命より大切なこと
叔父が熱中症で亡くなった。叔母のお墓の前で。
父から電話で知らされた私は、ちょっとパニックになった。
なんで?
叔父は病気で入院しているはずだった。
よくよく聞いてみると、叔父は自分が入院しているせいで、叔母のお墓の掃除ができていないことをすごく気にしていたらしい。
退院したらすぐにでも行きたい、と周りにもらしていた。
真夏のお墓掃除は若い人でも危険だから、もっと涼しくなってから行くようにと、散々注意されていた。
退院の翌日。
近所の人が、お墓でうつ伏せに倒れている叔父を発見した。
救急車で運ばれた時はもう手遅れだった。
せっかく病気が回復したのに。
叔父と叔母には子どもが一人いるが、社会人になってから遠くに住んでいる。
だからずっと二人っきりだった。
数年前に叔母に先立たれ、独りになってしまった叔父。
仏壇やお墓には叔母の好きな花を欠かさず供えていた。
お墓に向かっているときの叔父は、私には想像もできないくらい幸せだったのだろう。夢中で草をむしっているときも、暑さなんて1ミリも感じていなかったのかもしれない。
自分の命より大切なものが、そこにあるから。
その日、叔母のお墓はきれいな花であふれていた。
(おわり)