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ワンオペ夜勤中に逆ナンされた話。

「はぁ…今日もダルいな…」

夜も深まった深夜2時頃…。
時給も良くそこまでやる事も無さそうという理由で応募したコンビニバイト。
いざ働いてみると接客に品出しに清掃にetc…
しかもワンオペで回せだなんて。

やってらんないよなぁ…

そんな事を思っているとまた来店を知らせる機械音が鳴り響いた。
仕方ないのでレジに入り、買い物を待つ事に。

『…んっふふ〜ん』

後ろから見ると若い女性のようで上機嫌さを醸し出し歩く姿はまさに千鳥足。

僕は深夜に来る客で1番面倒なのは未成年と酔っ払いだと思っている。
年確をするとキレる未成年。タクシーを呼べだの無駄に絡んで来ては偉そうな酔っ払い。こっちはただのコンビニ店員なんですが…。

絡まれない事を祈ろう…

そう思っているといつの間にか目の前に先程の女性が。
綺麗系な顔立ちな高身長な美人。
目の保養になるなぁ。なんて思いつつも適当に挨拶を済ませて会計を進めていると…

『ねぇお兄さん。』

「はい。」

『えっ、ちょっとタイプかもって…ふふっ。』

ちょっとって何だよ…と思いつつ内心は綺麗な女性に褒められて少し嬉しくはあった。
いや、絡まれるのは少し面倒。

「はぁ…ありがとうございます。それで、お会計---円になります。」

すると少しムスッとした表情を見せて

『ね、もうちょっと。』

「いや…お会計の方を…」

『●●くんって言うんでしょ?私美羽ちゃん。』

「いや、なんで名前…」

『名札。便利だね〜んふふっ』

急に名字を呼ばれてゲッとした面持ちでいると

『私お酒沢山呑んでね、』

『気付いたら知らない所来てたんだけど今日は正解だったかもっ。』

『だから連絡先交換しよっ?』

だから???
だからの意味が分からないんですけど…まだやる事残ってるっていうのに…。

「い、いや良く分からない人とはちょっと…」

「仕事中ですし…」

急に起こったこの状況に疲弊しつつ、頭の中で思い付いた言い訳を必死に並べてとりあえずこの状況を打破しようとした。

すると一呼吸、間が置かれて美羽さんはレジ台に手を着き前屈みになり

『●●くんお顔好きっ。』


「えっ、、」

お酒のせいか少し頬を赤らめながらニコッと綺麗な八重歯が見える美羽さんの姿に思わず、こっちまで顔が紅潮してしまいそうだった。

『ほら携帯持って来て?』

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「じゃ、お先にお疲れ様です…」

暗かった夜空とは一変、疲れた身体には少し眩し過ぎるとも感じる朝日の下。

「結局交換しちゃったな…」

あの後、結局僕は美羽さんと連絡先を交換し、『絶対連絡してね?』との一言を置き土産に去っていった。
埒が明かないなと思ったのは事実だが、それ以上に至近距離であんな事を言われてしまっては心がときめいてしまったのも事実…。

少しの期待と気だるさを感じつつ連絡してみる事に。

《昨日の店員です。覚えてますか。》

それだけ送り、忘れられてたら仕方ないよなと携帯を閉じ、帰宅した後すぐに寝た。


目が覚めると茜色の光が窓から差し込んでいて「もう夕方なのか…」と悟った。
すぐ横に充電した携帯を手に取ると"あの人"から通知が来ているのが分かった。

《覚えてるよ。》
《この日暇なら会お》

端的な文面に記憶無かった訳じゃないんだと一種の安心感を感じつつ、指定された日に会う事に決めた。

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数日後。
時間より少し早く待ち合わせた喫茶店に向かうとあの日とは違った落ち着いた雰囲気で待っている美羽さんが居た。

「どうも。」

『あっ…。ん、久しぶりだ。』

座ったままだったので上目遣いで顔を上げてそう話す彼女に素っ気なさを感じつつ、席に着き、適当に飲み物を注文した。

「今日は雰囲気違うんですね。」

『呑んでないから。』

伏し目がちになって呟く所に全く違う印象を受けたが相変わらず綺麗だった。

「あー、ですね。」
「今なら私美羽ちゃんとか言わなそうだし」

何気なく発した一言に一瞬顔をこちらに向け、また顔をそむけた彼女は

『ちょ、っと…』
『それ恥ずかしい……』

と恥じらいながら顔を伏せた。
顔を伏せてもちょこんと見える耳がみるみる赤くなっているのが分かった僕は心の中で新しい季節の訪れを感じた。

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