バロックフルートについて
以前は古楽器にはあまり関心がありませんでした。ですのできちんと勉強したり調べたりしたこともありません。まさか自分でトラヴェルソ(バロックフルート)を作るなんて考えてもみませんでした。
それなのに何故・・かというと、ただ単にミニチュア(下の画像)を作っているうちに音の出る本物の楽器を作ってみたくなったという単純な動機です。
トラヴェルソは今まで全く触ったことも吹いたこともありません。運指はおろか左手親指には塞ぐ穴がないことさえ知りませんでした。
アウロスの AF-1 というプラスチック製のトラヴェルソを購入して、まずは音を出すことを始め、この楽器を採寸して新しい楽器の図面を引きました。
古楽器は A=415Hz のピッチのものが多いのですが、ガチの古楽を勉強するつもりもないので A=440Hz のモダンピッチの楽器を作ることに決めました。その方が自分の環境では色々と都合が良かったもので。
なんとか試作の1本目を形にすることができ、それから立て続けに7本の楽器を製作しました。そのうちの3本は商品として販売中ですが、残りはまだ調整中です。今のところすべて異なる種類の木を使用しているのですが、それぞれに個性があって面白い仕上がりです。売れなければ困るのですが手放すのもなんだか惜しい気がして困ります。
演奏することの楽しさ
このところは殆どバロックフルートしか吹いていないのですが、予想以上にハマっています。
音程は自分で作らなければ音痴だし鳴り難い音もあり音も小さい・・・と欠点ばかりのようですが、それらの制約をコントロールしつつ緻密な演奏をすることは、モダンの楽器を朗々と心地よく響かせるのとはまた違った醍醐味があります。
昨今のコロナ禍で大人数での合奏や大きな会場での演奏の機会が少なくなり、家でひっそりと演奏することが多いのではないでしょうか。そんな状況にはピッタリの楽器だと思います。大声を発して人に伝えるというよりも、内なる思いを声に出し自分自身に問うてみる・・といったイメージです。 これを機に大きなホールで不特定多数の聴衆に届けることを主眼とするよりも、もっと小さな空間で顔の見える人々に語り掛けるような演奏形態を中心に移行していくことが望ましいのではないでしょうか。それと同時に好まれる楽器の性格も変わってくると思います。
そんなことを考えながら、できあがった私の楽器が日の目を見ることを密かに願っているのでした。