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2024年東京都知事選挙において争点とすべき政策について(後編)

 2024年東京都知事選挙に関連して、都政の課題について、私が重要と考える問題に争点を絞って2回に渡って考察して参ります。前編は青少年福祉に関する政策について考察しました。後篇の今回は晴海フラッグ住宅問題などについて考察します。


晴海フラッグ(旧選手村)住宅問題

 旧東京オリンピック選手村を住宅棟に整備しなおした晴海フラッグのうち、サンビレッジ街区において、投資会社、不動産売買の会社などの法人名義で取得されていた部屋が4分の1に上っている。(※1)晴海フラッグは、東京都が所有する土地を、民間の不動産会社に移譲する形で住宅棟を整備している。以上の経緯からすれば、投資目的による住居の取得は、広く住民に住宅を提供するという公共性の観点に反し、極めて問題と言わざるを得ない。この問題について、都市政策を専門とする明治大学政治経済学部教授野澤千絵は以下の点を指摘する。

 過度に投資対象になってしまったことで、この街に本当に住みたいというファミリー層が締め出されてしまうという結果になってしまいました。

首都圏 ネタドリ! 2024年6月7日 

また、野澤はマンションに住む住人と投資家とは観点が異なるため、修繕積立金の増額が必要となった際に、修繕を優先したい住人側と、保有コストを望まない投資家との間での対立から、マンション管理の合意形成が難しくなる可能性を指摘している。

 東京都の担当者は当初NHKの取材に対し、投資目的の販売を想定していなかったと回答した。(※2)しかし、東京都は港区にある公有地の分譲マンションについては、① 居住用であること、② 一世帯について一住戸とすること、③ 法人には販売しないこと、④ 5年間の売却禁止、又貸しの禁止、⑤ 毎年の住民票、登記記録の証明の提出といった条件を付けていた。(※3)

 以上の指摘について、NHKが再度東京都の担当者に問い合わせたところ、晴海フラッグの事例は再開発事業の施行者である東京都に代わって、民間事業者である特定建築者がマンションなどの販売を行う民間事業者制度を活用しているという。そのため、マンションの販売の権利は特定建築者である民間事業者にあり、施行者である東京都は販売に関与できないと回答した。(※4)以上の回答について先に挙げた明治大学の野澤は以下の点を指摘する。

 そもそも特定建築者制度を使う・使わないという手法の違いによって、東京都が関与できる・できないとなる仕組みそのものがおかしいのではないか(略)
 今後、特定建築者の募集要領、都市再開発法や特定建築者制度そのものを時代の変化に応じて見直していくことが必要。販売の局面で都が全く関与できないとする手法を選んだことが正しかったのかどうかは検証されなければならない

首都圏 ネタドリ! 2024年6月7日

 東京都が、不動産業者などに払い下げた旧選手村の譲渡額についてはその妥当性を巡って訴訟が起きているほか、(※5)晴海フラッグ、神宮外苑の事業に関わる三井不動産関係会社への都庁OBの天下りの問題(※6)などが起きている。以上の点なども考慮すると、晴海フラッグの問題は東京都の住宅政策の在り方自体の問題に関わってくると個人的に考える。東京都の住宅政策全般について、もっと議論が深められるべきだろう。

プロジェクションマッピング問題に見る都政の問題

 東京都が2024年度予算として計上したプロフェッションマッピング関連費用の9億5000万円についてはSNS上でムダであるとの批判があがっている。また、事業の運営が東京都が入札を禁止している「電通」のグループ会社である「電通ライブ」であることの問題、事業の入札過程の不透明性が指摘されている(※7)。

 また、都庁前でNPOが貧困層を対象とした毎週土曜日にお行われている無料の食品配布を行っていることを考慮すると、都庁本庁舎のプロジェクションマッピング自体が、公的機関が果たす役割として違和感を抱くと指摘する記事があった。(※7)同記事では、無料の食品配布を求める利用者には路上生活者に留まらず、アルバイトを掛け持ちする若者、赤ちゃんを抱える女性など様々であるが、生活に苦しんでいるため、支援を必要とされる人々がNPO任せになっていることを批判している。同記事では東京都などに対し以下のことを呼びかける。

 都や区などの自治体職員に呼びかけたい。せめてこの場所で、相談会や生活保護申請を受け付けてもらえないか。配布会は困難さと直面している人々に出会えるチャンス。(略)市民が自ら申し出なければならない制度を使えない「申請主義」から前進し、共助から控除につなげるきっかけを生みだせないか。

2024年6月26日 東京新聞 朝刊 P6

 生活保護や福祉を必要とされる人々の多くは、行政や社会による差別、偏見により、人として受けるべき生活する権利を得られない状況にある。このような不条理な状況を打開するには、社会的弱者が求める社会福祉に対して、行政の側が後ろ向きにならず、正面から向かい合うことが求められる。開発中心のハードを重視した行政を改め、経済的、社会的に苦しんでいる人びとが人として生きる権利が保障されるソフトを重視した行政への転換は、手厚い予算がある東京都こそ積極的に行うべきだと考える。

公約やメディアで掲げられない問題への注目を

 以上、2回に渡って私が注視したい東京都政の問題について取り上げてきた。今回のnote記事では取り上げなかったが、小池百合子が東京都知事になってから、関東大震災時の朝鮮人虐殺への追悼文を送らなくなった問題については、差別・偏見を続ける私たち-関東大震災朝鮮人虐殺から100年に想う-に書いたので、そちらをご参照いただきたい。

 東京都知事選挙を巡る、メディアの動向や、周囲の状況を鑑みると、有権者各々が主体的に都政の問題を探し、互いにどう考えるかを議論することで、都政の問題点、あるべき都政の在り方を理解し合うという環境整備が整っている状況にはない。ただ、東京都知事を選ぶにあたっては、選挙の争点とされていることだけに留まるのではなく、自らが主体的に争点以外の、都政、東京都の行政の問題を探すことが求められるのではないか。主体的な判断による投票行動がなければ、誰が東京都知事になってもお任せ民主主義の域は出ない。政治教育の在り方全般が問われていると言えよう。

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。

脚注

(※1) 晴海フラッグ 東京オリンピックの選手村を改修 法人所有4分の1以上の街区も 投資目的の実態は | NHK | 東京都

元選手村「晴海フラッグ」は誰が買った?1089戸を徹底調査~そこから見えたものは | NHK

(※2) (※1)同

(※3) 追跡 晴海フラッグ ファミリー向けマンションがなぜ投資の舞台に 東京都の回答は | NHK

(※4) (※3)同
なお、NHKが国土交通省に照会したところ、法律上は特定建築者が建物の権利を持つが、施行者(である東京都)が販売に関与できないということは法律上定められていないとのことである。

(※5) 【焦点】東京五輪選手村訴訟 最高裁審理せず上告棄却 五輪に忖度か 原稿団、最高裁に抗議声明送付、5月31日に集会開く=橋詰雅博: Daily JCJ (seesaa.net)

(※6) 「東京都は土地をすごい勢いで三井不動産に差し出している」 小池都政の「三井ファースト」に疑問の声(全文) | デイリー新潮 (dailyshincho.jp)

なお、同記事では東京都知事選挙の争点の一つとなっている神宮外苑の再開発問題についても、三井不動産が事業に関与していることに言及している。

(※7) 「ブラックボックス」を正すと語っていた小池知事…プロジェクションマッピングの開示は「ほぼ黒塗り」 | FRIDAYデジタル (kodansha.co.jp)

(※8) 2024年6月26日 東京新聞 朝刊 P6

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