【一人用声劇台本】雨の日に
雨が降っている。
「寒い……」
ぼろぼろのリュックから、真新しい手袋を取り出す。ぼうっと手袋を眺めて、よし、と決心をした。
「何してるんですか」
あっ、リュウ君だ。
雨の日に、リュウ君は必ず現れた。どこか不思議な男の子だった。
「手袋を……しようと思って」
私がそう答えると、リュウ君はおかしそうに笑った。
「早くつければ」
あっ、敬語が抜けた。多分年下のリュウ君は、いつも私に敬語を使う。でもたまにこうやって、敬語が抜けるときがあるのだ。私はどちらかというと、敬語ではないリュウ君のほうが好きだ。--------なんとなく、そのほうがあっている気がして。
リュウ君の言葉に頷きつつ、私はまだ手袋をはめてはいなかった。先程の決心も、リュウ君登場のせいで水の泡だ。
--------なんて、リュウ君のせいにしたら怒られるかな。
いつまでたっても手袋をつけない私を見て、またリュウ君は笑っていた。
不意に問われる。
「それ、大事なもの?」
激しい頭痛がした。
うん、とも、ううん、とも答えられず、私は途方に暮れた。頭痛は一瞬で消え、気のせいかもしれなかった。
「わからない」
そう言えばリュウ君は笑って--------くれると思ったのに、目の前には真剣な顔をしたリュウ君がいた。
「それ、大事なものだよ」
また、先程の頭痛が襲った。
「花」
それは私の名前だった。一度も言っていないはずなのに、どうしてリュウ君がしっているの。頭が痛い。
「花、俺の名前は龍」
知っている。
「俺と花は同い年。同じ、誕生日」
それが何を意味するのか、私にはわからなかった。でもそっか。同い年なんだ。だから敬語はおかしかったんだね。
「それ、大事なものだよ」
私は手袋を見る。可愛らしい花柄。よく見ると親指の付け根あたりに、龍が描かれている。
ああ。
私は全てのモヤモヤがなくなったような気がした。頭痛も消えた。
「リュウ君が--------龍がくれたんだったね。私たちの誕生日に」
龍は静かに笑っていた。
私は光に包まれ、意識を失う。
最期に見たのは、双子の片割れの優しい涙だった--------。
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