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政治に対する雑感10-自民党総裁選・立憲民主党代表選に想うこと(後編)

 9月23日の立憲民主党(以下「立民党」)代表選、9月27日の自民党総裁選に関する雑感です。後編の今回は立民党代表選に関する考察になります。


立憲民主党代表選挙

選挙を意識した党首の選出

 前回の記事でも触れたが、立民党が元首相の野田佳彦を代表に選出したのは自民党同様に無党派層の動向、党員の支持傾向を踏まえて総合的に判断したものであると考える。立民党も自民党同様1回目での選出ではなく、決選投票で野田が元代表の枝野幸男を破って選出された。ただ、野田の場合は、ほぼ想定の範囲内であり、サプライズと言えるものではない意味で自民党の総裁選出と異なると言えるだろう。

立憲民主党代表選出に対する評価

 立民党が野田を選出したことに対して、自民党と異なるイデオロギー、理念としての政治を求める人々からの反応はいいものとは言えない。

例えば、三春充希は名前こそ挙げなかったものの、野党が保守的なスタンスになることについて以下のような懸念を示す文章を書いている。

野党が自民に接近すれば「それなら自民党でかまわない」と思われて当然です。
 そうである以上、外部の者が勝つのには、外部から自民党を否定するというシンプルなことをやるしかありません。原則として全ての小選挙区に与党の候補が立つ以上、生存競争としてそれと闘うことが求められるのです。   
 外部から保守寄りのスタンスを示しておこぼれの比例票をもらうことはあり得ても、小選挙区で大局的に勝つことは決してないでしょう。

はじまりの、そのまえに

その一方、立民党が野田を新代表に選出したことについて、上久保誠人のように以下のような肯定的な評価がある。

自民党を政権から一度降ろしたい、政権交代を実現したいと望む人がいる。それには、「シン野党連合」が合理的だよと言ってきたのだ。
「シン野党連合」とは、端的に言えば、従来の共産党と立憲民主党の、いわゆる「立憲共産党」による野党連合ではなく、共産党を切り捨てて、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会の連合で、現在5-6割とされる「無党派層(私は「サイレント・マジョリティ」と呼ぶ)」を総取りして政権交代を実現するものだ。
野田佳彦立憲民主党新代表が言っていることは、まさにこれでしょ。
ようやく、立憲民主党がまともな方向に顔を向けた(顔を向けただけです)。

(※1)

 2人のスタンスはそれぞれ異なる。三春は立民党を進歩(リベラル)政党である以上、その理念面を軽視し、保守化することが選挙で敗北すると主張しているのに対し、上久保は有権者が進歩的な主張を忌避する傾向があるとの考えに基づき、共産党との協力をしたことが立民党の低迷の原因であるとの考えに基づいている。ただ、2人とも立民党の代表については、政治的理念、方向性という点から評価している意味では共通している。その意味では野党の党首選は旧社会党時代同様に、政治上の理念面をどう評価するかが強調される方向にあると言える。逆に言えば、野党に対して政権党を担うにあたっての具体的な政策をどうするか、といった地に足の着いた議論がなされない、求められにくい傾向にあるとも言える。

自民党に代わる生活者の政治を打ち出せるか

 私は立民党が自民党に代わる政権党となるには、理念の方向性も必要だが、それと同じくらい有権者の現状の政治に対する不満、また生活改善を求める声に、どれだけ具体的かつ説得力ある政策を打ち出せるかにあると考える。

 55年体制時の野党である社会党・共産党による首長である、革新自治体は、1970年代に都市部を中心に登場しているが、高畠道敏はその背景について次のように評している。

 政府・大企業主導型の経済成長は、都市の生活環境を急速に悪化させ、また、農村や大家族などの共同体から投げだされた経済的弱者たちの福祉問題を深刻化させた。他方、大都市の巨大な社会組織の中で疎外された孤独な群衆は、より人間的なコミュニティの建設を求めて、地方自治への住民参加を主張する。
 こういう意味において、60年代末以降の地方政治の主題は、これまでのような中央直結による地方の振興ではなくて、住民福祉(シビル・ミニマム)を保証し、住民の政治参加を重んじる地方の自治へと移っていったといえよう。それが革新自治体という形をとったのは、自民党の政策に対する反感のあらわれであり、革新政党の側で、このような住民の意識に応える革新的政策の体系があったわけでは必ずしもない。(筆者注:数字は原文では漢数字)

