天邪鬼ガール
ふぅ…疲れた。
机に向かって何時間経っただろうか。終わらせなければならないタスクをあらかた片付けて冷蔵庫へ向かう。
なぜなら高級アイスが待っているから…!
「あれ?買っておいたアイスが…」
しかし、いくら探しても見当たらない。
自分へのご褒美だったはずのアイスがいつの間にか無くなっている。
まあ、あらかた犯人の目星はついているんですけど…。
「美羽〜??」
『ん。イチゴあるの珍しくて。』
何食わぬ顔で自白した犯人はなんやかんやあって付き合っている美羽さん。
「ちょっと美羽…せっかく買っておいたのに。」
『えへっ、許して』
この頃、人が買っておいた食べ物やら飲み物を勝手に食べてはこの無邪気さで誤魔化される始末。
これはお灸を据えてみるか…
大人気ないとは分かりつつも「食の怨みは重いぞ…」と控えて貰う為に少し意地悪してみることにした。
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『夜ご飯はお肉がいいー。』
『おーい。』
いつもだったら可愛い彼女のこんな問いかけに即答してしまうのだが、敢えて聞こえない振り。
『ん〜○○。』
「…さっきアイス食べたから要らないでしょ?」
『なにそれ。』
明らかに機嫌を悪くした声でそう言い放った美羽は寝室の扉を閉めて消えてしまった。
流石に夜ご飯抜きは可哀想なので「肉料理何がいいだろう」なんて考えつつ、
いつもの仕返しだ…とこの時は思っていた。
しばらく経ってご飯の支度をした僕は美羽の元へ。
「美羽、ご飯出来たよ。」
そう呼びかけると毛布の上からひょこっと目元だけ出して僕の顔をじっと見ると、
『どうせ私の分ないもん』
と、拗ねた口調で一言。
「ちゃんとあるから…」
「肉がいいって言ったから肉じゃがにしたよ?」
どうにかご機嫌を治してもらおうと必死に説得する。
いやご機嫌斜めこっち。アイスをね食べたい。
『…分かった』
やっぱりムスッとしながらもベッドから出ると食卓へ着いた。
いつもなら『これ美味しい。』なんてちょっと照れくさそうに伝えてくれるのだが、今日はそうもいかない。
「美味しい?」
『……ん。』
まだ反応が貰えただけ良いか…なんてと思いつつも、今日の食卓はテレビから聞こえる笑い声だけが響いて終わった。
これは長引きそうな予感…
そう考えながら洗い物を済ませている最中、背中に柔らかい温かさを感じた。
『…まだ怒ってる?』
背中越しに小さな声でそう問いかけられる。
「ううん。」
『その…ごめんね』
「こっちこそ意地悪してごめん。」
そう伝えると抱き締められてる腕がぎゅっ…と強くなった。
水道から流れる水音だけが響いた後。
『アイス。』
『奢るから買いに行こ…』
美羽から精一杯の謝意を感じた僕はすぐ手を止めて振り返ろうとする。
だけれど身体に絡められた腕に、さらに強く抱き締められた。
『泣きそうだから、や。』
そう言って顔を僕の背中にくっ付ける美羽が愛おしかった。
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その後
近くのコンビニまでどこか満足気な足取りで手を引っ張られながら向かった。
家に帰るとすぐに『アイス〜。』なんて言うから直ぐにレジ袋から取り出して一緒にくっつきながら食べる事に。
あれ…?あなた今日2個目ですよね??
なんて事は口に出したら御法度。そんな事を思っていれば、
『○○のあーんして』
「えっ。」
『はやく。』
控えめに口を開けて待っている彼女に、一口。
『ん。好きぃ。』
一瞬ドキッとしたものの自分の口元にもアイスを運ぶ。彼女も自分のアイスを口元に。
『○○もお口開けてー?』
そう言われたので口を開けて待っている事に。どんどんと彼女が近付いてくる。
んっ…
気付いた時にはもう遅く、口に広がったのは違うフレーバーの風味と生温い感触だった。
今日がまだまだ終わらなそうな合図と共に。