検索をかける。

見つかったのは、見るからに女性専用っぽい所。
それともう一つは⋯


「なんだここ…?評価が☆5と‪☆‪1しか無いぞ…」


綺麗に二分割されている店の評価点。
クチコミを見てみると、


"美容師さんが綺麗でどんな髪型にされても許せちゃいます!"

"ここで切って貰ってから彼女が出来ました!"


などと絶賛の嵐。
その一方⋯


"希望と違う髪型にされた。二度と行かない。"

"何考えてるのか分からなくて怖かった。"


不評なクチコミもちらほら。


「⋯面白そうだし行ってみるか。」


早く髪を切りたかった僕は好奇心も相まって、
すぐにネットで数日後の予約を済ませる事に。


『いらっしゃいませ。御予約はされてますか?』


店に入ると、
金髪でショートヘアの女性が受付をしてくれる。

「あ、14時から予約していた●●○○です。」

『かしこまりました。少々お待ち下さいー。』


作業をする女性を見て思い出すあのクチコミ。


⋯確かに綺麗な美容師さんだなぁ。

なんて思っていると、
確認が終わったようで一番奥の席に通される。


しばらくして先程の女性とは違う人が。




『⋯今日担当の村山です。お願いします。』


一瞬で目を惹かれる程のスタイルの良さ。
それに合わせて滅茶苦茶美人。

普段会う事の無い綺麗な人に
髪を切られるだけなのに緊張してきてしまう。


⋯もう既に僕の中では☆5かもしれない。


『⋯今日がうちの店初めてですか?』

「は、はいっ。」

『どういう風にしたいとかは…?』

「出来れば髪下ろすスタイルの方が良いかなと…」

『⋯ふーん。』


カウンセリングと言われ、
村山さんの細長い指に触れられる感覚が頭に。

『結構切ってないですよね。』

「はい…三、四ヶ月ぐらいは…」

『⋯ツーブロのとこ、伸びてるね。』


時々、色んな事を話している最中にも
頭に触れる感覚は続く。

⋯あれ?なんだか
髪の毛じゃなくて頭を撫でられてませんか。




『⋯髪分けた方が似合うかも。』

「そうですか…?」

『⋯ん。私はその方が好き…かも。』

「…っ。じゃあ村山さんにお任せします。」

『ふふっ、はぁ〜い。』


急に"好き"なんて
綺麗な人から囁かれて断る男は居ないです…


それからは手際良くカットを済ませてくれて、
あっという間にスタイリング。

時より鏡越しに見える
村山さんの真剣そうな顔に見惚れていたのは言うまでもない。




『⋯出来た。どう?』

「⋯なんだか自分じゃないみたいですね…」


伸び切っていた髪はバッサリ切り落とされて
鏡に広がっているのは本当に僕なのか?と、
疑う程の出来栄え。


『やっぱり格好良いじゃん。』

「村山さんのお陰ですよ。」

『じゃあ、、次も来てくれる?』

「もちろんです。」

『⋯やった。
これ私のLINEだから次の予約ここからして?』

「えっ?でも……」

『⋯これお店用だから。大丈夫。』


前のめりな圧に負けてしまい、
言われるがまま連絡先を追加して、その日は帰路に着いた。




"珍し。美羽が連絡先渡すなんて。"

『っ…!夏鈴さん……』

"⋯店用のLINEなんて無いのにね。
まあ、次もお客さん来てくれるなら私は何も。"

『⋯はい。』

(⋯○○くん格好良かったなぁ。)




あれからひと月程経った頃。

新しい髪型は思った通り、友人達から好評で
"彼女が出来ました"というクチコミも案外嘘では無いのかもしれないと感じていた。

一ヶ月も経てば、
また髪が伸びてきたなと思う頃合に。


思い立ったが吉日という訳で
少しばかり緊張する手で村山さんにメッセージを。


送ってから数分後、
すぐに村山さんからの返信が来た。


【明日の閉店前とか空いてるけどどうかな】


【大丈夫です!それでお願いします。】






翌日。

この間より遅い時間帯にお店へと向かう。

以前はどんな店なんだろうって不安と好奇心を抱えていたけれど、
今は楽しみで仕方ない。

その理由は様々で。




『⋯あ。○○くん。』


店の扉を開けると出迎えてくれたのは村山さん。
ふんわり巻かれている髪にお洒落な服装。

今日も一段と綺麗だなぁ…なんて考える。


『じゃあ、ここ座って。』

「はい。」

『今日はどうする?』

「この前村山さんにお任せしてとても良かったので
今回もお任せ出来たらなぁって。」

『⋯ふふっ。そんなに良かったんだ。嬉しい。』

『そしたら切っていくね。』


相変わらず手際の良いカットで切られた髪は
ゆらゆらと床に落ちて行く。


『⋯い。』

『⋯お〜いっ。』

「っ…!?どうかしましたか?」

『さっきから呼んでもぼーっとしてるから…
どうしたんだろって。』

「あ……切るの上手だな〜って
完全にぼーっとしてました。」

『⋯それなら良いけど。』

『で、○○くんは彼女居ないの?』

「⋯んえっ!?き、急になんですか!」

『いいから。答えて。』

「い、居ないですけど…」

『⋯ふーん。勿体ないね。』

「そういう村山さんこそ、どうなんですか?」

『ん〜。内緒っ。』


そう言うと、八重歯を覗かせて悪戯に笑う。

こんな綺麗な人に彼氏いない訳ないよ……


でも、一体なんでこんな質問してきたんだろ…。


そんな疑問を洗い流すかのようににされた
シャンプーは眠ってしまいそうなぐらいに気持ち良かった。




『今日もこんな感じで…どうでしょう?』

「ありがとうございます。バッチリです。」


あっという間にブローとセットが終わり、
名残惜しさを感じながら会計に。


『⋯○○くんが今日最後のお客さんなんだよね。』

『今日はもう夏鈴さんも帰っちゃったし…』


少しだけ声を落としてそう言う村山さん。

夏鈴さんとはあの金髪の美容師さんだろう。確かに今日は店内がより静かな気がしていた。


『⋯ねえ。この後予定あるの?』

「僕は何も無いですけど…」

『じゃあさ、少し待ってて…?』

「⋯えっ?」

『いいから待ってて。』

「は、はいっ。」


そうして、店の奥に消えてから数分。
厚手のコートを羽織って、出てきた村山さんはまた一段とお洒落に見える。


『待った?』

「いや、全然大丈夫です。」

『⋯そっか。』

『じゃ、行こ?』

「行こうって何処にですか…?」

『もうっ……鈍感。』

『こんなに格好良くしたんだからデート。行こ?』

「⋯⋯えっ。」

『ほら、行くよ。』


村山さんは僕の手を軽く引くと、歩き出す。

横を見ると、冗談だと思えないぐらいに紅く染まっている彼女の耳。


『⋯とりあえずご飯食べに行こっか。』

「そ、そうですねっ…村山さん。」

『⋯んっ、デートなんだから下の名前で呼んで。
あと敬語も駄目っ。』

「村山さんって下の名前は……?」

『⋯えっとね……』





僕が生涯愛したい人の名前を
聞いたのはこの時だった。




end.


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