高畠道敏「政治学への道案内」P244 三一書房

地方自治体の首長という直接選挙の違い、時代背景の違いはあるものの、自民党の政策に対する反感に対する要望に革新、即ち旧社会党、共産党の側がそれを政策として打ち出せるだけの政策を持っていなかった点においては、現在の立民党についても共通した課題であると言えるだろう。また、旧民主党が一度政権党になれたのも具体的な政策の提示よりは、自民党政治に対する反感の形で表れたという点で革新自治体の誕生と共通する。

 立民党は今年7月に行われた東京都知事選挙では、本命候補とされた蓮舫を共産党とともに実質支援しながらも、小池百合子にはもちろん無党派候補である石丸伸二にも負けるという惨敗を喫している。状況は旧社会党よりも深刻であると言えるだろう。

自民党と異なる地に足の着いた政策を

 立民党に求められる政策は、政治の不満、生活改善への具体的かつ説得力ある政策の提言の提示だけではない。加えて、自民党と異なるオルタナティブとしての政策も求められる。野田が代表に選出される前の記事であるが、志葉玲は原発ゼロを掲げないとした野田のスタンスについて以下のように批判する。

 野田元首相は、今回の代表選で政権交代への強い意欲をアピールしているが、仮に野田元首相が立憲民主党の代表となり、(その可能性は低いが)政権交代を実現させたところで、自公政権と政策が変わらないのであれば、政権交代の意味自体が希薄になる。野田元首相は、一応、エネルギー政策について、「足元での安定供給の確保を大前提に、中長期的には再生可能エネルギーを可能な限り大量に導入し、原発に依存しない社会を実現」するともしているが、その程度のことは、自民党でさえ、言葉だけにせよ掲げている政策である。

存在意義が問われる立憲民主党―有権者への裏切りと党崩壊、再び?

 野田は原発について、「原発に依存しない」社会を目指し、また新増設はしないとは主張している。(※2)だが、それであれば、どのような形で原発に依存をしないエネルギー政策を提示するのかが求められている。段階的に老朽化した原発を廃炉にすることで、原発依存度を低下させることはもちろんそれに代わるエネルギーの確保、あるいは省エネによる循環型社会をどう築くかを自民党と異なるオルタナティブとして提示するかが求められるのである。それが提示されない限り、立民党が自民党に代わる政権党たり得る政党としての信頼を有権者から勝ち取ることはできないだろう。

 このほかの政策については、NHKの立民党代表選挙サイトが注目される(※3)。野田の政策の特徴としては、農政について国立農業公社を創設し農業の人材育成を図るとしているほか、世襲政治の規制が挙げられる。農政については、農業収入の不安定さによる人材離れを阻止する一つとして、農業の人材育成、農業をどう活性化させるかという点で注目に値する。できれば、農家への個別所得保障制度の強化と併せて対応すべきだろう。経済的な基盤の弱さが農業の衰退傾向と関連があると言えるからだ。世襲政治の規制は自民党総裁・首相の石破茂が2世議員であることも考えると、後援会中心による議員活動に依存しがちな選挙風土の体質を改める意味で評価できる。ただ、自民党と比較した際にはまだまだ具体策の点ではもちろん、それに代わりうる説得力ある政策を提言できる段階には至ってはいないだろう。その意味でも立民党に求められるのは、各候補者が国政選挙はもちろん、自治体選挙においても有権者が何を求めているのかを理解し、具体的かつ説得力ある政策を提言するとともに、こまめに政治活動を行っていくことが求められている。 

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

脚注

(※1) 野田佳彦新代表の登場で、ようやく立憲民主党が「シン野党連合」の方向に顔を向けた。遅いけど。(上久保誠人)

(※2) 立憲民主党代表候補、原発巡り現実路線 「即ゼロ」印象払拭狙う - 日本経済新聞 (nikkei.com)

(※3) 立憲民主党代表選挙2024 政策・主張|NHK


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